リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

スポンサーリンク

 

「運動前野、補足運動野から脳幹網様体に至る皮質網様体路は、姿勢制御に関与する」

 

 大脳基底核と運動制御の研究で著名な旭川医科大学の高草木教授は、動物研究、病態モデルからこのような仮説を提唱しています。そしてこの仮説は以下の根拠にもとづいています。

 

・ネコを用いた実験では、一側前肢を挙上する際に他の三肢と体幹を用いた姿勢のセットが前肢の挙上に先行する。この姿勢制御には、運動前皮質(6野)の活動が必要となる。

 

・運動前皮質は霊長類の運動前野と補足運動野に対応し、ネコを用いた実験から運動前皮質には皮質網様体路の投射が豊富であることが示されている(Matsuyama, 1997)。

 

・運動前野、捕捉運動野からの皮質網様体路は、基底核からの脱抑制とともに網様体脊髄路を活動させ、上肢などの随意運動に先行して体幹、上下肢のアライメントや筋緊張を調整する姿勢制御を行う。

 

パーキンソン病ジストニアのような基底核疾患の病態モデルからも皮質網様体路が姿勢制御に関与していることが説明できる。

 

 これらの動物実験、病態モデルにより、ヒトにおいても運動前野や捕捉運動野は豊富な皮質網様体路を介して網様体脊髄路を動員し、両上下肢の近位筋の協調的な運動や随意運動に先行する姿勢制御を行うことが推測されているのです(高草木 薫, 2009)。

f:id:takumasa39:20160310115817p:plain

 図:高草木 薫, 2009より引用改変

 

 しかしながら、ヒトの皮質網様体路の存在は確認されていません。また、その姿勢制御との因果関係も仮説の域を超えていないのです。これは、動物実験とは異なり、ヒトでは人為的に脳を損傷させることが倫理的に許されないためです。脊髄の歩行中枢であるCPGの存在が仮説の域を超えない理由もここにあります。

 

 このような背景のもと、神経学は動物実験と臨床研究によって相互を補完する翻訳神経科学によって発展してきました。動物実験で得られた仮説を神経生理学的検査や画像診断といった臨床研究によって証明し、また、臨床研究で生じた疑問を動物研究に落としこんで仮説を洗練させていくのです。今年の1月に発表された脳卒中後の新たな回復メカニズムの発表が良い例ですね。

脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

 

 そして近年、皮質網様体路の研究についても動物研究からヒトの臨床研究に移り変わり始めています。今回は、ヒトの皮質網様体路の存在とその役割を示した近年の画像研究についてご紹介します。



◆ 皮質網様体路は運動前野、補足運動野に由来する

 

 2012年、檀国大学校のYeoらは、拡散テンソルトラクトグラフィー(Diffusion tensor tractography:DTT)を用いて、初めて皮質網様体路を同定しました。

 

 研究結果から、皮質網様体路は運動前野、補足運動野に由来しており、放線冠、皮質脊髄路が通る内包後脚の前方を下降し、中脳被蓋を通り延髄網様体に到達することが示されています。

f:id:takumasa39:20160310121128p:plain

Fig.1:Yeo SS, 2012より引用改変。赤が皮質脊髄路で青が皮質網様体路。

 

 この結果より、運動前野、補足運動野には皮質網様体路の投射が豊富であるという動物実験の結果がヒトの画像所見においても初めて認められました。Yeoらは、皮質網様体路は運動関連領野に起始をもち、運動関連領野による運動プログラミングに伴う随伴性の姿勢制御に関わっている可能性があると述べています(Yeo SS, 2012)。

 

 

◆ 皮質網様体路は近位筋を制御する

 

 皮質網様体路は随意運動に先行して近位筋を制御することが動物実験により示さています。ヒトでは、随意運動に先行する近位筋の制御は補足運動野が関与していることが脳波による神経整理学研究で示唆されています(Yoshida S, 2008)。しかし、皮質網様体路が近位筋を制御しているという知見は報告されていませんでした。

 

 2013年、嶺南大学のDoらは皮質網様体路の近位筋への関与を調べるために、近位筋の弱化を認め、皮質脊髄路は損傷を受けていない脳梗塞患者4名を対象に皮質網様体路のDTTを計測しました。その結果、被験者4名全員の皮質網様体路に断裂またはワーラー変性が生じていることが示されたのです。

f:id:takumasa39:20160310121438p:plain

Fig.2:Do KH, 2013より引用改変。左放線冠梗塞の症例。皮質脊髄路は損傷されていないが、左の皮質網様体路が断裂されている。

 

 さらに、2013年、YeoらはCRP損傷した脳挫傷患者の近位筋が弱化したというケース報告を発表しました。

 

 症例は62歳の男性、右前頭側頭葉の脳挫傷にて保存療法を行いました。発症後2週で主に右肩、股関節周囲筋の弱化を認めました。

f:id:takumasa39:20160310121548p:plain

Fig.3:Yeo SS, 2013より引用。MRCは筋力の指標でMMTとほぼ同義。

 

 DTTの測定では、皮質脊髄路の損傷はなく、皮質網様体路のみが損傷されていました。この所見から、右肩、股関節の近位筋の弱化に皮質網様体路の損傷が寄与していることが示唆されたのです(Yeo SS, 2013)。

f:id:takumasa39:20160310121840p:plain

Fig.4:Yeo SS, 2013より引用改変。左の皮質網様体脊髄路が中脳レベルで断裂している。

 

 

 これらのDTTの研究報告から動物実験で示された皮質網様体路は運動前野、補足運動野に由来すること、その役割は近位筋を制御することという仮説がヒトの画像研究においても明らかになりつつあるのです。

 

 では、皮質網様体路の主要な役割である姿勢制御、そして歩行制御に関与するという仮説はヒトの画像研究においても証明できるのでしょうか?次回、最近の報告も合わせてご紹介していきます。

 

 

姿勢制御のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②

シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と予測的姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ステップ動作の予測的姿勢制御を理解しよう!

シリーズ⑨:H反射を理解して立位姿勢制御のしくみを知ろう

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ② 

シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と歩行制御 

シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①

シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②

 

 

参考資料

高草木 薫. 大脳基底核による運動の制御. 臨床神経,49:325―334, 2009


Reference

Jang SH, et al. Functional role of the corticoreticular pathway in chronic stroke patients. Stroke. 2013 Apr;44(4):1099-104.

Yoshida S, et al. Anticipatory postural adjustments modify the movement-related potentials of upper extremity voluntary movement. Gait Posture. 2008

Do KH, et al. Injury of the corticoreticular pathway in patients with proximal weakness following cerebral infarct: diffusion tensor tractography study. Neurosci Lett. 2013 Jun 24;546:21-5.

Yeo SS, et al. Proximal weakness due to injury of the corticoreticular pathway in a patient with traumatic brain injury. NeuroRehabilitation. 2013;32(3):665-9.

 

「説明がわからない」「これが知りたい」などのご意見はTwitterまでご気軽にご連絡ください。