リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

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変形性股関節症の保存療法というと、股関節周りの筋肉のコリを改善し、歩行や動作時の痛みを和らげることが目的の1つになります。

では、関節軟骨に対してはどのような影響があるのでしょうか?

股関節症の増悪の明らかな原因の1つは「関節軟骨の破壊」ということが広く知られています。

この関節軟骨の破壊は大腿骨頭の軟骨の小さい部分に生じる荷重負荷によって始まります(Kamekura S, 2005)。

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上の図は、股関節症の歩行時に生じる大腿骨頭の軟骨面上の荷重分布を示しています。

白い部分が最も荷重が集中する部分であり、ここから軟骨破壊が始まります。

保存療法が軟骨面上の荷重分布を変化させることが可能であれば、前期・初期の股関節症の予防に大変、有用であることが期待できます。

今回、ご紹介するのは、保存療法によって歩行時の大腿骨頭の軟骨に生じる荷重分布の変化について検討した報告です。

 

Biomechanical factors influencing the beginning and development of osteoarthritis in the hip joint.

Horak Z,. Wlen Med Wochenschr 2011

対象は、片側のみに前期・初期の股関節症を有する患者さんです。

患者さんは8ヶ月の保存療法を受け、その効果について保存療法前と8ヶ月後の状態を評価しています。

測定は、まず、動作解析装置(下の写真)と床反力計を用いて、動作を客観的に数値としてデータ化します。

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 このデータをもとに、コンピューターによる数値解析手法(Finite Element Method:FEM)を用いて軟骨に生じる荷重を分布化します。

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その後、8ヶ月間、保存療法を行います。保存療法は主に、Lewitの提唱するManipulative Therapy in rehabilitation of the locomotor systemに準じて行っております。これは、主に神経生理学的アプローチを応用したストレッチなどが中心であり、自然な筋力のバランスに戻すことを目的にしています(詳しくは本書を参照下さい)。

保存療法の結果、まず、歩行時の股関節運動の変化が見られました。

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上の図は、歩行時の股関節の各運動方向の変化について保存療法前と8ヶ月後を比べて示したものです。

青い線が股関節症側赤い線が非股関節症側になります。

8ヶ月後のグラフをみると、青い線と赤い線が重なり合うようになっていることがわかります。これは、筋肉の柔軟性の改善により、歩行時の関節の動きが左右対称になったことを示しています。

また、関節運動(特に伸展や回旋)の動きが大きくなっているのもわかります。

次に、このような歩容の改善が大腿骨頭の軟骨に加わる荷重分布をどのように変化させたか?についてのFEM解析の結果です。

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上の図は、歩行時、軟骨表面に生じる荷重の軌道を示しています。

リハビリ前では、軌道が重なる部分があり(○印)、ここに荷重が集中していることがわかります。また、8ヶ月後では軌道が対称的に広がっていることがわかります。

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さらに、上の図は、軟骨表面に生じる荷重分布を示しています。

リハビリ前に見られる荷重の強い白い部分が8ヶ月後には消失しており、赤い部分も縮小していることがわかります。

 

このような結果から、著者は、保存療法は関節軟骨の荷重分布を分散させ、股関節症の進行を予防する可能性について示唆しています。また、人工股関節術後においても荷重を分散することにより再置換の時期を遅延させることにつながるだろうと述べています。

 

本報告は、保存療法の効果について、動作解析によりパフォーマンスが改善することを報告するとともに、FEMという数値解析を用いて軟骨への荷重負荷をシュミレーションするというユニークな報告です。

FEMは構造力学分野で広く用いられており、信頼性も認められている分析手法です。

この報告は、股関節症の保存療法が筋肉の改善に留まらず、筋肉の改善が歩行の改善に寄与し、結果的に軟骨に生じる荷重を分散させ、軟骨破壊の進行を予防する可能性を示唆しています。

保存療法を受けられている患者さん、行っているセラピストにとって有用な報告と思い、紹介させて頂きました。

 

 

変形性股関節症の保存療法

シリーズ①:変形性股関節症の保存療法と基本戦略①

シリーズ②:変形性股関節症の保存療法と基本戦略②

シリーズ③:変形性股関節症の保存療法と基本戦略③

 

変形性股関節症リハビリテーション

股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント

股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点

股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由

股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方

股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か

股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2) 

股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント

股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント

股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法

股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度

股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法

股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展

股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法

股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント

股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)

股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ