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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

社会心理学が教える幸せの方程式

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 今回は、ヴァージニア大学社会心理学者のジョナサン・ハイト著「しあわせ仮説」から「幸せの方程式」をご紹介したいと思います。

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 1990年代に幸福研究におけるふたつの大きな発見が心理学界を震撼させました。その発見は、幸福には遺伝的要因と環境的要因があり、特に遺伝的要因が強く関連しているというものでした。

 

 人の幸福感には閾値があり、幸せを感じる度合いは遺伝的に規定されてしまうというのです(Lykken DT, 1999)。つまり、幸せの感じ方は人それぞれであり、ある出来事を幸せと感じる人もいれば、感じない人もいるということです。そして、その感じ方は遺伝的に決まるのです。

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 しかし、2000年代に入り、遺伝子そのものは多くの場合、環境的要因に敏感であることがわかりました(Marcus G, 2004)。その結果、幸福感は確かに遺伝の影響を強く受けますが、それは閾値というよりは幸せを感じる「範囲」として捉えられているのです。

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 2005年、心理学者のLyubomirskyらは、幸せの範囲の高低を決める因子を特定しました。その因子は、生活条件と自発的活動です。生活条件には人生で変えることができるもの(財産、結婚や交際相手、住む場所など)と変えることができないもの(人種、性別、年齢、障害など)が含まれています。生活条件は、人生のある一定の期間は続くことが多いので、適応できる(慣れる)条件であるとしています。

 

 これに対して、自発的活動は学習や運動、休暇をとるなど自分で選択すものであり、適応する(慣れる)ものではないため、生活条件よりも幸福感を高める重要な因子とされています(Lyubomirsky S, 2005)。

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 そして、これらの研究結果から、現在では「幸せの方程式」が示さているのです。

 

 幸せの方程式

  H=S+C+V

 * H:幸福感、S:遺伝的範囲、C:生活条件、V:自発的活動

 

 幸福は遺伝的範囲と生活条件、自発的活動により決定するとLyubomirskyらは言います。さらに、幸福感を最大化するためには、遺伝的範囲は後天的には変えられないため、生活条件と自発的活動に注力すべきと述べています。

 

 生活条件では、人生で変えられるものとして、騒音のない住居に住む、長時間通勤を避ける、人間関係を良好にする、外見に気を使うことを助言として挙げています。これらの助言は全て、心理学的検証にもとづき幸福感を高めることが示されています。

 

 それでは、もっとも幸せの方程式に影響を与える自発的活動とはどういったものなのでしょうか?

 

 この問いに答えてくれるのがCsikszentmihalyiらの研究です。彼らは、研究の参加者にポケットベルを持たせ、ポケットベルが鳴るたびに、そのとき何をしているのか?どのくらい楽しんでいるのかをノートに記載させました。その結果、楽しみには2つのタイプがあることがわかりました。ひとつは、食事や性行為などの肉体的な快楽です。そしてもうひとつ、快楽以上に楽しさを示すものがあったのです。

 

 誰にでも「時間を忘れて何かに熱中した」という経験があるでしょう。おしゃべりに夢中になったり、少し挑戦的な作業に没頭したりしたことがあるはずです。このような「のっている」状態をCsikszentmihalyiらは「フロー」と名付けました。名付けた理由として、フロー状態とは、努力のいらない動きのようだからだと述べています。

 

 フローな状態を作りだす条件として、完全に注意を向けられる挑戦であること、その挑戦に見合った能力をもっていること、そして、課題の達成のフィードバックがすぐに得られることを挙げています。完全に没頭し、自分の強みが活かされ、我を忘れさせてくれるよう活動が自発的活動を高める要因になるのです。

 

 ジョナサン・ハントはこれらの知見のもと、「あなたの強み(フロー状態になれるもの)を見つけ、特に友人を助けたり、恩人に感謝を伝えたりといった人間同士の結びつきを強化する活動に用いることで幸福感を増大させることができる」と結論づけています。

  

 リハビリテーションを受けられる患者さんは、生活条件が著しく低下している可能性があります。セラピストである私たちは、患者さんが受け身ではなく、自発的に新たな挑戦ができるよう身体的、環境的な基盤を整え、その挑戦を支援する役割を担うべきなのでしょう。その役割を果たすことがセラピストの強みを活かすことにもなるのです。


 社会心理学は教えてくれています。あなたの強みを見つけ、受け身ではなく、自発的に強みを他者のために活かすことが幸せへの近道になるということを。

 

 

 幸せに関する社会心理学の知見が数多く紹介されています。幸せの知見をキャッチアップしておきましょう。

しあわせ仮説

しあわせ仮説

 

 

Reference

Lykken DT. 1999. Happiness: What Studies on Twins Show Us about Nature, Nurture, and the Happiness Set Point

Marcus G. 2004. The birth of the mind. New York: Basic books 

Lyubomirsky S, et al. The benefits of frequent positive affect: does happiness lead to success? Psychol Bull. 2005 Nov;131(6):803-55.

 

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