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リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

筋紡錘のメカニズムから考える痙縮へのアプローチ

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 1950年代から、筋紡錘のメカニズムにもとづき、痙縮の原因は「筋紡錘の感度の変化」であると考えられてきました。

筋紡錘のメカニズムから脳卒中の痙縮について考えよう

 

 この考えは、1970年代に行われた除脳ネコなどの動物実験の結果からも後押しを受け、1980年、これらの背景からLanceらは「痙縮とは、腱反射の増加を伴う速度依存性の伸張反射の増加」であると定義しました(Lance JW, 1980)。

 

 Lanceらの定義は現在でも一般的であり、どの教科書にも痙縮の要因は、筋紡錘の感度の変化であると記されています。

 

 しかし、この痙縮の常識に疑義を唱える研究者がいたのです。

 

 1981年、ニューサウスウェールズ大学のBurkeらは、Jendrassik手技にて腱反射が増強することに注目しました。Jendrassik手技とは、腱反射を評価する際に、両手を組んで互いに引っ張り合うよう努力させることを言い、Jendrassik手技により腱反射が出現しやすくなったり、増強したりします。この手技は、リハビリ従事者ならご存知のことと思います。

 

 Burkeらは、筋紡錘と全く関係のないJendrassik手技によって腱反射が増強するということは、痙縮においても筋紡錘とは異なる要因が関与しているのではないか?という仮説を報告したのです(Burke D, 1981)。

 

 しかしながら、当時は、筋紡錘の神経活動を直接的に計測する方法が確立していないかったため、Burkeらの仮説を検証することができませんでした。

 

 

◆ 痙縮の要因は筋紡錘だけでなく、他に依拠する

 

 1990年代後半になると、マイクロニューログラフィ(Microneurography)が開発され、微小電極を用いて直接、筋紡錘の神経活動を計測できるようになりました。

 

 そしてBurkeらの「痙縮の要因は筋紡錘ではない」という仮説が証明されたのです。

 

 1999年、ニューサウスウェールズ大学のWilsonらは、雑誌Brainで筋紡錘の神経活動は脳卒中患者も健常者も変わらないという報告をしました。

 

 Ashworth scale1-3の痙縮を有する脳卒中患者11名と健常者18名を対象とし、橈骨神経からマイクロニューログラフィを用いて筋紡錘の神経活動を記録しました。その結果、安静時の筋紡錘の発射頻度は、健常者の平均が6.4±6.1であるのに対して、脳卒中患者は6.6±5.3Hzであり、有意差は認められませんでした。

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Fig.1:Wilson LR, 1999より引用改変

 

 また、随意運動時においても同様に計測した結果、脳卒中患者と健常者の間に筋紡錘の発射頻度の有意な差は認められませんでした(Wilson LR, 1999)。

 

 BurkeやWilsonらの報告から、痙縮の要因は筋紡錘の感度の変化であるという神経生理学の常識を疑う新たな知見が提示されたのです。

 

 マイクロニューログラフィの研究は手技が困難であり、サンプル数も限られていますが、現在の神経生理学の界隈では「痙縮の要因は筋紡錘だけではなく、他にも依拠する」というコンセンサスが得られているのです。

 

 

◆ 拘縮が筋紡錘の感度を変化させる

 

 では、痙縮において、筋紡錘の関与は無視していいのか?と言われると、それは違います。健常者と脳卒中患者の間で筋紡錘の神経活動に有意な差はありませんでしたが、そこに「拘縮」という筋の形態的変化が生じると話が異なってきます。

 

 不動による筋の結合組織のスティフネス(外力に対する変形のしづらさ:剛性)の増加は、筋のコンプライアンス(筋の弾性)を減少させます。

 

 筋の形態学から、筋紡錘は筋膜上に位置することがわかっています(Sherrington CS, 1894)。さらに、ハンブルグ大学のStrasmannらは、回外筋の筋膜中隔を分析し、多くの筋紡錘が筋膜中隔の結合組織に直接つながっていることを報告しています(Strasmann T, 1990)。

 

 これらの報告より、拘縮に伴う筋のコンプライアンスの減少が、筋紡錘の反応性に影響を与えるのではないか?といクリニカルクエスチョンが提起されました。

 

 1993年、コレージュ・ド・フランスのGiouxらは、動物実験により、不動による筋のコンプライアンスの低下が筋紡錘の感度を増大させることを示しました。この結果から、不動による筋紡錘の反応性の増加は、伸張反射を増加させ、最終的に痙縮を増悪させると結論づけました(Gioux M, 1993)。

 

 このような基礎研究から、Mukherjeeらは、臨床家へ向けた痙縮についてのシステマティックレビュー ”Spasticity mechanisms - for the clinician”で「痙縮の病因には、結合組織のスティフネスによる筋紡錘の反応性の増加が関与しており、錐外筋線維の異常なフィードバック、フィードフォワードが起因している」と述べています(Mukherjee A, 2010)。

 

 また、2014年に報告された痙縮に対するニューロリハビリテーションについてのレビューで、Trompettoらは不動による拘縮の予防が最も重要であるとして、関節可動域練習や臥位や座位時のポジショニングなどをシステマティックに行うべきであると強く訴えています(Trompetto C, 2014)。

 

 筋紡錘のメカニズムから考える痙縮へのアプローチは、月並みですが、急性期からのしっかりとした拘縮予防が重要になるのです。臨床においては、シナジーパターンである肩関節の内転、内旋、肘の屈曲、手関節の掌屈、手指の屈曲の拘縮に留意することが前述のレビューで言われています。

 

 

 痙縮の要因は筋紡錘の感度の変化である、という考えは一般的ではありますが、2000年以降になると痙縮の要因のひとつとして捉えられるようになりました。現在の神経生理学では筋紡錘の関与よりも、上位運動ニューロンによる反射回路の障害がクローズアップされています。

 

 そして、近年の痙縮の定義は、Pandyanらが提唱する「上位運動ニューロン病変により、間欠的または持続する不随意な筋活動をきたす感覚-運動制御の障害」となっているのです(Pandyan AD, 2005)。

 

 次回は、上位運動ニューロンのメカニズムから痙縮について考察していきましょう。

 

 

痙縮のメカニズム

シリーズ①:筋紡錘のメカニズムから痙縮について考えよう

シリーズ②:筋紡錘のメカニズムから考える痙縮へのアプローチ

シリーズ③:上位運動ニューロンのメカニズムから痙縮について考えよう

シリーズ④:網様体脊髄路と前庭脊髄路から筋緊張の制御メカニズムを理解しよう

シリーズ⑤:痙縮の発症メカニズムを理解しよう 

 

Reference

Lance JW (1980) Spasticity: disordered motor control. Symposium synopsis. 485–494.

Burke D. The activity of human muscle spindle endings in normal motor behavior. Int Rev Physiol. 1981;25:91-126.

Wilson LR, et al. Muscle spindle activity in the affected upper limb after a unilateral stroke. Brain. 1999 Nov;122 ( Pt 11):2079-88.

Sherrington CS, et al. On the Anatomical Constitution of Nerves of Skeletal Muscles; with Remarks on Recurrent Fibres in the Ventral Spinal Nerve-root. J Physiol. 1894 Oct 15;17(3-4):210.2-258.

Strasmann T, et al. Functional topography and ultrastructure of periarticular mechanoreceptors in the lateral elbow region of the rat. Acta Anat (Basel). 1990;138(1):1-14.

Gioux M, et al. Effects of immobilizing the cat peroneus longus muscle on the activity of its own spindles. J Appl Physiol (1985). 1993 Dec;75(6):2629-35.

Mukherjee A, et al. Spasticity mechanisms - for the clinician. Front Neurol. 2010 Dec 17;1:149.

Trompetto C, et al. Pathophysiology of spasticity: implications for neurorehabilitation. Biomed Res Int. 2014;2014:354906.

Pandyan AD, et al. Spasticity: clinical perceptions, neurological realities and meaningful measurement. Disabil Rehabil. 2005 Jan 7-21;27(1-2):2-6.