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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

筋紡錘のメカニズムから脳卒中の痙縮について考えよう

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 「脳卒中の痙縮に対する有効なリハビリテーションの知見はありますか?」という質問を受けましたので、今回から何回かに分けて、痙縮のリハビリテーションについて考察してみようと思います。

 

 「彼を知り己を知れば百戦殆からず」とは孫子の言葉です。痙縮を改善するためのアプローチを考えるためには、痙縮のメカニズムを知らなければなりません。さらに痙縮のメカニズムを知るには、正常な神経と筋肉のメカニズムを理解する必要があります。

 

 痙縮についての研究をまとめたシステマティックレビューは数多く報告されていますが、おおまかに2000年までのものと2000年以降の内容では、痙縮のとらえかたが変わってきています。そこで、下記の2010年以降のなるべく新しいシステマティックレビューを参考にしてみました(Neurology以外はオープンアクセスになっています)。

 

Spasticity mechanisms - for the clinician. Front Neurol. 2010

・Pathophysiology of spasticity in stroke. Neurology. 2013

New insights into the pathophysiology of post-stroke spasticity. Front Hum Neurosci. 2015

 

 これらのレビューでは、痙縮の要因は、主に筋紡錘の感度の変化と、上位運動ニューロンのインバランスであるとしています。

 

 そこで、今回は筋紡錘のメカニズムから痙縮について考えてみましょう。



◆ 3分で筋紡錘のメカニズムを理解しよう

 

 私たちは、急に重たい荷持を持たされても、荷物を落とさずに持つことができます。このような反応は、伸張反射により行われます。筋の感覚受容器である筋紡錘が、荷物を持たされたときの瞬間的な筋の長さの変化を感知し、伝導速度の速い感覚神経であるⅠa求心性線維を通じて脊髄へ情報を送り、シナプスを介して運動神経であるα運動線維に伝わり、肘関節の屈筋を収縮させるのです。

 

 このように筋紡錘は、伸張反射のもととなる筋の長さを感知する重要なセンサー(感覚受容器)なのです。

 

 筋は錘外筋線維と錘内筋線維によって構成されています。錘外筋線維はいわゆる骨格筋であり、筋力の出力を行います。錐内筋線維には筋紡錘があり、筋長の変化をモニタリングするセンサーの役割を担っています。

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 筋を収縮させる運動神経には、α運動線維とγ運動線維の2種類があります。α運動線維は錘外筋線維につながり、γ運動線維は錐内筋線維につながります。α運動線維もγ運動線維もそれぞれの筋線維を収縮させますが、その役割は異なります。α運動線維が錘外筋線維による筋力を出力するのに対して、γ運動線維は錘内筋線維の収縮により筋紡錘に一定の張力を与えています。

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 では、どうしてγ運動線維は、錐内筋線維に一定の張力を与えていないといけないのでしょうか?

 

 それは、筋紡錘のセンサーが、錐内筋線維の張力を基準として筋の長さを感知しているからです。

 

 先ほどの荷物を持つ場面をイメージしてみましょう。荷物を持つとき、脳などの上位運動ニューロンからの「肘を曲げろ!」という運動指令がα運動線維のみに伝わり、γ運動線維には伝わらないと仮定します。そうすると、α運動線維を通じて肘の屈筋の錘外筋線維のみが収縮し、肘関節は屈曲位になります。一方で、γ運動線維は働かず、錐内筋線維は緩んでしまいます。その結果、錐内筋線維の張力が失われ、張力という基準を失った筋紡錘のセンサー感度が低下してしまうのです。

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 この状態で急に荷物を渡されると、筋紡錘は肘の屈筋の瞬間的な伸張を感知することができずに、荷物を落としてしまうでしょう。

 

 そのため、α運動線維と同時にγ運動線維が錘内筋線維へ刺激を送り、錘外筋線維が収縮しても錘内筋線維が緩まないように、錘内筋線維を収縮させて、一定の張力を保っているのです。α運動線維とγ運動線維が協調して興奮を伝えることで、どんな関節の角度でも筋紡錘のセンサー機能は維持されているのです。このα運動線維とγ運動線維の協調した働きは「α–γ連関」と言われています。

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 伸張反射は、ものを持つときだけでなく、立位姿勢制御や歩行でも生じる重要な反射です。そして伸張反射の強弱を決めるセンサーが筋紡錘なのです。



◆ 筋紡錘の感度の変化が痙縮の要因? 

 

 1953年、カロリンスカ研究所のEldredらは、このような筋紡錘のメカニズムをもとに、動物実験から、痙縮の要因は「筋紡錘の感度の変化」であることを示唆しました(Eldred E, 1953)。

 

 その報告の要旨は「γ運動線維から過剰な興奮が錘内筋線維へ伝わってしまうと、筋紡錘のセンサーは過敏に反応するようになる」というものでした。

 

 通常、脊髄の前核にあるγ運動ニューロン(細胞)は、脳からくる上位運動ニューロンにより興奮を抑制されています。そのため、健常ではγ運動線維が過度の興奮を錘内筋線維へ伝えることはありません。しかし、脳卒中のような上位運動ニューロンの障害により、抑制が失われるとγ運動ニューロンの興奮性が高まり、過度な興奮がγ運動線維を通じて錐内筋線維へ伝達されてしまうのです。 

 

 過度な興奮が錘内筋線維へ伝わると、錐内筋線維は強く収縮してピーンと張ってしまいます。張力が高まった状態では、筋紡錘のセンサーはめちゃめちゃ敏感になっており、少しの筋長の変化でもすぐに感知します。そのため、わずかな伸張刺激でも反射的に筋収縮が生じてしまうのです。

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 臨床では、このような状態を腱反射の亢進や、被動性の亢進として評価することができます。

 

 これが1950年代から言われている筋紡錘からみた痙縮の発生メカニズムなのです。

 

 しかし、研究がすすみ、2000年代に入ると、筋紡錘を痙縮の要因とする考えが変わっていきます。次回は、筋紡錘のメカニズムから痙縮に対するアプローチについて考察していきましょう。

 

 

痙縮のメカニズム

シリーズ①:筋紡錘のメカニズムから痙縮について考えよう

シリーズ②:筋紡錘のメカニズムから考える痙縮へのアプローチ

シリーズ③:上位運動ニューロンのメカニズムから痙縮について考えよう

シリーズ④:網様体脊髄路と前庭脊髄路から筋緊張の制御メカニズムを理解しよう

シリーズ⑤:痙縮の発症メカニズムを理解しよう  

 

参考書籍

Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation

Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation

 

 

Reference

Mukherjee A, et al. Spasticity mechanisms - for the clinician. Front Neurol. 2010 Dec 17;1:149.

Burke D, et  al. Pathophysiology of spasticity in stroke. Neurology. 2013 Jan 15;80(3 Suppl 2):S20-6.

Li S, et al. New insights into the pathophysiology of post-stroke spasticity. Front Hum Neurosci. 2015 Apr 10;9:192.

Eldred E, et al. Supraspinal control of the muscle spindles and its significance. J Physiol. 1953 Dec 29;122(3):498-523.