リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

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日本で従来より多く行われている人工股関節置換術(THA)の手術は

・15〜20cmほどの皮膚の切開

・歩行に重要な股関節の筋肉(外転筋)の切離

が必要なものである。

 

皮膚を大きく切開することは股関節症の多い女性にとって好ましくないことであり、早期の歩行獲得においては、股関節の筋肉を切離することも望ましくないことである。

そのような中、米国では、1998年に皮膚切開が8〜10cmの最小侵襲の人工股関節置換術(minimally invasive surgery - THA:MIS-THA)が提唱され(Crockett HC, 1998)、日本においても2000年ごろよりMIS-THAを導入する整形外科医が増えてきている。

さらに、MIS-THAの成績を向上させるため、その進入方法も様々なものが報告されるようになった。2004年に従来の筋肉を切離する後側方進入ではなく、筋肉の切離が必要ない前方進入(Direct Anterior Approach: DAA)によるMIS-THAが報告され(Siguier T, 2004)、これを機に日本でもDAAによるMIS-THAが行われるようになった。

今回は、最新手術である「DAAによるMIS-THA」の利点と欠点をについて以下に述べる。

 

DAAによるMIS-THAの利点

・股関節の筋肉を温存できることによる早期の歩行獲得、跛行の改善が期待できる。

下記の写真の緑のラインが前方進入による筋間進入路であり、大腿筋膜張筋と縫工筋の間から進入する。他の進入法は赤いラインで示しているが、どこも筋肉を横切っている(筋肉切離)のがわかる。

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筋肉(外転筋)を温存できることにより、術後の早期からリハビリが行えることも利点である。最近では、後方進入のような筋肉非温存手術と比べ、歩行能力の改善(Mayr E, 2009)、階段昇降能力の改善(Lamontagne M, 2011)がより高いことが報告されている。

 

・脱臼リスクの減少

前方進入によるMIS-THA1,037関節の脱臼率が0.96%との報告があり(Siguier T, 2004)、これは、股関節症ガイドラインの1〜5%に比べてとても低いことがわかる。

 

・美容上の満足度が高い

従来の皮膚切開(15〜20cm)よりもおおよそ半分(7〜10cm)になるため、特に女性の満足度が高い。

 

・入院期間の短縮

小皮膚切開・筋肉温存により、術後の痛みの軽減と股関節機能の早期回復が得られることから従来のTHA術後に比べて入院期間が短くなることが報告されている(老沼, 2006、中田, 2006)。

 

DAAによるMIS-THAの欠点

・適応が明確でない

術式が新しいことがあり、適応についてコンセンサスが得られていない。脱臼度合いや肥満度、股関節拘縮の程度などにより適応が異なる場合がある。

 

・技術的に難易度が高い手術

まだまだ日本では新しい手術であるため、この手術を行える医師は限られている。また、手術が行えると謳われていても、手術難易度が高いため、一定のレベルに到達するのに多くの経験が必要であり、運悪く経験の浅い医師にあたる可能性がある。

Rachbauerらは、100例の平均手術時間が105分に対して、初期の症例では最長270分であり、最短の61分の症例は100例目であったと報告している(Rachbauer E, 2004)。

このように、手術の習熟度により手術時間が全く異なり、手術時間の延長は出血量の増加や合併症の誘発と関わる。

 

以上が最近手術である筋肉温存型人工股関節置換術(DAAによるMIS-THA)のまとめである。手術の利点はとても有益なものだが、熟練した医師の選定を誤らないことが重要であろう。

 

個人的には、この手術を希望する際に、「先生はこの手術を何件行ったことがありますか?」とは聞きづらいので、「私の場合、手術時間はどの位になりそうですか?」と聞いて、100分程度であれば熟練した医師と判断しても良いと思われる。しかしながら、手術時間は、患者個人の股関節症の状態により異なるため、最終的には医師とよく相談の上、判断して頂ければと思う。

 

 

股関節リハビリシリーズ

股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント

股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点

股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由

股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方

股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か

股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2) 

股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント

股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント

股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法

股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度

股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法

股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展

股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法

股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント

股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)

股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ

 

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