リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

脳卒中のリスクを減少させるタンパク質摂取の最適戦略とは?

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 「タンパク質の摂取は脳卒中になるリスクを減少させる」

 

 2014年、南京大学のZhangらは、これまでに報告された7つの研究(254,489名を対象)からタンパク質の摂取と脳卒中の発症リスクについてのメタアナリシスを報告しています。

 

 その結果は、動物性タンパク質を多く摂取することで3割ほどの脳卒中の発症リスクを減らすことができるというものでした。さらに、タンパク質を多く摂取するればするほど発症リスクは減少し、1日に20g多く摂取することによって、最大26%の発症リスクを軽減させることが示されています(Zhang Z, 2014)。

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Fig.1:Zhang Z, 2014より筆者作成

 

 脳卒中とは、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管から出血する「脳出血」、脳のクモ膜の下で出血する「クモ膜下出血」を含めた病気の総称です。脳卒中を発症すると半身の運動麻痺や発話などの障害を伴い、生活の質(QOL)を大きく下げるとともに、寝たきり(要介護)の原因の第1位にもなっています(資料1)。

 

 タンパク質の摂取は、このような脳卒中の発症リスクを軽減することができることが明らかになっているのです。

 

 しかし、西洋諸国とアジア諸国の食文化はまったく異なっており、脳卒中の発症リスクは欧米人よりもアジア人で高い傾向にあります。Zhangらの報告は欧米人を対象にしたものであり、その結果をそのままアジア人に当てはめることには疑義の声が挙がっていました。

 

 そして、この疑義に答えを示したのが、今年6月の雑誌Strokeに掲載された九州大学のOzawaらの報告です。

 

 Ozawaらは、日本人を対象にタンパク質の摂取による脳卒中の発症リスクへの影響を検証するだけでなく、タンパク質を植物性と動物性に、脳卒中脳梗塞脳出血クモ膜下出血に分けて詳細に調査しました。

 

 

Table of contents

 

 

◆ 日本で行われた長期間・大規模調査の結果は?

 

 福岡県の郊外にある久山町では、1961年より住民8,000名ほどを対象にした大規模な疫学調査(通称The Hisayama study)が行われています。

 

 その中から1988年からの19年間で40〜79歳を含む2,400名(男性1017名、女性1383名)の対象者がOzawaらの調査に登録されました。

 

 対象者は1〜2年おきに健康診断や郵便または電話による健康調査を受けました。タンパク質の摂取状況はアンケートによる食事調査によって行われています。

 

 19年間の追跡調査の間に脳梗塞172名、脳出血58名、クモ膜下出血24名の発症が認められました。

 

 長期間の大規模調査の結果、タンパク質の摂取が多いほど、脳卒中の発症リスクが低くなることがわかりました。タンパク質を1日10g多く摂取することで脳卒中のリスクが15%減少することが示されています。

 

 また、タンパク質を植物性、動物性に分けて分析してみると、植物性タンパク質の摂取の増加は脳梗塞の発症リスクを軽減させ、動物性タンパク質の摂取の増加は脳出血の発症リスクを減少させることが明らかになりました。

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Fig.2:植物性タンパク質の摂取と脳卒中の発症率(Ozawa M, 2017より筆者作成)

 

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Fig.3:動物性タンパク質の摂取と脳卒中の発症率(Ozawa M, 2017より筆者作成)

 

 さらに植物性、動物性タンパク質と食品との関係をみると、植物性タンパク質は大豆や大豆製品、野菜などとの相関があり、動物性タンパク質は魚、乳製品、肉との相関が示されました。

 

 

脳卒中を予防するタンパク質摂取の最適戦略

 

 植物性タンパク質は脳梗塞を、動物性タンパク質は脳出血の発症リスクを低下させるという「タンパク質特異的なリスク軽減効果」があることがわかりました。

 

 植物性タンパク質の摂取が脳梗塞の発症リスクを減少させた理由をOzawaらは、野菜に含まれるアルギニンによる作用(Palmer JP, 1976)とともに、大豆によるコレストロールの低下作用(Erdman JW Jr. 2000)、イソフラボンの作用(Yu D, 2015)と合わせて脳梗塞の予防に寄与したと推測しています。

 

 また動物性タンパク質による脳出血の発症リスクを減少については、そのメカニズムはまだ明らかにされていないとして、動物実験による知見を論拠として挙げています。ラットを用いた研究では、乳タンパク質の摂取により、血圧の低下、脳出血の予防効果が示されています(Chiba T, 2012)。

 

 これらの結果から、Ozawaらは、脳卒中を予防する有効な戦略として「植物性タンパク質と動物性タンパク質をバランスよく多く摂取すること」を推奨しています(Ozawa M, 2017)。

 

 

 Ozawaらの報告は、欧米人中心で行われたタンパク質摂取と脳卒中リスクの知見にアジア人での検証結果を追加するものとして価値ある研究成果と思われます。さらにタンパク質を植物性と動物性に、脳卒中脳梗塞脳出血クモ膜下出血に分けることで、脳卒中を包括的に予防するためのタンパク質摂取の最適戦略を与えてくれているのです。

 

 トレーニングに励んでいると、どうしても動物性タンパク質の摂取に偏りがちですが、それでは植物性タンパク質による脳梗塞のリスク軽減の恩恵を受けることができません。植物性タンパク質の摂取の重要性を気づかせてくれる報告でもありますね。

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

 

References

Zhang Z, et al. Quantitative analysis of dietary protein intake and stroke risk. Neurology. 2014 Jul 1;83(1):19-25.

Ozawa M, et al. Dietary Protein Intake and Stroke Risk in a General Japanese Population: The Hisayama Study. Stroke. 2017 Jun;48(6):1478-1486.

Palmer JP, et al. Arginine-stimulated acute phase of insulin and glucagon secretion in diabetic subjects. J Clin Invest. 1976 Sep;58(3):565-70.

Erdman JW Jr. AHA Science Advisory: Soy protein and cardiovascular disease: A statement for healthcare professionals from the Nutrition Committee of the AHA. Circulation. 2000 Nov 14;102(20):2555-9.

Yu D, et al. Dietary isoflavones, urinary isoflavonoids, and risk of ischemic stroke in women. Am J Clin Nutr. 2015 Sep;102(3):680-6.

Chiba T, et al. Delay of stroke onset by milk proteins in stroke-prone spontaneously hypertensive rats. Stroke. 2012 Feb;43(2):470-7. 

資料1:平成25年国民生活基礎調査の概要(厚生労働省