リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

変形性膝関節症に伴う歩行時の体幹傾斜が体幹筋に与える影響(論文紹介)

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 今回は、雑誌Gait & Posture7月号に掲載されたマクギル大学のRobbinsらの報告をご紹介します。


 変形性膝関節症の患者さんは、歩行時の膝関節に生じる接触応力を軽減するために特徴的な代償歩行を示します。そのひとつに「体幹傾斜(trunk lean)」があります。

 

 体幹傾斜は、患側下肢の立脚期に体幹を同側へ傾斜させることによって、身体重心であるCOMを患側方向へ移動させ、足底圧中心であるCOPからCOMへの床反力線を膝関節軸に近づけることで膝内転モーメントを軽減するよう作用します。

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 このような体幹傾斜は最大で膝内転モーメントを25%も軽減するため、変形性膝関節症の患者さんが適応しやすい代償歩行とされています。しかし、体幹傾斜によって腰痛が生じるという問題点も指摘されているのです(Hunt MA, 2011)

 

 Robbinsらは、このような背景から、「体幹傾斜は体幹筋の筋活動を増加させ、二次的に腰痛の発症に関与しているのではないか?」というリサーチクエスチョンを提起し、体幹傾斜による体幹筋の筋活動への影響を調査しました。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 研究デザインは横断的研究(Cross-sectional study)です。健常者20名(平均年齢22歳)を対象に、通常の歩行と体幹傾斜させる歩行の2条件で測定を行いました。

 

 アウトカムは歩行速度、体幹傾斜の角度、膝内転モーメント、体幹筋(腹直筋、内・外腹斜筋、最長筋、腸肋筋、中殿筋)の筋活動とし、歩行条件間において比較検討しています。

 

 その結果、通常歩行に比べて、体幹傾斜の歩行では、歩行速度の低下、体幹傾斜の角度の増加、膝内転モーメントの減少を認めました。

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Fig.1:Robbins SM, 2016より引用改変

 

 体幹筋では、体幹傾斜によって対側の外腹斜筋、腸肋筋の筋活動が有意に増加し、腹直筋、内腹斜筋、最長筋、中殿筋に変化はありませんでした。

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Fig.2:Robbins SM, 2016より引用改変

 

 これらの結果から、体幹傾斜の歩行では、通常歩行よりも歩行速度は低下すること、膝内転モーメントのファーストピークが低下することがわかりました。やはり変形性膝関節症の膝内転モーメントの軽減に体幹傾斜は有効なようです。

 

 体幹筋への影響では、特に体幹傾斜とは反対側の外腹斜筋と腸肋筋の筋活動の増加を示しました。反対側の筋活動の増加は、歩行速度が低下したにもかかわらず生じているため、体幹傾斜を制御するための遠心性収縮によってもたらされたとRobbinsらは推測しています。しかし、増加の割合が0.95から2.06%という軽度の増加であったため筋損傷を起こすほどではないことが示唆されました。

 

 Robbinsらは「即時的な体幹傾斜は体幹筋の筋活動を増加させるが、筋損傷を起こすほどではない。しかし、長期的には体幹筋の筋疲労や筋損傷から腰痛の発症に寄与する可能性がある」と結論付けています。



 以前より、変形性膝関節症に伴う歩行時の体幹傾斜が副次的に腰痛などを引き起こす可能性が示されています(Hunt MA, 2011)。この要因が明らかになれば臨床でのクリニカルリーズニングに反映できるという意味で、Robbinsらの報告は参考になる知見であると思いました。

 

 今回の横断的な調査では、体幹筋の過活動が体幹傾斜に伴う腰痛の要因であると断定する結果には至りませんでしたが、今後の縦断的研究が待たれます。



Reference

Hunt MA, et al. Feasibility of a gait retraining strategy for reducing knee joint loading: increased trunk lean guided by real-time biofeedback. J Biomech. 2011 Mar 15;44(5):943-7.