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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

変形性膝関節症は体重を減らせばOK!という簡単な話ではありません

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 変形性膝関節症の発症や悪化の主な原因は、歩行時の膝関節に生じる接触応力とされています。

変形性膝関節症のリハビリの新しい考え方

 

 接触応力には体重が大きく関係しているため、変形性膝関節症の発症や悪化の要因に肥満や体重過多が挙げられています(Lohmander LS, 2009)。

 

 そのため、体重の減量は、膝の接触応力を減らす最も効果的な方法であるとされているのです(Christensen R, 2007)。このような研究報告をもとに、多くの書籍やウェブメディアでも体重の減量を推奨しており、変形性膝関節症と体重で検索すると「減量しましょう!」という文言がならんでいますね。

 

 しかし、最近の研究報告から、話はそんなに簡単でないことが明らかになりました。体重を減らせば変形性膝関節症の悪化を予防できる、というわけではないのです。



◆ 変形性膝関節症の減量は、確かに効果がある

 

 一般的には、体重1kgを減らすと、膝の接触応力は2〜4kgが減少するとされており(Messier SP, 2005)、肥満の変形性膝関節症患者を対象にした最近の研究では、16週間の減量プログラムにより体重が13%減少すると、歩行時の膝関節の接触応力が7%低下することが明らかになっています(Aaboe J, 2011)。

 

 変形性膝関節症の肥満患者に対する減量の効果を検証したシステマティックレビューやメタアナリシスでは、減量により膝の痛みが減少すること(Christensen R, 2007)、歩行機能が改善し、歩行速度が向上すること(Vincent HK, 2012)などが示されています。

 

 このような研究背景から、変形性関節症の唯一の国際学会であるOARSI(Osteoarthritis Research Society lnternational)、英国の国営医療保険機関であるNICE(National lnstitute for Health and Clinical Excellence)、米国整形外科学会のAAOS(American Academy of Orthopaedic Surgeons)の3つのガイドラインにおいて、変形性膝関節症の体重減量の有効性に高いエビデンスレベルが明記されているのです。特に肥満や体重過多の場合は、減量が保存的治療として強く推奨されています。

 

 なるほど、確かに変形性膝関節症(特に肥満や体重過多)の体重の減量は効果があるのです。



◆ 変形性膝関節症の肥満特異的な歩行適応

 

 ヒトは足に痛みがあると、なるべく痛みがでないよう逃避的な歩き方になり、歩く速度を遅くします。このようにヒトは、内的・外的環境に合わせて、無意識下で歩行を適応させます。

歩き方をデザインする基準

 

 近年、変形性膝関節症の肥満患者さんは、通常の膝関節症の患者さんと異なった特異的な歩き方に適応することがわかっています。

 

 イーストカロライナ大学のDeVitaらは、変形性膝関節症の肥満患者の歩行を3次元動作解析し、肥満特異的な歩行の適応が行われることを明らかにしました。

 

 肥満患者は、痩せている患者に比べて、歩幅を狭くし、歩行速度を低下させます。

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Fig.1:DeVita P, 2003より引用改変

 

 また、膝関節に生じる関節トルクが有意に減少していました。 

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Fig.2:DeVita P, 2003より引用改変

 

 膝関節トルクは膝の筋力、関節の負荷を示します。よって変形性膝関節症の肥満患者は、痩せている患者に比べて、歩幅を狭くし、歩行速度を遅くすることによって、膝関節の筋力をなるべく使わないようにして、膝関節の接触応力を小さくするような歩行に適応するのです。

 

 体重過多の患者さんは、膝の痛みや接触応力を和らげるために、無意識のうちに独自の歩行様式に適応しているのです。

 

 では、このような肥満特異的な歩行に適応している患者さん対して、体重の減量がどのような悪影響を与えるというのでしょうか?

 

 

◆ 減量による歩行速度の改善が膝の接触応力を増大させる

 

 ヒトの歩行は内的環境に応じて歩き方を変えるため、肥満によって歩行が変わるように、減量によっても歩行が変わります。

 

 イーストカロライナ大学のHortobágyiらは、短期間で過度な減量を行った場合、歩行速度の増加に膝の筋活動が追いつかないことを明らかにしました。

 

 肥満の変形性膝関節症患者を対象に減量後、4ヶ月ごとのフォローアップを1年間行った結果、歩行速度は期間に応じて速くなりました。

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Fig.3:Hortobágyi T, 2011より引用改変

 

 関節トルクでは、股関節、足関節のトルクは期間に応じて減少しましたが、膝関節トルクのみ変化しませんでした。

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Fig.4:Hortobágyi T, 2011より引用改変

 

 これは、減量により歩行速度は増加するが、膝を制御する筋活動が適応できていないことを意味しています(Hortobágyi T, 2011)。

 

 このような知見をもとに、2013年、コペンハーゲン大学のHenriksenらは変形性膝関節症の肥満患者の過度な減量に対して警鈴を鳴らしています。

 

 Henriksenらは、157名の変形性膝関節症患者を対象に、16週間の減量が膝関節の接触応力に与える影響とその後1年間の症状、関節症の悪化の程度について調査しました。

 

 16週間の減量プログラムを行った結果、対象者の1/3にあたる57名に膝関節の接触応力の増大を認めました。しかし、1年間で膝痛などの症状や関節症の有意な悪化は認めませんでした。

 

 この結果から、Henriksenらは、減量による歩行速度の増大が膝関節の接触応力を高め、高まった接触応力が長期的には関節症の悪化に寄与するだろうと推測しています(Henriksen M, 2013)。

 

 2016年、イーストカロライナ大学のDeVitaらは、さらに減量と膝関節の接触応力の関係について詳細に検討した結果を発表しています。

 

 体重過多の変形性膝関節症の患者を対象に、減量後の膝関節の接触応力を計測した結果、減量後から半年までは有意に接触応力が減少しましたが、1年後では接触応力のファーストピークが増加する傾向が示唆されました。

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Fig.5:DeVita P, 2016より引用改変

 

 この結果から、DeVitaらは、変形性膝関節症の減量は膝の接触応力を減少させる効果があるが、過度な減量は長期的に膝の接触応力を高める可能性があり、注意が必要であると結論づけています(DeVita P, 2016)。

 

 

 これらの知見から言えることは、体重過多である変形性膝関節症の患者さんに減量を勧める場合、短期間で急激な減量は控えることが大事です。急激な減量は、歩行速度を向上させますが、膝関節機能が適応できずに接触応力を高めしまうリスクがあるためです。

 

 さらに、減量後の対応においても、歩行速度の改善による膝の接触応力の増大を予防することに配慮すべきでしょう。変形性膝関節症の患者さんに減量のみを指示をするのではなく、運動療法をはじめ、膝の接触応力を低下させる靴の選択や膝拘縮の予防、生活指導についても合わせて指導すべきと思われます。

変形性膝関節症に良い靴選び

膝の屈曲拘縮を予防しよう

変形性膝関節症の注意すべき日常生活動作とその理由』 

 

 患者さんに介入する際は、その介入が与える影響について、細部にまでこだわり配慮していきたいですね。

 

 

変形性膝関節症の保存療法

保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

保存療法⑩:変形性膝関節症の予防⑤ 生体力学が教える注意すべき日常生活動作 

保存療法⑪:変形性膝関節症の予防⑥ 注意すべき日常生活動作とその理由

保存療法⑫:変形性膝関節症は体重を減らせばOK!という簡単な話ではありません

 

Referece

Lohmander LS, et al. Incidence of severe knee and hip osteoarthritis in relation to different measures of body mass: a population-based prospective cohort study. Ann Rheum Dis. 2009 Apr;68(4):490-6.

Christensen R, et al. Effect of weight reduction in obese patients diagnosed with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. Ann Rheum Dis. 2007 Apr;66(4):433-9.

Messier SP, et al. Weight loss reduces knee-joint loads in overweight and obese older adults with knee osteoarthritis. Arthritis Rheum. 2005 Jul;52(7):2026-32.

Aaboe J, et al. Effects of an intensive weight loss program on knee joint loading in obese adults with knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2011 Jul;19(7):822-8.

Vincent HK, et al. Rapid changes in gait, musculoskeletal pain, and quality of life after bariatric surgery. Surg Obes Relat Dis. 2012 May-Jun;8(3):346-54.

DeVita P, et al. Obesity is not associated with increased knee joint torque and power during level walking. J Biomech. 2003 Sep;36(9):1355-62.

Hortobágyi T, et al. Massive weight loss-induced mechanical plasticity in obese gait. J Appl Physiol (1985). 2011 Nov;111(5):1391-9.

Henriksen M, et al. Is increased joint loading detrimental to obese patients with knee osteoarthritis? A secondary data analysis from a randomized trial. Osteoarthritis Cartilage. 2013 Dec;21(12):1865-75.

DeVita P, et al. Reductions in knee joint forces with weight loss are attenuated by gait adaptations in class III obesity. Gait Posture. 2016 Mar;45:25-30.