「なるべくウォーキングをしましょう」
変形性膝関節症や変形性股関節症の保存療法において、多くの医療者はウォーキングを推奨しています。
歩行の機会が少なくなると関節症の悪化や筋力の低下、心肺および血管機能の低下が進み、生活の質(QOL)が損なわれることが明らかになっています(Messier SP, 2000)。これに対して、変形性関節症に対するウォーキングなどの有酸素運動は、筋力の維持や心肺機能の改善などに寄与することがエビデンスで示されています。
719もの論文からエビデンスにもとづいたガイドラインを作成する研究グループであるオワタパネル(Owatta Panel)による報告では、変形性関節症のウォーキングは、少なくとも30分、週に3〜4回は行うことを推奨しています(Loew L, 2012)。このようなウォーキングの推奨は、アメリカ老年医学会によっても勧告されています(American Geriatrics Society Panel on Exercise and Osteoarthritis. 2000)。
これらの背景から、多くの医療者が変形性関節症の患者さんにウォーキングを勧めているのです。
しかし、エビデンスをもとにした医療者の提案に対して、患者さんの多くがこう答えます。
「ウォーキングをすると関節が痛くなるので、歩きたくありません」
今回は、変形性膝関節症のウォーキングの注意点について、2017年5月に報告されたFarrokhiらの研究をもとに考察していきましょう。
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◆ ウォーキングを継続できない理由は「痛み」
変形性関節症の患者さんが積極的にウォーキングを行えない理由には、やはり「痛み」に原因があるようです。
オタワパネルによるシステマティックレビューでは、変形性関節症のウォーキングを調査した12の無作為比較試験(RCT)において、20〜30%もの脱落率が見られました(Loew L, 2012)。また、変形性膝関節症のウォーキングプログラムの効果を検証したJAMAの報告では、約50%の被検者が規定のプログラムを行うことができませんでした(Ettinger WH Jr, 1977)。そして、これらの脱落の理由が「歩行による関節の痛み」だったのです。
変形性関節症に対するウォーキングの効果にエビデンスは示されていますが、患者さんがウォーキングを継続できない理由も示されているのです。
そこで、アメリカ海軍医療センターのFarrokhiらは、ウォーキングを患者さんに押し付けるのではなく、痛みがでないようにウォーキングを行う方法はないのか?というクリニカル・クエスチョンを検証しました。
◆ ウォーキングは連続的あるいはインターバルのどちらで行うべきか?
Farrokhiらは、ウォーキングを連続的に行っても、インターバルで同じ量を行っても同様の運動効果を得られるという知見(Quinn TJ, 2006)に注目しました。そして変形性関節症においてもウォーキングをインターバルで行うことによって、痛みを軽減できるのではないかと考えたのです。
軽度〜重度の変形性膝関節症(KL grading Ⅱ〜Ⅳ)24名を被験者としました。被験者はトレッドミル上のウォーキング(1.3m/s)を2つの条件下で行いました。ひとつは45分間のウォーキングを連続して行う条件(CW)、もうひとつは45分間のウォーキングを15分×3のインターバルで行う条件(IW)です。インターバルの休憩時間は1時間です。
これらの条件において、歩行開始から15分おきに歩行時の膝関節の接触応力と痛みを計測しました。
その結果、歩行時の膝関節の接触応力は、ファーストピークとセカンドピークをもつ二峰性を示しました。これは過去の報告と同じ所見です。
Fig.1:Farrokhi S, 2017より引用改編
膝関節の接触応力における2条件の比較では、CW、IWともにウォーキング開始から30分後にファーストピークの有意な増加が認められ、セカンドピークは変化しませんでした。
Fig.2:Farrokhi S, 2017より引用改編
次に、膝の痛みにおける2条件の比較では、CWは15分ごとに痛みが増加するのに対して、IWでは45分間を通して、痛みの増強は認められませんでした。
Fig.3:Farrokhi S, 2017より引用改編
これらの結果から、連続的に歩いても、インターバルをとっても、30分を過ぎると膝関節への接触応力が高まることがわかりました。また、インターバルをとることによって、膝の痛みが強くならずに45分間のウォーキングを行えることが明らかになったのです。
膝の接触応力と関節症の増悪には相関関係が示されています。これは接触応力が高まると関節症が増悪する可能性を意味します(Robbins SM, 2011)。この見解から、Farrokhiらは、ウォーキング開始から30分後に膝の接触応力が高まるという今回の結果に着目し、変形性膝関節症のウォーキングでは「30分」が接触応力が高まるひとつの目安になることを示唆しています。
また、15分間ごとにウォーキングを行うことによって、膝の痛みの増強が見られないという結果から、30分以上のウォーキングを行う場合は、連続的に行うのではなく、インターバルで行うことを推奨しています(Farrokhi S, 2017)。
Farrokhiの知見はウォーキングによる膝関節への接触応力と痛みの関係性を明らかにした初めての報告になります。この知見を参考にすると、30分以上のウォーキングを勧めるのであれば、インターバルをとるべきでしょう。
しかしながら、インターバルでウォーキングをしても30分を過ぎると膝の接触応力は大きくなる可能性があります。ウォーキングによる接触応力を軽減させるためには、靴の選択や、膝の屈曲拘縮の有無、ウォーキングを行う環境にも配慮すべきです。
ある行動によって痛みなどの大きなストレスが生じた場合、ヒトはその行動を回避するようになります。これは応用行動分析学によって自明のことです。
ウォーキングがエビデンスで示されているからという理由で患者さんに押し付けるのではなく、「患者さんの痛みを如何に軽減させた上で、エビデンスがあり有益な運動を継続してもらえるのか」というところに医療者の力量が試されるのです。
◆ 読んでおきたい参考記事
保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略
保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について
保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由
保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう
保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!
保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び
保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②
保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③
保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④
保存療法⑩:変形性膝関節症の予防⑤ 生体力学が教える注意すべき日常生活動作
保存療法⑪:変形性膝関節症の予防⑥ 注意すべき日常生活動作とその理由
保存療法⑫:変形性膝関節症は体重を減らせばOK!という簡単な話ではありません
保存療法⑬:変形性膝関節症の術後の痛みが転倒リスクになる
保存療法⑭:レントゲンでもわからない初期の変形性膝関節症を示す「ある痛み」とは?
保存療法⑮:変形性膝関節症のウォーキングの注意点を知っておこう
References
Messier SP, et al. Exercise and weight loss in obese older adults with knee osteoarthritis: a preliminary study. J Am Geriatr Soc. 2000 Sep;48(9):1062-72.
Williams SB, et al. Feasibility and outcomes of a home-based exercise program on improving balance and gait stability in women with lower-limb osteoarthritis or rheumatoid arthritis: a pilot study. Arch Phys Med Rehabil. 2010 Jan;91(1):106-14.
Loew L, et al. Ottawa panel evidence-based clinical practice guidelines for aerobic walking programs in the management of osteoarthritis. Arch Phys Med Rehabil. 2012 Jul;93(7):1269-85.
American Geriatrics Society Panel on Exercise and Osteoarthritis. Exercise prescription for older adults with osteoarthritis pain: consensus practice recommendations. A supplement to the AGS Clinical Practice Guidelines on the management of chronic pain in older adults. J Am Geriatr Soc. 2001 Jun;49(6):808-23.
Farrokhi S, et al. The influence of continuous versus interval walking exercise on knee joint loading and pain in patients with knee osteoarthritis. Gait Posture. 2017 May 17;56:129-133.
Ettinger WH Jr, et al. A randomized trial comparing aerobic exercise and resistance exercise with a health education program in older adults with knee osteoarthritis. The Fitness Arthritis and Seniors Trial (FAST). JAMA. 1997 Jan 1;277(1):25-31.
Quinn TJ, et al. Two short, daily activity bouts vs. one long bout: are health and fitness improvements similar over twelve and twenty-four weeks? J Strength Cond Res. 2006 Feb;20(1):130-5.
Robbins SM, et al. Association of pain with frequency and magnitude of knee loading in knee osteoarthritis. Arthritis Care Res (Hoboken). 2011 Jul;63(7):991-7.