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リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

脳卒中患者さんが長い距離を歩けるようになるためのポイント

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  友人との買い物、恋人とのデート、家族とのお出かけ、どれも楽しいですよね。私たちは他者との関わり合いの中から「幸せ」を感じます。なぜなら、ヒトは社会的な動物だからです。

社会心理学が教える幸せの方程式

 

 他者との社会的活動を共有するためには、「外出」できることが必要条件となります。しかし、病気になると外出することが制限されることがあります。

 

 特に、歩くことが障害されやすい脳卒中後の患者さんでは、健常者に比べて1日の歩数が大きく減ってしまうことが明らかになっています。

 

 ディスクワーク中心の仕事をしている健常成人の1日の平均歩数が5000〜6000歩であるのに対して、脳卒中患者さんは平均3000歩とより少ない傾向が示されています(Michael KM, 2005)。

 

 これは、脳卒中後の歩行障害によって、歩行時のエネルギーコストが大きくなってしまうからです(Olney SJ, 1996)。

 

 そのため脳卒中後の患者さんは、近所の友達に会いに行ったり、出かけるといった地域参加が制限されやすいのです。

 

 リハビリテーションでは、脳卒中後のQOLを高めるためにも、地域参加の機会を増やすことがことが求められており、歩行耐久性の改善が研究分野においても大きなイシューになっています。

 

 

◆ 歩行耐久性を向上させるポイント

 

 2015年、デラウェア大学のAwadらは、歩行耐久性に関する運動学的な因子を明らかにする研究結果の報告をしています。

 

 発症から6ヶ月以上が経過した慢性脳卒中患者45名を対象に、6分間歩行の距離と下肢の運動学的因子(麻痺側下肢の推進力や関節角度など)を計測しました。その後、12週間のリハビリを行い、6分間歩行距離の改善にどのような下肢の運動学的因子が関与しているかを統計解析しました。

 

 その結果、6分間歩行距離に最も関与してい運動学的因子は、麻痺側下肢の推進力と麻痺側下肢の立脚後期の角度(Trailing limb angle:TLA)であることわかったのです。

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Fig.1:Awad LN, 2015より引用改変

 

 さらに、6分間歩行距離の変化と推進力、TLAの関係を見てみると興味深いことがわかりました。

 

 もともと麻痺側下肢の推進力が高い患者さんの場合、6分間歩行距離の増加にTLAの改善が大きく寄与していたのです。

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Fig.2:Awad LN, 2015より引用改変


 Awardらの報告は、脳卒中患者の6分間歩行距離の改善に関与する因子は、麻痺側下肢の推進力とTLAであること、麻痺側下肢の推進力を効率的に生かすためには、TLAの改善が不可欠であることを示唆しています(Awad LN, 2015)。

 

 TLAの角度が少ない場合、麻痺側下肢の推進力が大きくても、推進力を効率よく前方へ進む力に生かすことができません。TLAの角度を増大させることによって、麻痺側下肢の推進力を効率的に前方へ進む力に変えることができるのです。そのため、歩行のエネルギーコストが少なくなり、歩行の耐久性が向上すると推測されています。

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 脳卒中患者さんの歩行耐久性を改善させるためのポイントは、「麻痺側下肢の推進力」と「麻痺側下肢の立脚後期の角度(TLA)」なのです。

 

 

◆ 外出するためには歩行速度と歩行耐久性が必要

 

 以前より、脳卒中患者さんが外出するための重要な因子は、「歩行速度」であることが明らかになっていました。歩行速度の改善が脳卒中後の外出頻度とQOLに関与しているのです。

脳卒中後の歩行速度とQOL

 

 さらに近年では、歩行速度だけでなく、歩行の耐久性も脳卒中後の外出頻度を高める重要な因子であることがわかってきました(Combs SA, 2013)。

 

 脳卒中後の地域参加には歩行速度と歩行耐久性の改善が必要となるのです。

 

 歩行速度の増加には「麻痺側下肢の推進力」と「TLA」の改善が寄与することがわかっています。

生体力学が教える速く歩くためのポイント

生体力学が教える速く歩くためのポイント②

 

 そして今回の研究結果から、歩行耐久性の改善にも、歩行速度と同じように「麻痺側下肢の推進力」と「TLA」の改善が寄与することが明らかになったのです。

 

 「麻痺側下肢の推進力」と「TLA」は脳卒中後の歩行能力の改善とともにQOLの改善においても重要なKey wordsになるのかもしれませんね。

 

 次回は、この麻痺側下肢の推進力とTLAを改善する方法についてご紹介する予定です。



歩行のしくみとリハビリテーション

歩行のしくみ①:CPGについて考えよう

歩行のしくみ②:歩行適応について考える 

歩行のしくみ③:歩行適応の神経メカニズム

歩行のしくみ④:歩行を早く適応させる2つの方法

歩行のしくみ⑤:歩行を早く適応させる2つの方法・その2

歩行のしくみ⑥:歩行の起源

歩行のしくみ⑦:歩き方をデザインする基準

歩行のしくみ⑧:歩行適応における踵接地の役割 

歩行のしくみ⑨:加齢により歩行の適応能力は変化する?①

歩行のしくみ⑩:加齢により歩行の適応能力は変化する?②

歩行のしくみ⑪:歩行速度で余命を予測しよう

歩行のしくみ⑫:歩行速度で転倒リスクを予測しよう

歩行のしくみ⑬:脳卒中後の歩行速度とQOL

歩行のしくみ⑭:生体力学が教える速く歩くためのポイント 

歩行のしくみ⑮:生体力学が教える速く歩くためのポイント②

歩行のしくみ⑯:脳卒中の発症部位と歩行速度

歩行のしくみ⑰:ヒトの皮質網様体路と歩行制御

歩行のしくみ⑱:ステップ動作の予測的姿勢制御を理解しよう!

歩行のしくみ⑳:脳卒中患者さんが長い距離を歩けるようになるためのポイント

 

Reference

Michael KM, et al. Reduced ambulatory activity after stroke: the role of balance, gait, and cardiovascular fitness. Arch Phys Med Rehabil. 2005 Aug;86(8):1552-6.

Olney SJ, et al. Hemiparetic gait following stroke. Part I: characteristics. Gait Posture. 1996;  4:136–148.

Awad LN, et al. Paretic Propulsion and Trailing Limb Angle Are Key Determinants of Long-Distance Walking Function After Stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2015 Jul;29(6):499-508.

Combs SA, et al. Is walking faster or walking farther more important to persons with chronic stroke? Disabil Rehabil. 2013 May;35(10):860-7.