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リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

変形性膝関節症に良い靴選び②

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 どのような靴が変形性膝関節症に良いのだろうか?

 この問いの答えを生体力学は明確に示すことができます。

 

 前回のエントリでは、ハイヒールを履いて歩くことが変形性膝関節症の発症や増悪させる要因になることについて考察しました。

変形性膝関節症に良い靴選び

 

 今回は、どのような靴が変形性膝関節症にとって良いのか?という疑問について考察してみたいのですが、生体力学ではこの問いの答えをひとことで述べています。

 

 「膝への負担が最も少ないのは裸足(はだし)である」

 

 裸足と言われても…困りますよね。靴を履くことは文化(普通)なので、膝のために裸足で歩くという奇抜なことは誰にもできないはずです。しかし、ヒトは400万年前から裸足で歩くことに適応してきました。そう考えると、裸足が膝にとって良いのも頷けます。

 

 では、なぜ、裸足歩行は膝への負担が少ないのでしょうか?

 そのメカニズムがわかると、膝に良い靴選びのヒントになります。そこで、今回は裸足歩行のメカニズムについて考えてみたいと思います。

 

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◆ 変形性膝関節症の悪化させる要因

 

 変形性膝関節症(膝OA)を発症、悪化させる要因は膝の内側にかかる負担(力学的負荷)です。生体力学の発展により、この力学的負荷を膝内転モーメントとして表すことが可能となりました。よって、膝OAの予防や痛みの軽減には、膝内転モーメントを減少させることが重要となります。

 

 膝内転モーメントは、歩行時に生じる床反力の大きさ、そして床反力が通る線(床反力線)と膝関節中心との距離(これをレバーアームという)によって算出することができます(Hunt MA, 2006)。

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  つまり、膝内転モーメントを減少させるためには、床反力を少なくし、レバーアームを短くするという戦略が導き出せるのです。

 

 逆に、体重が重い人は床反力が大きくなり、ハイヒールを履くとレバーアームが長くなるので膝内転モーメントが増大し、膝OAが発症しやすく、悪化しやすくなるのです。

 

 

◆ なぜ、裸足がよいのか?

 

 生体力学では、裸足の歩行が膝にもっとも良いと言います。膝に良いというのは、膝に生じる力学的負荷が少ないことを意味します。それでは、膝内転モーメントの視点から裸足の歩行と靴の歩行を比べてみましょう。

 

 変形性膝関節症と靴の研究の第一人者である米国ラッシュ医科大学のShakoorらは、2006年、膝OA患者を対象に、靴と裸足で歩いた際の膝関節モーメントを測定しました。その結果、靴を履いた歩行に比べて、裸足の歩行では、膝内転モーメントが11.9%減少し、膝伸展モーメントが7.4%減少することを報告しています(Shakoor N, 2006)。

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✻Fig.1: Shakoor N, 2006より引用。膝関節の内転モーメントが裸足で有意な低下を示している。

 

 やはり、裸足は靴よりも歩行時の膝内転モーメントが小さいのです。では、なぜ、裸足の歩行では膝内転モーメントが減少するのでしょうか?

 

 2015年に裸足と靴についての系統的レビューが報告されています。英国バーミンガム大学のSimon Franklinらは、1980年から2014年までに発表された21の論文をレビューし、裸足の歩行と靴の歩行の運動学的な違いについてまとめています(Franklin S, 2015)。

 

 まず、矢状面上での違いです。靴の歩行に比べて、裸足の歩行では、股関節の屈曲、伸展角度、足関節の背屈角度が減少し、歩幅、ストライドが減少します。その結果、歩行の速度が減少し、踵接地時の床反力が減少します。

 

 前額面上での違いは、裸足の歩行では、靴の歩行よりも足部が外反し、距骨下関節の回内が大きく、内側縦アーチが低下しやくなります。足部の外反は、膝関節の外反を誘導し、レバーアームを短くするとともに、アーチの低下は接地時の床反力を少なくすることに寄与します。

 

 ここで、膝内転モーメントの式を思い出してみましょう。膝内転モーメントは床反力とレバーアームによって規定されます。裸足の歩行では、歩行速度の減少や足部アーチの作用によって床反力が減少し、足部の外反にともなう膝関節の外反によるレバーアームの短縮によって膝内転モーメントが減少するのです。これにより、靴の歩行に比べて膝の負担が少なくなるのです。

 

 

◆ なぜ、裸足ではこのような運動学的な異なりが生じるのか?

 

 裸足と靴の歩行が運動学的に異なる要因は、現在でも明らかになっていませんが、足底にある104つのメカノレセプター(感覚受容器)によって生じると推測されています(Kennedy PM,2002)。

 

 歩行の環境適応は、踵接地時に行われることが歩行適応の研究で示されています。滑りやすい床面を歩くときは主に踵のメカノレセプターが床面の状況を感知し、滑らないように歩き方を変えてくれるのです。

歩行適応における踵接地の役割

 

 そして、歩行は「歩きやすい」という快適性を基準に適応することも分かっています。ヒトの歩行は、身体に負担が少ないように自動的にデザインされます。

歩き方をデザインする基準

 

 つまり、裸足の歩行では、靴の歩行よりも足底の圧を感じやすいことによって、身体に適した歩行速度に調整され、足部の柔軟な動きが開放されることも合わさり、膝への負担を減らしてくれるのです。

 逆を言えば、靴は足底の感覚入力を妨げ、身体への負担が大きい歩行を作り上げているのかもしれませんね。

 

 では、このような裸足の利点を生かした靴は、どのような靴なのでしょうか?

 次回、膝にやさしい靴を具体的に選定してみましょう。

 

 

変形性膝関節症の保存療法シリーズ

保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

 

Reference

Hunt MA, et al. Associations among knee adduction moment, frontal plane ground reaction force, and lever arm during walking in patients with knee osteoarthritis. J Biomech. 2006;39(12):2213-20.

Shakoor N, et al. Walking barefoot decreases loading on the lower extremity joints in knee osteoarthritis. Arthritis Rheum. 2006 Sep;54(9):2923-7.

Franklin S, et al. Barefoot vs common footwear: A systematic review of the kinematic, kinetic and muscle activity differences during walking. Gait Posture. 2015 Sep;42(3):230-9.

Kennedy PM, et al. Distribution and behaviour of glabrous cutaneous receptors in the human foot sole. J Physiol. 2002 Feb 1;538(Pt 3):995-1002

 

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