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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

人工股関節置換術とスポーツ

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先日、担当している変形性股関節症の患者さんから、人工股関節術(THA)後のマラソン復帰について相談を受けました。

最近では、このようなスポーツ復帰の相談を受ける機会が少しずつ増えているように思います。

厚生労働省の平成20年度国民健康・栄養調査結果からも年々、スポーツ人口が増加していることが示されており、また、人工股関節置換術も増加傾向で、今後もさらに増加することが予測されています(Kurtz S, 2007)。

このような背景から、今後、人工股関節置換術を受けた後に、スポーツを行いたいと希望される患者さんも多くなることが見込まれます。

しかしながら、術後のスポーツ復帰には、未だに一定のコンセンサスやエビデンスが少ないのが現状です。

特に、

①推奨されるスポーツ活動や人工関節への衝撃度

②スポーツを行うことによる人工関節の長期成績

③スポーツ活動の復帰時期と頻度

という点です。

今回は、これらの問題点について、現在、わかっていること、わかっていないことについてまとめてみます。

人工股関節置換術を受ける方、受けた方でスポーツに興味がある方のお役に立てれば幸いです。

 

1. 術後のスポーツ推奨度と衝撃度

下の表はTHA術後のスポーツ推奨度を種目別に示したものです(Healy WL, 2008より筆者作成)。

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許可されているゴルフや水泳、ウォーキングなどは比較的、股関節への負担が少ないものでまとめられています。

スキーやスケートなどスキルが伴い、転倒の衝撃が強いスポーツは「経験者」という条件付きで許可されています。

許可されていないスポーツは、サッカーやバスケットボールなどのコンタクトスポーツ、転倒頻度の高いスノーボードとなっています。やはり、脱臼や骨折のリスクがあるのでしょう。

次の表はスポーツ種目別衝撃度を示したものです(Healy WL, 2008より筆者作成)。

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衝撃度は、人工関節のインプラントの長期成績を考えるうでの考慮する必要があり、有用な分類とされています。

これらのことから、THA術後にスポーツを行うリスクとしては、

1回の強い衝撃に伴うインプラントの破損や脱臼、骨折

低負荷の繰り返しストレスに伴う摩耗促進

この2つに分けて考える必要があります。

衝撃度が高いものは控えるべきであり、衝撃度が中等度以下で許可されているスポーツは摩耗促進を防ぐために継続時間を考えるべきかもしれません。

また、個人的には、これ以外の社交ダンスやスキューバ・ダイビング、太極拳、ヨガ、ゲートボール、剣道、卓球なども衝撃度は低く、許可されやすい種目と考えています。

 

2. スポーツを行うことによる長期成績

以前は、このようなTHA術後のスポーツ復帰に伴う中長期的な経過の報告はありませんでした。

2011年にLubbekeらが約4年間の追跡調査で、衝撃度の低いスポーツではインプラントの弛みの原因になる骨軟化が5%であるのに対して衝撃度が高いスポーツでは24%に認められたと報告しています(Lubbeke A, 2011)。

また、2012年のOllivierらは、THAの15年生存率(再置換が必要でない状態の割合)が衝撃度の低いスポーツでは93.5%、高いスポーツでは80%であると報告しています(Ollivier M, 2012)。

いずれも衝撃度の高いスポーツには否定的な意見となっております。

しかしながら、長期成績についての報告は数少なく、スポーツの継続が長期的に人工関節の破損や弛み、摩耗などの耐用性にどのような影響を与えるのか、今後のさらなる報告が待たれます。

 

3. スポーツ活動の復帰時期と頻度

スポーツへの復帰時期について、術後3ヶ月で許可する割合がアメリカ股・膝関節学会(AAHKS)では33%、股関節学会(HS)では24%であり、術後3〜6ヶ月ではAAHKSでは60.4%、HSでは71%となっています。これらから、主に術後3〜6ヶ月の待機期間が推奨されています(Klein GR, 2007)。

また、頻度については、川崎らが、衝撃度の低いスポーツは毎日行うことを許可するが、中等度のスポーツでは週1〜2回で許可する医師が多いことが示されています(川崎雅史, 2004)。しかしながら、明確なエビデンスがないのが現状です。

 

まとめ

・スポーツの復帰には、種目による人工関節への衝撃度をまずは考慮しましょう。実施時間や頻度においても衝撃度に応じて調整する必要があります。また、股関節の動く範囲や筋力などの股関節機能は個人差があるものです。そのため、希望するスポーツを行えるための股関節機能が備わっているのかについて、担当医や担当理学療法士によく相談するべきでしょう。また、許可されたスポーツでも、練習内容や競技内容によっては脱臼肢位を伴う運動は制限しなければなりません。このことも担当理学療法士とよく相談してください。

・スポーツに伴う人工関節の耐用性の問題は存在します。現状では衝撃度の高いスポーツは、やはり控えたほうが良いかもしれません。しかし、まだまだエビデンスが明確でないのも事実です。また、摩耗などの耐用性は、THAにおける骨頭径やネック長、カップの外転角度などの手術方法にも影響を受けるため、衝撃度の中等度、高度のスポーツ復帰を考える際は、術前に、しっかりとその希望を担当医にお話下さい。

・術後のスポーツ復帰は3〜6ヶ月が推奨されています。しかしながら、前述したようにスポーツの種目や手術した股関節機能の状態に応じて、復帰時期を調整するべきです。頻度も含め、この点に関しても担当医、理学療法士と相談が必要です。

・紹介した報告はアメリカなどの海外のものが多く、日本人の病態やスポーツスタイルに合わせた報告は、殆ど見られていないのが現状です。

最後に、THA後にスポーツを行うことは、人工関節の耐用性を損ねること、脱臼のリスクなどの点から最近までは殆ど推奨されてきませんでした。しかしながら、新世代ポリエチレンの出現により、人工関節の耐用性も高くなっています。アメリカのガイドラインでは1999年と2005年に2度にわたって策定されていますが、推奨しないスポーツが12種目から4種目に減り、推奨するスポーツが13種目から22種目に増えています(Healy WL, 2008)。このように、人工関節の素材、医師の技術、リハビリ医療の発達により、今後は衝撃度の高いスポーツへの復帰が可能になるかもしれません。

医師、理学療法士は、超高齢社会を迎える日本だからこそ、QOLを高めるスポーツまでを見据えた医療、研究の視点を持つ必要があると思います。

 

長文を読んでくださり、ありがとうございました。

 

 

股関節リハビリシリーズ

股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント

股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点

股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由

股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方

股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か

股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2) 

股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント

股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント

股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法

股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度

股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法

股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展

股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法

股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント

股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)

股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ

 

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