リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

座る姿勢がねこ背の原因になる?

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 昨日まで科研費の報告書に追われてパソコンの前に張り付いていました。長い時間、パソコンに向かった後に身体を伸ばすと気持ちが良いですよね。そう考えると、長時間の座位が腰に与える負担は相当に大きいのだろうなと思うのです。

 そこで今回は、座る姿勢がねこ背の原因になるのか?というテーマについて考察してみました。

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 結論を言えば、座る姿勢は十分にねこ背の原因になると推察されます。長時間、座って仕事されている方は、ぜひ、ご一読ください。


 

◼︎椅子に座り始めてまだ3秒?

 ヒトの歩行は400万年という長い年月を経て進化し、今の洗練された歩行様式がデザインされてきました。私たちは、生存のために身体を効率的に動かす方向に進化してきたのです。

歩行の起源

 しかし、現代の私たちは、進化の過程で得た自分の身体に適合しない環境で生活しています。オフィスで働くディスクワーカーは、1日の約10時間を椅子に座って過ごすことが報告されています(McCrady SK, 2009)。特にパソコンの登場によって、椅子に座る時間は急速に増えているとのことです。

 では、私たちが椅子に座る習慣はいつから始まったのでしょうか?Wikipediaによると、平安時代から椅子を使い始め、明治時代に入り学校や役場で広く用いられるようになったとのことです。そうなると、日本人が椅子の生活を始めてからまだ150年ほどしか経っていないのです。ヒトは400万年という長い期間、歩くことに特化して進化し、適応してきたわけです。それに比べて、椅子に座る習慣はわずか150年。これをわかりやすく1日24時間に換算すると、私たちが椅子に座るようになったのはたったの3秒前に生じた習慣なのです。

 そう考えるとヒトが椅子に座るようになったのは極めて最近のことであり、私たちの身体は椅子に座ることに適応しているとはとても言い難いのです。つまり、ヒトの身体は長時間、椅子に座るようにはデザインされていないのです。よって、現代病と言われる腰痛(May S, 2008)や頭が前に出た姿勢であるforward head postureに伴う頚部痛(Nejati P, 2014)は、長時間、椅子に座っていることに起因すると言われています。



◼︎だらしない座り方にも理由がある

 私たちの身体が現代の椅子の生活に適応していないと言っても、急速に変化する環境に合わせていかなければ生活できません。「唯一、生き残るのは変化できるものである」と進化論のチャールズ・ダーウィン氏も述べています。

 では、私たちの身体は、どのように座ることに対応してるのでしょうか?ここでは、座位における脊椎の安定化機構について確認しましょう。

 脊椎の安定化機構とは、座る姿勢を安定して支える脊椎のメカニズムのことです。このメカニズムについては、Panjabiらが提唱した安定化システムの概念が広く用いられています(Panjabi MM, 1992)。脊椎の安定化機構は神経的、受動的、能動的システムの3つのサブシステムにより形成されています。

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 受動的システムには、脊椎を構成する椎間板や靭帯、関節包などが含まれ、能動的システムには、筋肉や腱が作用しています。神経的システムは、この2つのシステムからの感覚情報を受けとり制御しています。

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 それでは、座位における受動的システム、能動的システムの役割を見て行きましょう。脊椎が綺麗なS字を描く直立座位では、受動的システムは働かずに、能動的システムが働きます。つまり、筋肉が姿勢を安定化させてくれるので脊椎への負担は少なくなります。しかし、前かがみ座位ではどうなるでしょうか?前かがみ座位と背筋の関係についてO'Sullivanらが報告しています。その報告によると、前かがみ姿勢では、綺麗な直立姿勢に比べて、脊柱起立筋などの背筋群、内外腹斜筋の筋活動が有意に低下することが示されています(O'Sullivan PB, 2006a)。

 前かがみ座位になると脊柱起立筋などの背筋の筋活動が低下する現象は「屈曲弛緩現象」といわれ、脊椎をある角度まで曲げると、反射的に背筋群の筋活動が弱まるのです(O'Sullivan PB, 2006b)。

 つまり、脊椎が綺麗なS字を描く良い座位姿勢では脊柱起立筋などの能動的システムが作用します。これに対して、前かがみ姿勢になると脊柱起立筋などは屈曲弛緩現象により筋活動が弱まり、脊椎や靭帯、関節包といった受動的システムが座位姿勢を支えるようになるのです。前かがみ姿勢は一般的に悪い姿勢と言われていますが、ヒトは長時間の座位に対応するために良い姿勢と悪い姿勢を交互に行うことで効率よく能動的システムと受動的システムを使い分けているのです。これによって、体にかかる負担を筋肉と脊椎に上手に分散しているわけです。なので、だらしなく前かがみに座っている人は、背中の筋肉を休めてるだけで、決して性格がだらしないわけではないんですね。

 人はこのように脊椎の安定化機構を用い、座位による身体への負担を筋肉と脊椎に等分することによって長時間の座位に対応しているのです。



◼︎前かがみ姿勢がねこ背の原因?

 ねこ背の原因の約4割は骨粗鬆症による椎体骨折や椎間板の変性など受動的システムの破綻と報告されています(Kado DM, 1999)。さらに残りの6割は主に背筋の筋力低下と報告されており(Sinaki M, 1996)、背筋の質的変化である霜降り化が寄与していることが示唆されています(Katzman, 2012)。これは、能動的システムの破綻です。

なぜ、ねこ背になるのか?

ねこ背の原因は背筋の霜降り化?

 前述したように、ヒトは長時間の座位に対応するため、綺麗な直立姿勢と前かがみ姿勢を使い分けて、筋肉と脊椎への負担を分散させているわけです。しかし、能動的に背筋を使ってシャキッとした姿勢でいるのは疲れますよね。背中を丸くして、背もたれに寄りかかっている方が楽なわけです。ですので、どうしても長時間の座位では前かがみ姿勢でいる割合は増えていきます。そうなると、脊椎や靭帯への負担が増すとともに、背筋は全く使わないことになります。

 前かがみ姿勢による受動的システムへの影響についてMcGill SMらは、棘間靭帯・棘上靭帯や椎間板の後方の線維輪などに大きな外力が加わることを示しています(McGill SM, 1994)。また、背筋の中でも脊柱起立筋は、前かがみの座位姿勢になると有意に筋活動が低下します。脊柱起立筋は歩行や起立時に大きく活動しますが、長時間の前かがみ座位では、活動する機会が失われるため、不使用に伴う筋萎縮や脂肪浸潤の変性が生じるリスクが高まります。

 また、1、2時間の前かがみ座位が腰椎の柔軟性を低下させることが報告されています(Solomonow M, 2003)。腰椎の柔軟性低下はねこ背の間接的な原因になり得ることは以前にも考察しました。

ねこ背と柔軟性 〜腰椎の柔らかさが大事〜

 

 そもそもヒトの身体は進化的に見て、座ることに適応しているとは言えません。実際の生活場面では、脊椎の安定化機構である能動的システムと受動的システムを上手に使い、負担を分散することで長時間の座位に対応しています。しかし、長時間の前かがみ姿勢は、脊椎や椎間板への負担が大きく、背筋筋力を低下させるとともに腰椎の可動性を損なわせる可能性があります。この観点で、長時間の前かがみ座位はねこ背の原因になり得るのです。

 

  このように考察すると、ねこ背の予防策が考えやすいですね。これまで、本ブログではねこ背の予防方法や改善方法については述べていませんが、近いうちにまとめたものを発表したいと思っています。しばしお待ちください。

 

 

ねこ背シリーズ 

ねこ背シリーズ①:ねこ背になると歩き方も変わる?

ねこ背シリーズ②:ねこ背になると生活がつまらなくなる?

ねこ背シリーズ③:「背が低くなったんじゃない?」と言われた要注意!

ねこ背シリーズ④:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜大規模研究による検証〜

ねこ背シリーズ⑤:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜本当の犯人は?〜

ねこ背シリーズ⑥:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜腰がまっすぐになると…〜

ねこ背シリーズ⑦:自分でねこ背を計る方法(前編:科学的根拠の確認)

ねこ背シリーズ⑧:自分でねこ背を計る方法(後編:C7PL2.0をやってみよう!)

ねこ背シリーズ⑨:ねこ背と骨盤の代償運動を理解しよう

ねこ背シリーズ⑩:なぜ、ねこ背になるのか?

ねこ背シリーズ⑪:ねこ背の原因は背筋の霜降り化?

ねこ背シリーズ⑫:ハイヒールを履くとねこ背になる?

ねこ背シリーズ⑬:ねこ背と柔軟性 〜腰椎の柔らかさが大事〜

ねこ背シリーズ⑭:ねこ背になると肩が上がらなくなる?

ねこ背シリーズ⑮:座る姿勢がねこ背の原因になる?

 

Reference

McCrady SK, et al. (2009) Sedentariness at work: how much do we really sit? Obesity (Silver Spring);17(11) 2103–5.

May S, Donelson R. (2008) Evidence-informed management of chronic low back pain with the McKenzie method. Spine J; 8(1):134–41.

Nejati P, et al. (2014) The relationship of forward head posture and rounded shoulders with neck pain in Iranian office workers. Med J Islam Repub Iran; 28:26.

Panjabi MM. The stabilizing system of the spine. Part II. Neutral zone and instability hypothesis. Journal of Spinal Disorders 1992;5:390–7.

O’Sullivan PB, et al. (2006a) Effect of different upright sitting postures on spinal-pelvic curvature and trunk muscle activation in a pain-free population. Spine 31. 707-712.

O’Sullivan PB, et al. (2006b) Evaluation of the flexion relaxation phenomenon of the trunk muscles in sitting. Spine 31. 2009-2014.

Kado DM, et al. (1999) Vertebral fractures and mortality in older women: a prospective study. Study of Osteoporotic Fractures Research Group. Arch Intern Med. 159(11):1215–20.

Sinaki M, et al. (1996) Correlation of back extensor strength with thoracic kyphosis and lumbar lordosis in estrogen-deficient women. Am J Phys Med Rehabil 75:370–374

Katzman W. (2012) Association of spinal muscle composition and prevalence of hyperkyphosis in healthy community-dwelling older men and women. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 67(2), 191–195.

McGill SM, et al.(1994) Transfer of loads between lumbar tissues during the flexion-relaxation phenomenon.
Spine ;19: 2190-6.

Solomonow M, et al. (2003) Biomechanics and electromyography of a cumulative lumbar disorder: response to static flexion. Clin Biomech 28; 1235-1248. 

 

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