花粉症も真っ盛りの季節、辛い日々が続いていますが、実は、スギの二酸化炭素吸収力はヒノキやカラマツと比べて相当優れているんですよ。そういう意味でスギは大気の空気清浄機なんですよね……物事には二面性があるので、見方を変えてポジティブにこの季節を乗り越えていきたいものです。
さて、前回からねこ背の原因について考えてきました。ねこ背の原因の4割は骨粗鬆症や椎体骨折などてすが、残り6割は明らかになっていません。前回のエントリーでは、その中でもっとも注目されている「背筋力」について1990年代の研究を中心にご紹介してきました。
今回は、もう少し、ねこ背と背筋力の関係について掘り下げるために、筋肉の質の面から考察してみましょう。
高齢になると筋力は低下する。
これは誰もが想像できる老化現象ですよね。筋力は、30歳ごろをピークとして以降減少し、50歳代から低下の割合が高くなり、70歳代までに20〜40%も減少すると報告されています(Doherty TJ, 2003)。筋力の強さは、一般的に筋肉の横断面積、つまり筋肉のサイズに比例するとされています。しかし、近年では、加齢にともなう筋力の減少は、筋肉の量やサイズとは別に、筋の質が関与することがわかってきました(Delmonico MJ, 2009)。
筋の質(muscle quality)というのは、簡単に言えば「その筋肉に含まれる脂肪の量」で決まります。つまり、赤身のような脂肪が少ない筋肉は質が高く、霜降りのような脂肪が多い筋肉は質が低いと定義されます。
赤身→脂肪が少ない→筋の質が高い
霜降り→脂肪が多い→筋の質が低い
加齢により筋の脂肪含量は増えていくと、筋の質の低下が生じ、筋力が低下します。さらに筋のサイズの減少(筋萎縮)が追随し、筋力はさらに低下します。このような筋力低下の過程が高齢者の身体機能の低下につながるのです。
下肢を対象にした筋の質の研究では、太ももの筋肉の脂肪含量が多い場合、膝を伸ばす筋力が低くなり(Goodpaster BH, 2001)、歩行や階段昇降のような下肢の運動機能を低下させることが明らかになっています(Visser M, 2002)。
これまで筋の質の研究は、下肢を中心として行われてきましたがが、近年では体幹筋の質がフォーカスされるようになってきました。2005年にはHicks氏らにより、高齢者の歩行などの運動機能は、太ももの脂肪含量よりも体幹筋の脂肪含量が影響することが示されました。また、体幹筋の脂肪含量は腰痛にも関与することを合わせて報告しています(Hicks GE, 2005)。この報告により、下肢の筋の質よりも体幹筋の質が歩行などの運動機能に影響を与えることが明らかになり注目されています。
そして、2012年になり、Katzman氏らのグループは、体幹筋の質とねこ背の関係について研究を行いました。その結果、腰部レベルの背筋のサイズに比べて、筋の質がねこ背に寄与することを明らかにしました(Katzman W, 2012)。
さらに、加齢特異的に筋の質が低下する体幹筋を細かく特定する調査も行われました。Anderson氏らは、胸椎と腰椎の2つのレベルで体幹筋の質に対する加齢の影響を調べました。
その結果、
・全ての体幹筋において若者より高齢者に筋肉の質の低下が認められた。
・また男性より女性の方が筋の質が低下していた。
・加齢特異的に筋の質が低下するが筋は、主に腰椎レベルの腹直筋と脊柱起立筋であった。
ということが明らかになりました。
この結果から著者は、特に腹直筋、脊柱起立筋は加齢にともない脂肪化しやすいことを示唆しています(Anderson DE, 2013)。
では、脊柱起立筋の筋の質の低下、つまり霜降りになっていく過程を見てみましょう。この画像はKim氏らによって行われた腰椎の4/5レベルで撮影されたMRI画像です(Kim YJ, 2013)。
まず正常な筋肉の質とサイズです。脊柱起立筋は緑で囲まれた部分ですが、まださしも入らず赤身でボリュームがありますね。
次に少しさしが入り、霜降り化してきた脊柱起立筋です。まだサイズはさほど変化していません。
さらに脊柱起立筋は霜降り化していくと、今度はサイズが低下し、筋萎縮していくのがわかります。
ここまですると脂肪含量はかなり多く、筋萎縮も進んでおり、ほぼ機能不全になっているでしょう。
このように脊柱起立筋は加齢に伴い、サイズの減少(筋萎縮)よりも筋の質の低下が最初に生じることがわかります。そして、この筋の質の低下が筋力低下につながり、ねこ背の原因となるのです。
前回と今回にわたって、ねこ背の原因として注目している背筋力について考察してきました。1990年代のSinaki氏らの研究により、ねこ背は背筋力の低下が寄与していることが明らかになりました。2000年に入ると、加齢に伴う筋力低下には筋の質が関与しており、体幹筋では特に脊柱起立筋が特異的に筋の質の低下を起こすことがわかりました。
現在では、この脊柱起立筋の筋の質の低下が背筋力の低下を生じさせ、ねこ背の原因になると考えられています。
では、なぜ、脊柱起立筋は筋の質の低下を起こしやすいのでしょうか?そして、筋の質の低下を予防する方法はあるのでしょうか?
これについては、別の機会で論じていきましょう。
ねこ背シリーズ
ねこ背シリーズ①:ねこ背になると歩き方も変わる?
ねこ背シリーズ②:ねこ背になると生活がつまらなくなる?
ねこ背シリーズ③:「背が低くなったんじゃない?」と言われた要注意!
ねこ背シリーズ④:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜大規模研究による検証〜
ねこ背シリーズ⑤:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜本当の犯人は?〜
ねこ背シリーズ⑥:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜腰がまっすぐになると…〜
ねこ背シリーズ⑦:自分でねこ背を計る方法(前編:科学的根拠の確認)
ねこ背シリーズ⑧:自分でねこ背を計る方法(後編:C7PL2.0をやってみよう!)
ねこ背シリーズ⑨:ねこ背と骨盤の代償運動を理解しよう
ねこ背シリーズ⑩:なぜ、ねこ背になるのか?
ねこ背シリーズ⑪:ねこ背の原因は背筋の霜降り化?
ねこ背シリーズ⑫:ハイヒールを履くとねこ背になる?
ねこ背シリーズ⑬:ねこ背と柔軟性 〜腰椎の柔らかさが大事〜
ねこ背シリーズ⑭:ねこ背になると肩が上がらなくなる?
ねこ背シリーズ⑮:座る姿勢がねこ背の原因になる?
Reference
Doherty TJ. (2003) Invited review: aging and sarcopenia. J Appl Physiol, 95(4), 1717–1727.
Delmonico MJ. (2009) Longitudinal study of muscle strength, quality, and adipose tissue infiltration. Am J Clin Nutr, 90(6), 1579–1585.
Goodpaster BH. (2001) Attenuation of skeletal muscle and strength in the elderly: the Health ABC Study. J Appl Physiol, 90(6), 2157–2165.
Visser M. (2002) Leg muscle mass and composition in relation to lower extremity performance in men and women aged 70 to 79: the health, aging and body composition study. J Am Geriatr Soc, 50(5), 897–904.
Katzman W. (2012) Association of spinal muscle composition and prevalence of hyperkyphosis in healthy community-dwelling older men and women. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 67(2), 191–195.
Anderson DE. (2013) Variations of CT-based trunk muscle attenuation by age, sex, and specific muscle. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 68(3), 317–323.
Kim JY. (2013) Changes of Paraspinal Muscles in Postmenopausal Osteoporotic Spinal Compression Fractures: Magnetic Resonance Imaging Study. J Bone Metab, 20, 75-81.
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