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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

変形性膝関節症の予防⑤ 生体力学が教える注意すべき日常生活動作

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 現代の生体力学は、変形性膝関節症の予防や保存療法についてのポイントをひとことで説明しています。

 

「膝内転モーメントを減少させよう」

 

 そして近年では、歩行時の膝内転モーメントを減少させるという基本戦略にもとづき、様々なリハビリテーションアプローチが報告されています。

変形性膝関節症の保存療法に関するエントリ

 

 また、変形性関節症の保存療法では日常生活動作への介入も効果的とされています。しかし、数多くある日常生活動作のどの部分に気をつければ良いのでしょうか?

 

 この問いについても近年の生体力学が答えを示しています。

 

 今回は、変形性膝関節症の日常生活動作で注意すべきポイントについて考察してきましょう。

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◆ 日常生活で注意すべきは「浅い屈曲角度での荷重動作」

 

 動作時に生じる膝関節の接触応力を計測するために観血的に膝関節の中にセンサーを入れることは倫理的な理由でできません。そのため生体力学研究では動作分析のデータと数学的モデルから間接的に接触応力を導き出してきました。しかし、間接的に得た接触応力のデータには誤差が大きいことが以前から指摘されていました(Taylor SJ,1998)。

 

 この問題に対して、スタンフォード大学のD’LimaとMündermannらは人工膝関節に圧センサーを組み込みむことによって日常生活動作で生じる膝関節の接触応力を直接的に計測する試みを行いました。

 

 2007年、D’Limaらは圧センサーを組み込んだ人工膝関節の置換術(TKA)を行った83歳の男性を対象に日常生活動作時の膝関節の接触応力を測定しました。

 

 日常生活動作として、歩行、階段の昇段、椅子からの起立、スクワット動作時の接触応力を計測したところ、階段の昇段が体重の3.0倍と最も接触応力が高く、次いで椅子からの立ち上がり(2.5倍)、歩行(2.3倍)、スクワット動作(2.0倍)という結果になりました(D'Lima DD, 2007)。

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Fig.1:D'Lima DD, 2007より引用改変

 

 さらに2008年、Mündermannらは同じように圧センサーを組み込んだTKA術後の81歳の男性を対象に日常生活動作時の膝の接触応力を測定しました。

 

 日常生活動作は、歩行、階段の昇段と降段、椅子からの起立と着座、スクワット動作、ゴルフスイングの7つを計測しました。また、最大接触応力が生じたときの膝関節角度も同時に測定しています。

 

 その結果、最も接触応力が高い動作は階段の昇段と降段、ゴルフスイングであり、次いで歩行、スクワット動作、椅子からの起立と着座の順となりました。

 

 この結果は、D’Limaらの報告とほぼ同じでしたが、各動作における最大接触応力とそのときの膝屈曲角度の関係性を見てみるとより興味深いことがわかりました。

 

 最も接触応力が大きい階段昇降やゴルフスイング時の膝屈曲角度は40度以内であるのに対して、接触応力が低くかった椅子からの起立と着座、スクワット動作では膝屈曲角度は60度を超えていました。

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Fig.2:Mündermann A, 2008より引用改変

 

 これらの結果から、Mündermannらは膝関節の接触応力は階段昇降などの膝屈曲角度の浅い荷重動作で大きくなる傾向にあり、このような動作が変形性膝関節症の増悪に寄与することを示唆しています(Mündermann A, 2008)。

 

 しかし、これらの報告はシングルケースであり、臨床応用するための信頼性について疑義が挙がっていました。

 

 この問題に答えるように2010年、ベルリン大学のKutznerらは圧センサーを入れたTKA患者5名を対象に日常生活動作時の膝の接触応力を計測しました。

 

 日常生活動作は、片脚立位、椅子からの起立、スクワット動作、歩行、階段の昇段と降段の6つを計測しています。

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Fig.3:Kutzner I, 2010より引用

 

 その結果、階段の降段が最も接触応力が高く、次いで階段の昇段、歩行、片脚立位、スクワット動作、椅子からの起立となりました。

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Fig.4:Kutzner I, 2010より引用改変

 

 これらの結果は、D’LimaとMündermannらの報告とほぼ同様であり、階段の昇降など膝関節の屈曲角度が浅い荷重動作時に接触応力が高くなる傾向が改めて示されたのです(Kutzner I, 2010)。

 

 

 日常生活動作で注意すべきポイントは階段昇降のような「膝関節の屈曲角度が浅い荷重動作」なのです。この視点で考えれば、荷物を持ち上げるときは膝を浅く曲げた姿勢ではなく、ある程度、屈曲させて持ち上げるようにアドバイスするなど臨床応用できそうですね。

 

 しかしながら、Kutznerらの報告も対象者が5名と少なく、統計的有意差を示しているわけではありません。そのため臨床応用する場合は、アドバイスとともに動作時の疼痛評価などの配慮が必要と思われます。

 

 では何故、膝の浅い屈曲角度で接触応力が高まってしまうのでしょうか?次回、その理由を生体力学と形態学の知見から考えてみましょう。

 

 

変形性膝関節症の保存療法シリーズ

保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

保存療法⑩:変形性膝関節症の予防⑤ 生体力学が教える注目すべき日常生活動作 

 

Reference

Taylor SJ, et al. The forces in the distal femur and the knee during walking and other activities measured by telemetry. J Arthroplasty. 1998 Jun;13(4):428-37.

D'Lima DD, et al. In vivo knee moments and shear after total knee arthroplasty. J Biomech. 2007;40 Suppl 1:S11-7.

Mündermann A, et al. In vivo knee loading characteristics during activities of daily living as measured by an instrumented total knee replacement. J Orthop Res. 2008 Sep;26(9):1167-72.

Kutzner I, et al. Loading of the knee joint during activities of daily living measured in vivo in five subjects. J Biomech. 2010 Aug 10;43(11):2164-73.

 

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