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リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

変形性膝関節症に良い靴選び③

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 変形性膝関節症に良い靴選びについて、近年の生体力学は「裸足(はだし)」が最もよいと言います。そのメカニズムは、裸足になることで足底のセンサーの感度が高まり、身体に合わせた歩き方に調整してくれること、足部の動きが開放されることによって足を着くときの衝撃が少なくなるというものでした。

変形性膝関節症に良い靴選び②

 

 しかし、裸足で外を歩くことはできません。そこで、裸足のメカニズムを利用することで膝に優しい靴を選ぶポイントがわかるのではないか?という視点で研究が進み、現在では一定の答えが出ています。

 

 今回は、変形性膝関節症に良い靴選びのポイントを明確にしていきましょう。

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◆ 膝によい靴のポイント

 

 変形性膝関節症(膝OA) の発症や進行には、歩行時に生じる膝の内側の負担(力学的負荷)が原因とされています。現在では、生体力学の発展により、力学的負荷を代替的に膝内転モーメントとして計測することができます。よって、膝内転モーメントが少なくなる靴が膝に良い靴であると定義されるのです。

 

 Shakoorらは、裸足のメカニズムを模倣した靴である「Mobility shoes(モビリティシューズ)」を作成し、モビリティシューズ、しっかりした靴(スニーカーなど)、裸足のそれぞれの膝内転モーメントを計測し比較しました(Shakoor N, 2008)。

 

 その結果、モビリティシューズは、スニーカーなどのしっかりした靴よりも膝内転モーメントが8%減少し、裸足とは差が認められませんでした。

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 *Fig.1:Shakoor N, 2008より引用改変。膝内転モーメントのピーク、インパルスにおいて、モビリティシューズはしっかりした靴よりも有意な低下を示している。

 

 この研究から、裸足のメカニズムを模倣したモビリティシューズは、一般的な靴よりも膝への負担が少ないことがわかりました。では、このモビリティシューズとはどのような靴なのでしょうか?

 

 その特徴は「靴底が薄く(1cm程度)、柔らかく(曲げられたり、ねじりやすい)、土踏まずのサポートがなく、軽い」というものです。このモビリティシューズの特徴が、そのまま膝に良い靴のポイントになるのです。

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 ✻Fig.2:Shakoor N, 2008より引用。「Mobility shoes」

 

 

◆ どんな靴を履けばよいのか?

 

 しかし、モビリティシューズは市販されていません。では、私たちは日常でどのような靴を選んで履けばよいのでしょうか?

 

 Shakoorらはこの問いにも答えを示しています。彼女らは膝OAの患者さんを対象に、一般的に使用されている4種類の靴と裸足の膝内転モーメントを計測しました(Shakoor N, 2010)。

 

 4種類の靴とは、踵の高いサンダル、スニーカーなどのしっかりした靴、靴底が薄くフラットな靴、靴底が薄くフラットなサンダルです。

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✻Fig. 3:Shakoor N, 2010より引用改変

 

 その結果、踵の高いサンダルやしっかりしたスニーカーは、靴底が薄くフラットな靴とサンダルや裸足に比べて、膝内転モーメントが15%も高かいことがわかりました。

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✻Fig.4:Shakoor N, 2010より引用改変。赤線は膝内転モーメントを示す。

 

 以上から、膝OAの発症や進行を予防したい場合、靴底が厚く、踵が高く、しっかりとした作りで、重い靴は避けたほうがよいでしょう。膝OAの予防には、靴底が薄く、フラットで、軽い靴やサンダルが推奨されているのです。

 

 このような報告は、今まで膝に良いとされていた靴とは大きく異なります。本当なのか?と思われる方もいらっしゃるでしょう。今回はShakoorらの報告を中心に紹介しましたので、他の研究者の報告も含めたシステマティックレビュー(つまりはエビデンス)を示しておきましょう。

 

 Nature reviewにおいて、2011年に変形性膝関節症に対する保存療法のレビューが報告されています(このような有名ジャーナルに保存療法がテーマになるのは珍しいのですが)。このレビューのなかで最初に取り上げられているのが靴なのです。その中で、裸足のメカニズムに近い靴底の薄くフラットで柔らかい靴が推奨されており、靴の選択が膝OAの進行を防ぐ有効な治療戦略になると述べてられています(Reeves ND, 2011)。

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*Fig.5:Reeves ND, 2011より引用。

 

 最後に、膝OAによい靴選びのポイントと注意点を示しておきましょう。

 ポイントは「靴底が薄く(1cm程度)、フラットで、柔らかく、軽い」です。

 注意点は、これらの靴の研究の対象が「膝OAが軽度の患者さん」であるということです。膝の内反変形が進んでいるような中〜重度の場合、痛みが強い場合は適応ではありません。その場合は、医師、理学療法士の指示を仰ぎましょう。

 

 私たちは、歩くときに靴を履きます。膝OAの発症や進行の原因である膝への負担は歩くときに生じます。それだけに靴選びには科学的な裏付けが大事になってきます。

 

  変形性関節症の国際的学会組織であるOARSIのガイドラインではこう示しています。

 “Every patient with hip or knee OA should receive advice concerning appropriate footwear”

「変形性股関節または膝関節症のすべての患者は、適切な靴の選択についてのアドバイスを受けるべきである」

 

 本エントリが少しでも靴選びの参考になると嬉しいですね。

 次回は、膝に良い靴の長期的な効果について最近の知見をご紹介しましょう。

 

最新のエントリ→『変形性膝関節症に良い靴選びのガイドライン』 

 

変形性膝関節症のリハビリテーション

保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

 

Reference

Englund M. The role of biomechanics in the initiation and progression of OA of the knee. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2010 Feb;24(1):39-46.

Shakoor N, et al. Walking barefoot decreases loading on the lower extremity joints in knee osteoarthritis. Arthritis Rheum. 2006 Sep;54(9):2923-7.

Shakoor N, et al. Effects of specialized footwear on joint loads in osteoarthritis of the knee. Arthritis Rheum. 2008 Sep 15;59(9):1214-20.

Shakoor N, et al. Effects of common footwear on joint loading in osteoarthritis of the knee. Arthritis Care Res (Hoboken). 2010 Jul;62(7):917-23.

Reeves ND, et al. Conservative biomechanical strategies for knee osteoarthritis. Nat Rev Rheumatol. 2011 Feb;7(2):113-22.

 

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