リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

人工股関節置換術・人工膝関節置換術の再置換率を知っておこう

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 手術をするか、しないかの決断は、手術による利益とリスクのバランスによって判断されます。利益が大きくリスクが少なければ手術を選択しやすいですが、あまりにリスクが大きい場合には、手術を躊躇するでしょう。そのため、患者さんは手術の利益とリスクを知る権利があるのです。

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 日本で行われている人工関節置換術の件数は、人工股関節置換術(THA)、人工膝関節置換術(TKA)ともに年間6万件を超え、手術件数は年々増え続けています。また今後は、世界的に手術を受ける患者さんの低年齢化が進むことが予測されています(Kurtz SM, 2009)。

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Fig.1:日本人工関節学会の人工関節登録調査集計より筆者作成

 

 THA、TKAともに、手術による利益には関節機能の改善、疼痛の緩解QOLの向上などのエビデンスが示されています(Price AJ, 2010)。では、THA、TKAのリスクとは何でしょうか?

 

 それは「再置換術」です。

 

 人工関節は磨耗やゆるみが生じるため、手術から10年〜20年で人工関節を入れ替える手術(再置換術)を行わなければなりません。イギリスの大規模患者グループ “James Lind Alliance Priority Setting Partnership”は、THA、TKAの再置換術のタイミングが患者にとってもっとも重大な懸念の1つであるとしています(Bayliss LE, 2017)。

 

 THAやTKAの手術を決断するとき、誰でも再置換術のリスクを減らしたいと考えるでしょう。50歳代よりも60歳代で手術を行ったほうが再置換術の可能性が低いのであれば、なるべく手術のタイミングを遅らせて、再置換術を回避したいと判断するかもしれません。

 

 患者さんが手術による利益とリスクを判断するためにも、医療者は再置換術のリスクについて説明する義務があるのです。

 

 しかし、これまでの研究では、再置換術を受ける割合(再置換率)について、術後10年までの調査しかされてなく、それ以降の再置換率は不明のままでした(Kandala NB, 2015)。

 

 ここで参考になるのが、2017年2月の雑誌Lancetに掲載された「THA・TKA術後の再置換率に対する大規模なコホート研究」の報告です。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 オックスフォード大学のBaylissらは、THAを受けた63,158名、TKAを受けた54,276名の再置換率を調べるために、20年間という大規模・長期間のコホート研究を実施しました。

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Fig.2:Bayliss LE, 2017より引用改変

 

 さっそく結果ですが、再置換率はTHAが術後10年で約4%、20年で15%となり、TKAが術後10年で約4%、20年で約10%でした。

 

 年齢別に再置換率を見てみると、高齢者の再置換率は低く、70歳代では4.4%〜7.7%でした。高齢者では再置換術が必要となる前に寿命を迎えることが多いため、再置換率が低いとされています。

 

 これに対し、60歳代では15%、50歳前半ではTHAが29.6%、TKAが35.0%まで上昇し、手術時の年齢が低くなるにつれて再置換率が高くなることが明らかになりました。

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Fig.3-1:Bayliss LE, 2017より引用改変

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Fig.3-2:Bayliss LE, 2017より引用改変

 

 これらの結果から、再置換率がもっとも高いのは50歳代の男性であり、再置換率はTHAが30%、TKAが35%となります。女性においても、やはり50歳代の再置換率がもっとも高く、THAが20%、TKAが20%となっています。再置換率は50歳代をピークに男女ともに減少し、70歳代を超えると5%前後まで下がります。

 

 今回の報告により、60歳未満で人工関節置換術を受ける場合は、再置換術のリスクが高まることが明らかになりました。また、再置換率という具体的な情報を年齢別、性別に患者さんへ提供できるようになったのです。

 

 

 カリフォルニア大学のKurtzらは、2030年までにTHA、TKAを受ける患者は低年齢化することを報告しています。今後、世界的に人工関節置換術を受ける低年齢化は進み、その割合は全体の50%を超えることが示唆されているのです(Kurtz SM, 2009)。

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Fig.4:Kurtz SM, 2009より引用改変

 

 Baylissらは、このような背景から「医療者は60歳未満の低年齢層にこそ、手術のリスクとなる再置換率をしっかりと説明すべきである」と述べています。

 

 最後に、この知見を参考にした医療者と患者Aさん(男性、50歳代)とのやりとりを見てみましょう。

 

ー患者Aさん

「一般的に人工股関節置換術後に再置換術を受ける人はどの程度なのでしょうか?」

 

ー医療者

「人工股関節置換術後の一般的な再置換率は術後10年で約4%、術後20年で約15%とされています」

 

「しかしながら、再置換率は年齢と性別によって異なります」

 

「Aさんの場合(男性、50歳代)、術後20年の再置換率は約30%になります」

 

ー患者Aさん

「ということは、3人に1人が再置換術を受けるということですね」

 

ー医療者

「そうです。もし保存療法を受けて、60歳代まで手術のタイミングを遅らせれば、再置換率は約15%まで減らせます」

 

ー患者Aさん

「15%まで減らせるのですか…ありがとうございます、考えてみます」

 

 

変形性股関節症の保存療法

シリーズ①:変形性股関節症の保存療法と基本戦略①

シリーズ②:変形性股関節症の保存療法と基本戦略②

シリーズ③:変形性股関節症の保存療法と基本戦略③

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変形性股関節症リハビリテーション

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股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

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股関節リハビリ⑳:人工股関節・人工膝関節置換術の再置換率を知っておこう

 

 

References

Kurtz SM, et al. Future young patient demand for primary and revision joint replacement: national projections from 2010 to 2030. Clin Orthop Relat Res. 2009 Oct;467(10):2606-12.

Price AJ, et al. Are pain and function better measures of outcome than revision rates after TKR in the younger patient? Knee. 2010 Jun;17(3):196-9.

Kandala NB, et al. Setting benchmark revision rates for total hip replacement: analysis of registry evidence. BMJ. 2015 Mar 9;350:h756.

Bayliss LE, et al. The effect of patient age at intervention on risk of implant revision after total replacement of the hip or knee: a population-based cohort study. Lancet. 2017 Feb 13. pii: S0140-6736(17)30059-4.