リハビリmemo

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歩容から見る変形性股関節症の重症度


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変形性股関節症(変股症)患者の歩容から変股症の重症度がわかるのだろうか?

変形性股関節症の患者によく見られる歩行パターンとして、矢状面上での立脚中期以降の股関節伸展不全が認められ、これは「motion discontinuity; MD」と言われている。(下図:Hurwitz, 1997より改変)。*点線:MD、実線:No MD

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MDのような歩行パターンは、股関節症の重症度が高い症例に多く見られ、歩行パターンと重症度の関係性が示唆されている。

今回、紹介する報告は、MDを有する変股症患者と重症度、歩行パラメーターとの関係性について検証したものである。

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Sagittal plane hip motion reversals during walking are associated with disease severity and poorer function in subjects with hip osteoarthritis.

Journal of Biomechanics, 2012

対象は、片側の変形性股関節症患者150名、健常者159名。

変股症の重症度は、Kellgren-Lawrence grade(KL grade)にて分類された。

3次元動作解析、床反力計を用いて以下の項目を検証した。

①MD歩行パターンの有無

②歩行時の股関節の最大関節可動域:屈曲、伸展、内転、外転、外旋、内旋

③歩行時の股関節モーメント:屈曲、伸展、内転、外転、外旋、内旋

得られた結果を統計的に分析した。

その結果、

①MDは変股症患者の53%に認められ、特に末期変股症の60%で確認された。

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②歩行時の股関節可動域は、MDの股関節症患者の全ての可動域において有意な減少が認められた。

③歩行時の股関節モーメントは、MDの変股症患者の伸展、内旋モーメントに有意な低下を認めた。

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結果より、MDを有する変股症患者は、歩行時の股関節関可動域の低下、股関節伸展・内旋モーメントの低下が特徴的であり、変股症が重症な患者ほど、この様な歩行時の特徴を有していた。

以上から、変股症の重症度とMDの関係性が示され、重症なほどMDを有することが示唆された。

 

とのこと。

歩行時の矢状面上で見られる股関節の伸展制限(dynamic joint stiffness)を示すMDを有する患者さんは、高い確率で変股症の重症度が重度である可能性を示唆している。

変股症患者さんの歩行を初めて見るとき、運動学的な情報のみでなく、歩容から股関節症の重症度がわかれば、その後のアプローチが大きく変わり、リスク管理もできるだろう。

特に、保存療法のみで治療を行っているセラピストは、このMD歩容と端座位での股関節内旋可動域(過去ブログ)を測定することによって、変股症の重症度を高い精度で推測できるのではないだろうか。

ぜひ、臨床で試して新たな知見としていただきたい。

 

 

股関節リハビリシリーズ

股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント

股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点

股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由

股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方

股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か

股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2) 

股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント

股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント

股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法

股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度

股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法

股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展

股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法

股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント

股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)

股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ

 

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