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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

変形性股関節症の保存療法の基本戦略①

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 変形性股関節症の保存療法をリスクマネージメントの観点から考えてみると、変形性股関節症を悪化させるリスク因子を明確化し、影響度の高い因子から防止策を講じることが効率的で効果的な保存療法につながります。

 

 では、変形性股関節症を悪化させる影響度の高いリスク因子とは何なのでしょうか?

 

 今回は、いくつかのSystematic reviewをもとに、変形性股関節症のリスク因子について考察してみましょう。

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 まず、注意しておきたいことは、変形性股関節症のリスク因子は、発症に関する因子と悪化に関する因子では異なるということです。

 

 発症のリスク因子は、臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼、肥満や過度のスポーツ、重たい物をあつかう仕事などが挙げられています。変形性股関節症を予防するためにはこれらの発症因子に対応する必要があります。しかし、変形性股関節症が発症した場合、保存療法の目的は悪化を防ぐことです。そのためには悪化のリスク因子に対応しなければなりません。

 

 2009年、オタゴ大学のWrightらは、変形性股関節症の悪化させるリスク因子について18の論文をまとめたレビューを発表しています。

 

 その報告によると、変形性股関節症を悪化させる因子は、年齢、股関節の痛み、関節腔の狭小化、骨棘、骨硬化症、大腿骨の外側偏位といった軟骨や骨の変性であると結論づけています。さらに、発症のリスク因子とは異なり、体重は変形性股関節症の悪化には関与しないと報告しています(Wright AA, 2009)。

 

 変形性股関節症の悪化のリスク因子は、発症のリスク因子とは異なり、股関節の痛みや軟骨・骨の変性であり、これらのもととなる要因に介入することが保存療法の目的のひとつになるのです。



◆ メカニカルストレスが変形性股関節症を悪化させる

 

 生体力学の発展により、変形性膝関節症のリスク因子は、メカニカルストレスであることが明らかになっています。メカニカルストレスとは、力学的負荷のことを言い、変形性膝関節症の場合は「膝関節内転モーメント」が悪化のリスク因子とされています。

変形性膝関節症を予防する基本戦略

 

 そのため、近年の変形性膝関節症の保存療法では、膝痛や関節症の進行を防ぐために膝関節内転モーメントをいかに減少させるか?ということに主眼がおかれているのです。

変形性膝関節症の保存療法に関するエントリ

 

 2013年、FelsonらはOsteoarthritis and Cartilageのレビューの中で、変形性膝関節症だけでなく変形性股関節症においてもメカニカルストレスが悪化の要因であると述べています。変形性股関節症を悪化させるメカニカルストレスとして、股関節を形成する臼蓋と大腿骨頭に生じる「接触応力(Contact force)」が注目されています。

 

 変形性股関節症は発症要因である臼蓋形成不全などをベースにして、接触応力が局所的に高まった部分から滑膜炎が生じます。初期の変形性関節症では、炎症を起こした滑膜により軟骨を分解させるタンパク質分解酵素が過剰生産されます。これらの酵素は、軟骨マトリックスの分解と修復のバランスを阻害し、軟骨の破壊を促進することが報告されています(Sellam J, 2010)。

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Fig.1:Sellam J, 2010より引用

 

 滑膜炎による軟骨破壊とともに骨のリモデリングや骨棘化も進んでいきます。軟骨や骨の変性が進むと局所的な関節のスペースが狭まり、接触応力がますます高まるという悪循環が形成され、変形性股関節症が進行していくのです(Felson DT, 2013)。

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Fig.2:Felson DT, 2013より引用改変

 

 変形性股関節症を悪化させるリスク因子である股関節の痛みや軟骨・骨の変性は股関節のメカニカルストレスである接触応力によって生じます。また、初期の変形性股関節症では、接触応力によって生じる炎症を防ぐことがその後の軟骨変性の進行を予防する上で重要であるとSellamらは述べています。

 

 また、Felsonらは、股関節の変形とメカニカルストレスの悪循環を断ち切るためには、メカニカルストレスにアプローチすることが効果的であると述べています。

 

 このような背景から、変形性股関節症の保存療法では、接触応力のようなメカニカルストレスをいかに減少させるかが悪化を防ぐポイントになるのです。

 

 では、股関節のメカニカルストレスは何によって生じるのでしょうか?この問いについては次回、考察していきましょう。このメカニズムがわかると保存療法の基本戦略が見えてくるはずです。

 

 

変形性股関節症の保存療法

シリーズ①:変形性股関節症の保存療法と基本戦略①

シリーズ②:変形性股関節症の保存療法と基本戦略②

シリーズ③:変形性股関節症の保存療法と基本戦略③

 

変形性股関節症リハビリテーション

股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント

股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点

股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由

股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方

股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か

股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2) 

股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント

股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント

股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法

股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度

股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法

股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展

股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法

股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント

股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)

股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ

 

Reference

Wright AA, et al. Variables associated with the progression of hip osteoarthritis: a systematic review. Arthritis Rheum. 2009 Jul 15;61(7):925-36.

Felson DT. Osteoarthritis as a disease of mechanics. Osteoarthritis Cartilage. 2013 Jan;21(1):10-5.

Sellam J, et al. The role of synovitis in pathophysiology and clinical symptoms of osteoarthritis. Nat Rev Rheumatol. 2010 Nov;6(11):625-35.