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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

転倒とバランス② バランス能力の評価を再考しよう

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 Dr Horakは、バランス能力の評価の目的について「バランス評価の目的は、バランス能力の程度を評価するとともに、バランス能力が低下している原因を特定することである」と述べている(Horak FB, 1997)。

 バランス能力の程度を計る評価方法は数多くあり、その中でも転倒の予測精度を示す感度、特異度の高い評価方法が臨床現場の場所的、時間的制約に応じて選択されている。

有効なバランス能力の評価とは?

 

 感度、特異度の高い評価方法を用いることは、バランス能力の程度を評価するのには有用である。しかし、バランス評価の目的を「バランス能力の低下の要因を把握し、その要因に介入する」という視点で捉え直すと、現行の評価方法では何も意味付けがなされていない。

 

 では、バランス能力の低下の要因を特定するためにはどうしたら良いのだろうか?

 そのためには、バランス能力を構成する要素(サブシステム)を定義し、評価方法がどのサブシステムに該当しているかを明らかにする必要がある。これにより、バランス能力の問題点が明確になるとともに、治療が具体化される。

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 例えば、バランス能力を評価するためにFRT、TUG、BBSを用いたとする。FRT、BBSは問題ないが、TUGがカットオフ値を下回った場合、バランス能力を低下させている要因はサブシステムBまたはCと推定できる。そして、その要因に合わせたトレーニングを選択、実施できるのである。



◆ BESTestの登場

 

 Dr Horakの最大の功績は、バランス能力を構成する要素を定義し、その定義にもとづく新たな評価方法を体系化したことである。報告されたバランス能力のシステム論によると、バランス能力を6つのサブシステムに定義している(Horal FB, 2006)。

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 そして、これらのサブシステムに該当した評価項目によって体系化されたBESTest (Balance evaluation systems test)を発表している(Horak FB, 2009)。BESTestは36の検査項目を該当する6つのサブシステムに割り当て評定する。

BESTest 日本語版PDF

 しかし、実施に30〜40分と長時間を要することが難点であり、これに対して、Franchignoniらは動的バランス機能に特化したMini-BESTestを開発している(Franchignoni F, 2010)。Mini-BESTetは、BESTestの評価項目を統計的分析によって4セクション14項目を抽出して作成しているため、実施時間は15〜20分と短くなっている。

Mini-BESTest 日本語版PDF

 

 また、近年では、BESTestをさらに簡易にしたBrief-BESTestも発表されている。Brief-BESTestは6セクション8項目を抽出しており、Mini-BESTestよりも短時間で評価を行うことができる(Padgett PK, 2012)。Brief-BESTestは翻訳されていないため、以下に項目のみ翻訳する(測定方法はBESTest 日本語版PDFを参照)。

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* Padgett PK, 2012より引用改変

 BESTest、Mini-BESTest、Brief-BESTestは評価の信頼性、妥当性は示されており、最近では、高齢者の転倒予測精度はMini-BESTestがBESTest、BBS、TUGよりも高いことが報告されている(Yingyongyudha A, 2015)。しかし、BESTestの転倒予測精度については報告数も少ないことからコンセンサスが得られておらず、今後のreviewを待ちたい。

 このように、BESTestはバランス能力のサブシステムを個別に評価することが可能であり、バランス能力低下の要因の特定に有用な評価方法として近年、注目されている。



◆ 現行のバランス評価とバランス能力のサブシステム

 

 では、一般的なバランス能力の評価方法は、どのサブシステムに該当するのであろうか?

 2015年、Sibleyらは、Horakらの提唱したサブシステムをさらに9つに細分化し、1946年から2014年までに論文で用いられた66の評価方法をそのサブシステムに分類したスコーピングレビューを報告している(Sibley KM, 2015)。今回は、その中でも標準的な評価方法を取り上げ、各評価方法がどのサブシステムに該当するかを示しながら考察してみる。

 まず、Sibleyが提唱する9つのサブシステムを見てみよう。

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*Sibley KM, 2015より引用改変

 そして、この9つのサブシステムに代表的なバランス評価を該当させると以下のようになる。

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*Sibley KM, 2015より引用改変

 このように見ると、FRTやTUGはバランス能力のサブシステムの一部しか見ていないことがわかる。やはり、包括的にサブシステムを評価するには、BBSやPOMAの実施が求められる。また、反応的姿勢制御、認知的影響に関しては、どの評価方法においても評価できていない。バランス能力の問題点を特定するには、ステッピング反応などの反応的姿勢制御の評価、二重課題(dual-task)のような認知的影響の評価を追加する必要があるだろう。

 

 バランス能力の程度の評価においては、感度・特異度の高い評価方法を選択すれば良い。しかし、セラピストとして、リスク管理にとどまらず、原因の特定、治療までを視野にいれるのであれば、現行のバランス評価を見直す時期にきているのかもしれない。

 

 Dr Horakの功績は、BESTestの体系化など数多くあるが、個人的にはバランス評価の目的について、バランス能力の程度にとどまらず、その問題点の特定にまで言及したことだと思う。Dr Horakの提言は、我々の臨床において、「バランス評価を再考すべきである」ということを伝えているのではないだろうか。

 

 

転倒の科学

転倒の科学①:健康寿命から考える転倒予防

転倒の科学②:転倒予防のリスクマネージメント① 転倒のリスク因子を知ろう! 

転倒の科学③:効率的に転倒リスクをスクリーニングしよう!AGS編 

転倒の科学④:効率的に転倒リスクをスクリーニングしよう!CDC編

転倒の科学⑤:有効なバランス能力の評価とは?

転倒の科学⑥:バランス能力の評価を再考しよう

転倒の科学⑦:歩行速度で転倒リスクを予測しよう

転倒の科学⑧:変形性膝関節症の術後の痛みが転倒のリスク因子になる

転倒の科学⑨:睡眠薬のメカニズムと転倒リスクについて知っておこう

 

Reference

Horak FB. Clinical assessment of balance disorders. Gait Posture 6: 76-84, 1997

Horak FB, Postural orientation and equilibrium: what do we need to know about neural control of balance to prevent falls? Age Ageing. 2006 Sep;35 Suppl 2:7-11.

Horak FB, et al. The Balance Evaluation Systems Test (BESTest) to differentiate balance deficits. Phys Ther. 2009 May;89(5):484-98.

Franchignoni F, et al. Using psychometric techniques to improve the Balance Evaluation Systems Test: the mini-BESTest. J Rehabil Med. 2010 Apr;42(4):323-31.

Padgett PK, et al. Is the BESTest at its best? A suggested brief version based on interrater reliability, validity, internal consistency, and theoretical construct. Phys Ther. 2012 Sep;92(9):1197-207.

Yingyongyudha A, et al. The Mini-Balance Evaluation Systems Test (Mini-BESTest) Demonstrates Higher Accuracy in Identifying Older Adult Participants With History of Falls Than Do the BESTest, Berg Balance Scale, or Timed Up and Go Test.J Geriatr Phys Ther. 2015 Mar 19.

Sibley KM, et al. Using the systems framework for postural control to analyze the components of balance evaluated in standardized balance measures: a scoping review. Arch Phys Med Rehabil. 2015 Jan;96(1):122-132.