リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

ストレッチは高齢者の歩行能力を高める

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 加齢に伴う身体の衰えからは逃れられませんが、予防、改善することは可能です。今回は、ストレッチが加齢によって低下した歩く能力を改善させる効果について考察してみましょう。

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◆ 加齢とともに歩く速度は低下する


 歩く速度というものは人によって異なります。男女によっても異なりますし、身長や筋肉量によっても異なります。また、加齢とともに歩く速度が低下するのも特徴のひとつです。

 歩く速度は中枢神経系が筋肉の仕事量と代謝エネルギーのコストが最小になるよう無意識のうちに決めています(Umberger BR, 2007)。

歩行をデザインする基準

 そのため、加齢により筋力が低下すると筋肉の仕事量が減少するため、歩く速度を遅くすることでエネルギーコストの上昇を抑えようとします。歩く速度と歩幅には関係性があり、歩く速度が遅くなると歩幅は狭くなります。そのため、加齢により筋力が低下すると歩く速度を遅くするとともに歩幅は狭くなるのです。歩幅が狭くなると股関節や足関節の動きの幅も減少します。特に歩行時の股関節の伸展や足関節の背屈の動き(可動性)が低下することが明らかになっています(Murray MP, 1969)。

 

 つまり、加齢により筋力が低下すると、歩行時のエネルギーコストの上昇を抑えるために歩く速度を遅くします。それに伴い、歩幅は狭くなり、結果として股関節や足関節の可動性が低下するのです。

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◆ ストレッチによる歩行への効果

 

 このような加齢による歩く速度の低下に対して、股関節、足関節のストレッチングの効果が報告されています。

 Rodackiらは、股関節の屈曲、伸展のストレッチングによる即時的な歩行への効果について、50名の高齢者(年齢64.5±3.2歳)を対象に調査を行いました。その結果、歩行の速度、歩幅は有意に増加し、両脚支持時間は減少することが示されました(Rodacki AL, 2009)。

 また、長期的なストレッチングによる歩行への効果について、Cristopoliskiらは、20名の高齢者(年齢65.9±4.2歳)を対象にして調査しています。参加者は、股関節の屈曲、伸展、足関節の背屈のストレッチング60秒4回を週3回行い、4週間継続しました。その結果、歩行の速度、歩幅は有意に増加し、両脚支持時間は減少しました。また、骨盤の前傾および側方傾斜角度、回旋角度が増加したことを示しています(Cristopoliski F, 2009)。

 

 これらの報告から、ストレッチングは即時的にも、長期的にも歩く速度を高める効果が期待できます。特に、股関節の伸展、足関節の背屈のストレッチングが効果的であり、これらは歩行の立脚後期の動きに寄与すると推察されています。

  

 加齢によって遅くなった歩く速度を再び速くするためには、歩幅を大きくする必要があります。そのためには特に立脚後期で必要となる股関節の伸展、足関節の背屈の動きが重要となってきます。ストレッチングでこの動きをしっかり出すことが、筋肉に働きやすい環境を与えることになり、歩く能力を高めることに繋がるのです。また、ウォーキング前にこのようなストレッチングをすることも、ウォーキングの効果を高めることが期待できます。

 ただ、漫然とストレッチングを行うのではなく、加齢によって歩く能力が低下しないよう、または改善しようとする目的意識をもって行うのも良いかもしれません。

 

 効果的なストレッチングの方法、ストレッチがウォーキングの効果を高めることなど興味深いテーマがありますので、また別の機会で考察してみるつもりです。

 

 

ストレッチの科学シリーズ

ストレッチの科学①:ストレッチはパフォーマンスを低下させる(前編)

ストレッチの科学②:ストレッチでパフォーマンスを低下させない方法 

ストレッチの科学③:効率的で効果的なストレッチの時間と回数 

ストレッチの科学④:ストレッチは毎日やらなくてもいいんです

ストレッチの科学⑤:ストレッチはいつするのが効果的か? 

ストレッチの科学⑥:ストレッチは高齢者の歩行能力を高める

ストレッチの科学⑦:ストレッチの効果はどのくらい持続するのか?~即時効果編~ 

ストレッチの科学⑧:ストレッチの効果はどのくらい持続するのか?〜習慣的な効果〜

ストレッチの科学⑨:ストレッチのメカニズム その1

ストレッチの科学⑩:ストレッチのメカニズム その2

ストレッチの科学⑪:ストレッチにダイエットの効果はありません  

ストレッチの科学⑫:ストレッチのウソ?ホント? 〜まとめ〜

 

Reference

Umberger BR & Martin PE (2007). Mechanical power and efficiency of level walking with different stride rates. J Exp Biol 210; 3255–3265.

Murray MP, et al. (1969) Walking patterns in healthy old men. J Gerontol. 24: 169-178.

Rodacki AL, et al (2009) Transient effects of stretching exercises on gait parameters of elderly women.  Man Ther. 2 :167-72.

Cristopoliski F, et al. (2009) Stretching exercise program improves gait in the elderly. Gerontology. 55 :614-20

 

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