リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

変形性膝関節症の予防③ 股関節外転筋トレーニングをしよう

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 膝内転モーメントは変形性膝関節症(膝OA)の重要なアウトカムである。股関節外転筋トレーニングが膝内転モーメントの減少に有効であるとされているが、近年のRCT、クリニカルトライアルによって、その効果は否定されている。しかし、股関節外転筋トレーニングは膝痛を軽減する効果が認められており、この矛盾から10年におよぶ股関節外転筋論争が今もなお続いている。

股関節外転筋トレーニングの有効性について

 

 膝OA患者は、膝内転モーメントを減少させる歩行戦略(体幹傾斜、toe out)を選択する。これに伴い、同側の股関節の内転モーメントが減少し、股関節外転筋力が低下する。このような機序から考えても、股関節外転筋トレーニングが膝内転モーメントを減少させる効果は期待できない。

膝OAで股関節外転筋力が低下する理由

 

 では、なぜ、股関節外転筋トレーニングは膝内転モーメントを減少する効果が否定されているにもかかわらず、膝痛の緩解に寄与するのであろうか?

 

 今回は、原点に立ち返り、患者さんの生活の視点から膝OAの予防に対する股関節外転筋トレーニングの有効性について考察してみたい。



◆ 生活における歩行とは?

 

 ママは忙しい。家事や育児に追われているママを想像してみよう。子供の面倒を見ながら、ご飯を作り、掃除をし、洗濯をする。ママは家の中を縦横無尽に行ったり来たり、階段を登ったり降りたりして、マルチタスクを見事に完遂する。 

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 私たちの日常で「歩く」ということは、ただまっすく歩くということではない。直線とターンを織り交ぜながら歩いているのである。

 Glaisterらは、カフェ、オフィス、コンビニエンスストアを歩いたときの直線とターンにおける歩数の割合について報告している。最もターンの割合が多かったのがカフェであり、オフィス、コンビニと続き、その割合は50%、45%、35%であった(Glaister BC, 2007)。

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fig.1:Glaister BC, 2007より引用改変。上からカフェ、オフィス、コンビニにおける歩数全体に対するターンの歩数割合を示している。

 

 ママの忙しい場面を想像するとわかるように、日常生活で移動するためには「ターン」が必要不可欠なのである。さらに、日常生活にはもうひとつ特別な移動動作がある。階段昇降を代表とする段差の昇降動作は、玄関前の段差や上がり框、駅の階段など日常生活で必ず行われる。

 

 そして、膝OAの膝痛は、ターンや階段昇降時に増強しやすい(Costigan PA, 2002)。

 

 2015年、Tevaldらは興味深い研究結果を報告している。35名の膝OA患者を対象に、運動パフォーマンスに膝伸展筋力、股関節外転筋力がどのように寄与しているかを調査した。パフォーマンステストはTime up and go test(TUG)、階段昇降テスト、5回立ち座りテスト、主観的身体機能検査(WOMAC function)を用いた。

 その結果、膝伸展筋力、股関節外転筋力はWOMAC以外のパフォーマンステストに寄与していることが明らかになった。また、回帰モデル(Hierarchical regression models)を用い、独立的に股関節外転筋とパフォーマンステストの関連を調べてみると、股関節外転筋はTUG、階段昇降に寄与することがわかったのである(Tevald MA, 2015)。

 

 つまり、股関節外転筋は、膝OA患者のTUGで行われるターンや段差昇降時の安定性に関与しているのである。では、ターンや階段昇降において、股関節外転筋はどのように膝内転モーメントに寄与するのだろうか?



◆ ターンにおける股関節外転筋の重要性

 

 ヒトが90度の方向転換をする際、2つのターン戦略のどちらかを選択する。スピンターン(クロスオーバーターン)とステップターンである。一般的にスピンターンが用いられるが、バランス能力が低下している失調症患者や高齢者はステップターンを用いやすい(Mari S, 2012、Akram SB, 2010)。

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fig.2:Mari S, 2012より引用改変

 

 ターンを行う際、慣性力によって生じる身体の質量中心(COM)の偏位を前額面上でコントロールしなければならない(Patla AE, 1999)。このようなコントロールは立脚後期の股関節外転、内旋筋力により行われている(Taylor MJD, 2005)。そして、この股関節外転、内旋を制御しているのが股関節外転筋(主に中殿筋、小殿筋)なのである(Neumann DA, 2010)。

 

 しかし、股関節外転筋力が低下している場合、慣性力によるCOMの外側偏位を制御することが困難となる。そのため、スピンターンではなくステップターンが選択されやすくなる(Tateuchi H, 2014)。ステップターンでは、股関節外転角度が増大し、COMが外側に偏位する。COMが外側へ偏位すると、膝OAの膝関節中心と床反力線のレバーアームが延長されて膝内転モーメントが増加するのである。

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 このように、股関節外転筋力の低下は、ターンの際のCOMの外側偏位を招くことが推測され、膝痛の増強に寄与する可能性がある。



◆ 階段昇降における股関節外転筋の重要性

 

 膝痛は階段昇降の降段時に生じやすい。歩行や昇段に比べて、降段では床反力が大きいこと(Liikavainio T, 2007)、健常者よりも降段速度が遅いこと(Hicks-Little CA, 2012)、膝内転モーメントのファーストピークが高くなること(Guo M, 2007)が要因とされている。膝内転モーメントのピークが増加するととともに、降段の動作速度が遅くなるため、膝内転モーメントのインパルスも増加する。

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fig.3:Guo M, 2007より引用。歩行時と降段時の膝内転モーメントを示している。

 

 その結果、降段では膝内側へのメカニカルストレスが増加しやすく、痛みを生じやすいのである。

 

 では、股関節外転筋は降段時にどのような役目を担っているのだろうか?

 

 Linらは、健常者を対象にして、歩行および階段昇降時に生じる関節モーメント、筋活動、COMの変化を調査している。歩行や昇段に比べて、降段では、立脚前期に股関節外転モーメントが高くなる。また、中殿筋の筋活動も立脚前期に増加する。さらに、COMは立脚前期に内側へ大きく偏位することを報告している(Lin YC, 2015)。

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fig.4:Lin YC, 2015より引用改変。降段時の股関節モーメント、外転筋筋活動、COMの内外側偏位を示している。

 

 この結果から、股関節外転筋は、主に降段の立脚前期において、COMを立脚側へ偏位させ骨盤の側方安定性を保つ役割を担っていることがわかる。

 しかしながら、股関節外転筋力が低下してる場合、降段の立脚前期で必要となるCOMの制御が不十分となる。そのため、膝関節中心と床反力線の距離が増加し、膝内転モーメントがさらに増大することが推測される。このようなメカニズムから、股関節外転筋力の低下が膝痛の増強に寄与する可能性がある。

 

 

 日常生活では、直線的に歩行するだけではなく、ターンを繰り返し、ときに階段を昇降する。ターンや階段昇降は、その特異的な動作メカニズムから膝内転モーメントを増加させ、膝痛を増強させやすい。そして、股関節外転筋の筋力低下は、このような動作時の前額面上におけるCOMの制御不全を招き、膝痛の増強に寄与するのである。

 

 この見解であれば、「股関節外転筋トレーニングが歩行時の膝内転モーメントの減少には寄与しないにも関わらず、膝痛の緩解には寄与するのか?」という疑問に答えることができる。

 股関節外転筋トレーニングは、歩行時の膝内転モーメントの減少に寄与しないが、ターンや階段昇降時の膝内転モーメントの増加を防ぐ可能性があり、膝痛を緩解させる効果が期待できる。この観点から、膝OAの予防として十分に行う価値があるだろう。

 

  今回の考察は、推論の域を超えていない。今後、膝OAの股関節外転筋トレーニングがターンや階段昇降時の膝内転モーメントに与える影響について調査した研究報告がまたれる。股関節外転筋論争の終焉は意外に近いのかもしれない。

 

 

変形性膝関節症の保存療法シリーズ

保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

 

Reference

Glaister BC, Video task analysis of turning during activities of daily living. Gait Posture. 2007 Feb;25(2):289-94.

Costigan PA, et al. Knee and hip kinetics during normal stair climbing. Gait Posture. 2002 Aug;16(1):31-7.

Tevald MA, et al. Hip abductor strength in people with knee osteoarthritis: A cross-sectional study of reliability and association with function.  Knee. 2015 Jun 30. pii: S0968-0160(15) 00140-4

Mari S, et al. Turning strategies in patients with cerebellar ataxia. Exp Brain Res. 2012 Oct;222(1-2):65-75.

Akram SB, et al. Turning behavior in healthy older adults: is there a preference for step versus spin turns?. Gait Posture 2010;31:23–6.

Patla AE, et al. Online steering: coordination and control of body center of mass, head and body reorientation. Exp Brain Res. 1999 Dec;129(4):629-34.

Taylor MJD, et al. A three-dimensional biomechanical comparison between turning strategies during the stance phase of walking. Hum Mov Sci 2005;24:558–73.

Neumann DA, et al. Kinesiology of the hip: a focus on muscular actions. J Orthop Sports Phys Ther. 2010 Feb;40(2):82-94.

Hicks-Little CA, et al. Temporal-spatial gait adaptations during stair ascent and descent in patients with knee osteoarthritis. J Arthroplasty. 2012 Jun;27(6):1183-9.

Liikavainio T, et al. Loading and gait symmetry during level and stair walking in asymptomatic subjects with knee osteoarthritis: importance of quadriceps femoris in reducing impact force during heel strike? Knee 2007;14:231–8.

Guo M, et al. The influence of foot progression angle on the knee adduction moment during walking and stair climbing in pain free individuals with knee osteoarthritis. Gait Posture 2007;26:436–41.

Tateuchi H, et al. Compensatory turning strategies while walking in patients with hip osteoarthritis.Gait Posture. 2014 Apr;39(4):1133-7.

Lin YC, et al. Muscle coordination of support, progression and balance during stair ambulation. J Biomech. 2015 Jan 21;48(2):340-7.

 

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