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リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

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 変形性膝関節症(膝OA)の発症とその進行には、遺伝的因子、性別的因子(女性に多い)、体重因子、環境因子など種々の因子が関与すると言われているが、現在ではメカニカルストレスが最も重要な因子として注目されている(Felson DT, 2013)。

 

 日本人に多い内側膝OAでは、特に膝内転モーメントが発症や進行に寄与することが明らかになっている(Vincent KR, 2012)。そのため、膝内転モーメントを減少することが膝OAの予防や保存療法の基本戦略のひとつとして位置付けられている。

変形性膝関節症を予防する基本戦略

 

 このように、近年では新たな膝OAの治療戦略のパラダイムが構築されつつある。そしてもう1つ、最近になって注目されているのが「膝屈曲モーメント」である。今回は膝OAと膝屈曲モーメントとの関係性について考察してみよう。

 

 関節モーメントとは、 足圧中心(COP)から身体の質量中心(COM)への床反力線と関節中心との距離で決まる。膝屈曲モーメントは膝を屈曲方向に回転させる外力のことを言い、それに拮抗するように膝伸展筋である大腿四頭筋が働く。

 通常のスクワットと壁に寄りかかったスクワットでどちらが大腿四頭筋の活動が高くなりやすいのだろうか?やってみるとわかるのだが、壁に寄りかかったスクワットのほうが大腿四頭筋がパンパンになる。これは壁に寄りかかることで、床反力線と膝関節中央の距離が増大し、膝屈曲モーメントが増加するからである。

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◆ 膝OAと膝屈曲モーメント

 

 2014年、Chehabらは、長期的な膝OAの増悪因子として、膝内転モーメントと膝屈曲モーメントがともに寄与することを明らかにした。膝OA患者を対象に5年間の追跡調査を行い、MRIにより測定された内側にある軟骨の厚さと歩行の立脚初期に生じるモーメントとの関係を調べた。

 

 その結果、膝内転モーメントは大腿骨側の軟骨の厚さの減少と相関を認め、膝屈曲モーメントは脛骨側の軟骨の厚さの減少と相関を認めたのである。

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fig.1:Chehab EF, 2014より引用改変。膝内転・屈曲モーメントと5年後の膝内外側の軟骨の厚さ率の関係性を示している。

 

 さらに、膝屈曲モーメントは脛骨側の軟骨の前後、中心、内側の変性に寄与することも報告している。

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 fig.2:Chehab EF, 2014より引用改変。脛骨の内側軟骨の厚さの減少と膝屈曲モーメントとの関係性を前後、左右の部位で示している(KFM:knee flexion moment)。

 

 これらの結果から、膝内転モーメントは従来の報告どおり膝OAの進行に寄与するが、これに加えて膝屈曲モーメントも膝OAの進行に寄与する可能性が示唆されたのである(Chehab EF, 2014)。

 

 では、膝OAの発症に膝屈曲モーメントはどのように関わっているだろうか?

 

 Manalらは、2015年、興味深い報告をしている。膝OAの原因疾患として前十字靭帯(ACL)断裂術後が挙げられている。そこで、彼らはACL再建術後の患者を対象として、歩行時の膝内側部に生じる荷重と膝内転モーメント、膝屈曲モーメントがどのていど関わるっているのかを調査した。

 

 その結果、膝内側荷重への寄与率は、膝内転モーメントのみでは63%であり、これに膝屈曲モーメントを加えると88%まで増加することを明らかにしたのである(Manal K, 2015✻)。

 

 つまり、膝内転モーメントと膝屈曲モーメントの双方をあわせることによって、膝内側へのメカニカルストレスにより近似するとともに、膝OAの発症に膝屈曲モーメントも寄与していることが示唆された。

 

 さらに、Manalらは膝OAの重症度と膝内転モーメントと膝屈曲モーメントとの関連について調査し、膝OAが軽度の場合は膝屈曲モーメントが関わっており、重症化するにしたがって、膝内転モーメントの関わりが強くなることを報告してる(Manal K✻✻, 2015)。

 

 これらの報告から、膝OAの発症、進行に大きく寄与するメカニカルストレスには膝内転モーメントのみでなく、膝屈曲モーメントも関わっている可能性が示されている。そのため、膝OAの予防および保存療法では、膝内転モーメントとともに膝屈曲モーメントを減少させる治療戦略を考慮する必要性があるのだ。



◆ 膝屈曲拘縮が膝屈曲モーメントを増加させる

 

 膝OAの随伴症状として膝屈曲拘縮がある。屈曲拘縮の原因は側副靭帯のstiffnessとされてきたが、現在では後方関節包のstiffnessが注目されている(Campbell TM, 2015)。

 

 そして、この膝屈曲拘縮が膝屈曲モーメントの増大する主要因になる。

 

 Haratoらは、健常者を対象に膝装具を用いて膝の屈曲角度を固定して、歩行時の膝屈曲モーメントを測定した。膝の屈曲角度は0度、15度、30度に設定した。その結果、膝屈曲15度をこえると、立脚初期の膝屈曲モーメントのピークが大きく増加することを明らかにしている(Harato K, 2008)。

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fig.3:Harato K, 2008より引用改変。膝屈曲0度、15度、30度における立脚期の膝屈曲モーメントを示している。

 

 この結果は、歩行の立脚初期に生じる膝関節の関節モーメントを見ても容易に理解できる。立脚初期である荷重応答期(Loading response)で膝屈曲拘縮がある場合、床反力線と膝関節中心の距離が増大し、膝関節屈曲モーメントが増大するのである。

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 よって、膝屈曲拘縮は歩行時の膝屈曲モーメントを増加させる因子になるのだ。

 

  歩行はリズミカルな左右交互運動であり、これは膝関節へのメカニカルストレスが繰り返し生じていることを意味する。膝屈曲拘縮を有する場合、増加した膝屈曲モーメントが膝の軟骨に有害なメカニカルストレスとして繰り返し生じることになる。

 

 膝屈曲拘縮の予防は、歩行時の膝屈曲モーメントの増加を防ぐことによって、膝関節に生じるメカニカルストレスの増加を防げる可能性がある。膝OAの予防や保存療法では、膝内転モーメントの減少とともに膝屈曲モーメントの減少を視野に入れ介入することが推奨されている。

 

 膝内転モーメントと膝屈曲モーメントという生体力学分野の発展によって、膝OAの治療戦略に新たなパラダイムが構築されつつある。今後の膝OAのリハビリテーションではこのような新たな知見を導入し、介入方法を検討することが求められるようになるだろう。

 

 

変形性膝関節症の保存療法シリーズ

保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

 

Reference

Felson DT, Osteoarthritis as a disease of mechanics. Osteoarthritis Cartilage. 2013 Jan;21(1):10-5.

Vincent KR, et al. The pathophysiology of osteoarthritis: a mechanical perspective on the knee joint. PM R. 2012 May;4(5 Suppl):S3-9.

Chehab EF, et al. Baseline knee adduction and flexion moments during walking are both associated with 5 year cartilage changes in patients with medial knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2014 Nov;22(11):1833-9.

Manal K✻, et al. A more informed evaluation of medial compartment loading: the combined use of the knee adduction and flexor moments. Osteoarthritis Cartilage. 2015 Jul;23(7):1107-11.

Manal K✻✻, et al. New insight in the relationship between regional patterns of knee cartilage thickness, osteoarthritis disease severity, and gait mechanics. Osteoarthritis Cartilage. 2015 Jul;23(7):1107-11.

Campbell TM, et al. Knee Flexion Contractures in Patients with Osteoarthritis: Clinical Features and Histologic Characterization of the Posterior Capsule. PM R. 2015 May;7(5):466-73.

Harato K, et al. Knee flexion contracture will lead to mechanical overload in both limbs: A simulation study using gait analysis. Knee. 2008 Dec;15(6):467-72.

 

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