リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

手術か保存療法か(その2)


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前回のブログに続き、保存療法の効果についてのご紹介(この論文は産業医科大学 内田先生からご提供頂いたものです)。

今回の報告は、前期股関節症(大腿骨寛骨臼インピンジメント)患者に対する2年間の保存療法の効果について検証した報告である。

reference)

Conservative treatment for mild femoroacetabular impingement.

Journal of Orthopedic Surgery, 2011

対象は、軽度の大腿骨寛骨臼インピンジメントと診断された運動競技者37名(年齢23〜47歳)。

被験者は、保存療法として主に、抗炎症薬の使用や股関節のストレッチ、股関節の使い方(安全な可動範囲の指導など)、疼痛や症状を増悪させない生活方法(椅子の座り方、歩き方、自転車の乗り方など)指導を受けた。

保存療法の効果は、疼痛や下肢機能を総合評価するHarris hip score(HHS)、基本動作や活動性を評価するnon-arthritic hip score(NHS)、疼痛評価のVisual analogue scale(VAS)を臨床指標として用いた。

この調査を約2年間、継続した。

その結果、

37名の被験者のうち、4名が保存療法から脱落し、手術を受けた。

残りの33名では、HHSが72→91に改善し、NHSも72→91に改善した。また、痛みの指標であるVASも6→2に緩解が認められた(下表参照)。

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しかしながら、股関節の可動性に改善は認められなかった(下表参照)。

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とのこと。

 

保存療法により、股関節の可動性の改善は難しいが、患者さんの病態をもとにした日常生活動作の指導により痛みの改善、動作能力の向上が期待できる。

つまり、股関節の使い方や、安全な可動範囲、日常生活動作(椅子の座り方、歩き方、自転車の乗り方など)について患者さんの病態に合わせた適切な指導の重要性が示唆されている。

やはり、前回のブログ同様、患者さんのライフスタイルにどれだけ注意深く関われるかが保存療法の鍵であるのかもしれない。そのためには、科学的な知識を有しながら、細やかなコミュニケーションなど患者さんに寄り添う姿勢がセラピストに求められるだろう。

しかしながら、本論文でも述べているが、軽度の大腿骨寛骨臼インピンジメントに対して効果のない保存療法を長期にわたり行うことは、股関節症を形成するリスクになる。このことをセラピストは十分に理解し、保存療法の限界について医師と連携を図るべきである。

 

 

股関節リハビリシリーズ

股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント

股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点

股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由

股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方

股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か

股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2) 

股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント

股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント

股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法

股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度

股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法

股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展

股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ

股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法

股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント

股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)

股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨

股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)

股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ

 

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