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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 そして新たな展開へ

脳卒中のリハビリテーション
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 2015年に発表された脳卒中の超早期リハビリの大規模RCTであるAVERTⅢ(A very early rehabilitation trial Ⅲ)は超早期リハビリの有効性を棄却するものであった。この結果は、30年にわたる脳卒中の超早期リハビリ論争に一石を投じるものとなり、世界的にも大きな話題となる。

 

 世界最大の医学情報サイトであるMedscapeも大きく報じられている。

 ”AVERT: Very Early Mobilization Harmful in Stroke(脳卒中に有害な超早期リハビリ)” by Medscape

 

 日本においてもメディアだけでなく、脳卒中治療に関わる多くの医師やリハビリスタッフも個人ブログなどで言及している。

 

 このように大きな話題を与えたAVERTⅢであったが、話はここで終わらない。

 

 2016年に入るとAVERTⅢを批判的に論じた報告が発表される。チューリッヒ大学のLuftらは、AVERTⅢのアウトカム設定の妥当性に疑義を訴えるとともに、超早期リハビリと通常ケアにおけるリハビリの開始時期、頻度、量の設定がなされていないことを批判した。

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 AVERTⅢの全容と批判

 

 Luftらの批判を受ける中、AVERTの研究グループは次のアクションを起こしていた。AVERTⅢの強みは被験者が2000名を超えるという圧倒的な情報量である。研究グループはAVERTⅢのデータを再活用し、脳卒中の超早期リハビリに対する新たな知見を示したのである。

 

 それは「More frequent but lower dose(より頻回に、しかし少ない量を)」というものであった。

  

 

脳卒中の超早期リハビリの新たな展開

 

 AVERTの主要研究者であるメルボルン大学のBernhardtらは、2016年6月、AVERTⅢのデータを用量反応分析(dose-response analysis)で解析した結果を雑誌Neurologyで報告した。

 

 用量反応分析は用量による反応を分析する統計手法であり、例えば薬剤の量とその効用の分析に用いられる。今回はリハビリの開始時期、頻度、量が脳卒中発症3ヶ月後の転帰にどのように影響するのかを解析した。

 

 対象は脳卒中患者2,083名であり、脳卒中発症後20.2時間(平均値)でリハビリを開始し、頻度は1日5回、1回の量は17.5分、1日の総量は120分であった(頻度、量は中央値)。

 

 Bernhardtらはこれらのデータと発症3ヶ月後の転帰をClassification and Regression Tree(CART)を用いて統計解析すると興味深い結果が示された。

 *CART(カート)は、mRSのような順序尺度もあつかえ、信頼性の高い予測モデルを生成できる解析手法であり、決定木(ディシジョン・ツリー)をイメージするとわかりやすい。

 

 CARTで分析した結果、リハビリの開始時間を一定(20.2時間)とすると良好な転帰に寄与する因子は「少ない量と多くの頻度」であることがわかったのである。

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Fig.1:Bernhardt J, 2016より引用

 

 CART分析によると13.5分以内の短いリハビリを1日に数回行ったグループの63.6%が3ヶ月後の転帰が良好であったとしている。

 

 また、短時間で頻回なリハビリを行うことによって発症後3ヶ月後の良好な転帰は13%増加し、歩行能力は60%以上改善することが示された。

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Fig.2:Bernhardt J, 2016より引用

 

 さらに、短時間で頻回のリハビリは、死亡率や合併症を低下させることも併せて示されている。

 

 超早期リハビリでも頻度と量に留意することによって長期的な転帰を改善させ、安全性を担保しながら合併症も予防できる可能性が示唆されたのである。

 

 脳卒中の超早期リハビリのポイントは「More frequent but lower dose」であり、Bernhardtらはこの結果を受けて3つのメッセージを送っている。

 

 ひとつは、脳卒中の超早期リハビリは介入内容に注意しなければならない。

 

 ふたつめは、脳卒中の超早期リハビリには頻度が長期的なアウトカムに寄与する重要な因子である。

 

 みっつめは、脳卒中リハビリは多くの量を練習することが良い結果をもたらすという一般的な考えを再考する段階に来ている。

 

 これらのメッセージとともに今回の研究は後方視的な観察研究であるため、今後、大規模なRCTを行う必要があることを本研究のlimitation(限界)として述べている(Bernhardt J, 2016)。



◆ 日本の脳卒中急性期リハビリの今後 

 

 脳卒中の超早期リハビリに有効性がないことを示したAVERTⅢが報告された2ヶ月後、日本脳卒中学会は脳卒中治療ガイドライン2015を発表した。そのためAVERTⅢの結果はガイドラインに反映されなかった。

 

ガイドライン2015の急性期リハビリの項目では「できるだけ発症後早期から積極的なリハビリを行うことが強く勧められる(グレードA)」とガイドライン2009と同じ内容が記載され、解説の中では超早期リハビリの大規模研究の結果が待たれるとしている。

 

 次回のガイドラインには今回のAVERTⅢの結果や今後、予定されているAVERTⅣまでの結果が反映される可能性がある。

 

 今後の日本の脳卒中急性期リハビリでは、現行の20分1単位の枠組みをより短時間に変更したり、医師や看護師と共同した脳卒中ケアチームとしての低量頻回の離床介入が評価されるようになるかもしれない。

 

 これからも次回のAVERTⅣをはじめ、世界で行われている脳卒中の超早期リハビリ研究の動向に注目していきたい。

 

 

脳卒中の急性期リハビリテーション

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ①

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ②

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 AVERTⅢの全容と批判

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 そして新たな展開へ

 

Reference

Bernhardt J, et al. Prespecified dose-response analysis for A Very Early Rehabilitation Trial (AVERT). Neurology. 2016 Jun 7;86(23):2138-45.