2017年、ブログ「リハビリmemo」では現代のスポーツ医学や栄養学などの最新のトピックスを中心にご紹介してきました。おかげさまで多くの読者の方と筋トレの新しい知見を共有できたと思います。では、今年の記事をランキング形式にて振り返ってみましょう。
Table of contents
◆ 筋トレ記事ランキング2017
第1位
2014年、オーストラリア・RMIT大学のParrらは、僕たちにあまりにも残酷な真実を突きつけました。
「筋トレ後のアルコール摂取は、筋肥大の効果を最大37%減少させる」
この残酷な真実への反響は予想以上に大きく、Twitterでは多くの悲鳴が聞こえてきました。しかし、残酷な真実には続きがありました。2017年、ノーステキサス大学のDouplantyらはアルコール摂取による筋肥大の効果の減少作用には性差があることを明らかにしたのです。
「筋肥大の効果の減少は、男性のみに生じる」
この残酷な真実が今年、もっとも読まれた記事でした。
第2位
「筋トレは健康に良いのに、なぜ筋トレを続けられないのか?」
この筋トレ・パラドックスを解明したのは、現代の進化論でした。ハーバード大学のLiebermanらは、筋トレが続かない理由を進化論的合理性からこういいます。
「休息が生存と再生のカギであった」
食物が少ない石器時代に狩りや生殖活動をするとき以外に無駄なエネルギーを使うことは合理的ではありません。休息するときは休息し、エネルギーを節約することには進化論的合理性があったのです。石器時代のままの身体と心をもつ僕たちは、進化によってプログラムされた「無駄なエネルギーを使うな!」という本能の声に抗うことなどでききないのです。
第3位
2017年、マックマスター大学のKovacevicらは、筋トレと睡眠に関する初めてのシステマティックレビューを報告しました。
その結果は「筋トレは睡眠の量には影響しないが、睡眠の質を改善させる」というでした。これまで有酸素運動が睡眠の質を高めることは報告されていましたが、世界で初めて筋トレが睡眠の質を高めるエビデンスを示したのです。
このエントリーの反響も大きく、News Picksにも掲載され2983picksもの反応をいただきました。みなさんの睡眠への関心の大きさを感じています。
運動の前によくやるスタティック(静的)ストレッチングが運動のパフォーマンスを低下させることはアメリカスポーツ医学会や欧州スポーツ医学会も声明をだしているほど、エビデンスが確立されています。
そして2017年、カンピナス州立大学のJuniorらは筋トレの前のストレッチングが筋肥大の効果を減少させることを明らかにしたのです。
しかしながら、ストレッチングには怪我予防のエビデンスもあります。そこで推奨されているのが「30秒以内」のストレッチングです。30秒以内であれば運動パフォーマンスに影響しないこと、怪我予防の効果も得られることから推奨されています。
第5位:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え
プロテインの大量摂取は腎臓にダメージを与えるという論争はかれこれ70年も続いています。これには理由がありますが、現代の科学は大規模な観察研究により「赤身肉(牛肉、豚肉など)」の大量摂取が腎機能を増悪させることを明らかにし、ホエイなどの乳性のプロテインは心配ないことを示唆しています。
第6位:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう
よくタンパク質の摂取量は「20g」と言われますが、そうではなく体重(除脂肪量)や年齢から換算することが推奨されています。そのための参考となる一覧表などをご紹介しています。
筋トレはがんによる死亡率を33%減少させ、病気による死亡率を23%減少させることが明らかにされています。僕たちは筋肉によって生かされているのです。
筋肉のもとである筋タンパク質は24時間、分解と合成を続けています。筋トレで筋肥大を生じさせるためには、筋タンパク質の合成作用が分解作用を上回らなければなりません。そのためにはタンパク質の摂取が必要となります。その理由とメカニズムをご紹介しています。
第9位:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう
効果的に筋肥大の効果を得るためのセット数は概ね3セットが目安とされています。近年では、週の頻度から最適なセット数が換算されており、2017年、USWのRalstonらのメタアナリシスでは、初心者~中級者は2~3セット(週2~3回)、上級者は3~4セット(週3回以上)が効果的なセット数とされています。
『筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)』
第10位:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう
筋肥大の効果を高めるためには、筋トレ後の24時間でタンパク質を最適なパターンで摂取するかが重要です。もっとも効果的なパターンは「3時間おき」ですが、これは現実的に難しいので、トレーニング後の3食でしっかりとタンパク質を摂取することが推奨されています。
例えば、夕方にトレーニングを行った場合、その日の夕食、翌日の朝食、昼食でしっかりと最適量のタンパク質を摂取することが筋肥大の効果を最大化させると示唆されています。
以上が今年の筋トレ人気記事ランキングになります。多くの方に読んでいただき、ありがとうございました。
◆ 筋トレの科学の現在(いま)
スポーツ医学、栄養学、運動生理学などの現代の科学は、経験論で語られていた筋トレをエビデンスベースで再定義しつつあります。
これまで筋トレによる筋肥大の効果は、画像や体組成計により計測されてきました。しかし、2000年以降になるとアミノ酸同位体のトレーサーを用いて直接、筋肉のもとである筋タンパク質を計測する方法が確立され、さらにはmTORなどの分子レベルのメカニズムも解明されるようになりました。これらの技術を用いて、近年では新たなエビデンスにもとづくトレーニング方法や栄養摂取について数多くの報告がされるようになったのです。
筋タンパク質を計測する研究では、これまで筋肥大には最大強度(1RM)の70%以上の高負荷トレーニングが必要であるという定説を覆し、軽負荷でも運動回数を高めることによって「総負荷量」を増加させることで高負荷と同じか、それ以上の効果を得られることを明らかにしました。
このように筋トレの過去の常識が、現在(いま)では非常識になりつつあるのです。
本ブログでは新たな常識となる最新のスポーツ医学、栄養学の知見を2018年も引き続きご紹介するつもりです。来年も宜しくお願い致します。
◆ 読んでおきたい記事
シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう
シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう
シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう
シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう
シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう
シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論
シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう
シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論
シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう
シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう
シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう
シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう
シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう
シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ
シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう
シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?
シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実
シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある
シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)
シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス
シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論
シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?
シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由
シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう
シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)
シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス
シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方
シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに
シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう
シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで
シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより
シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに
シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう
シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実
シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え
シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)
シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう
シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?
シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?
シリーズ㊷:筋トレ人気記事ランキング2017