平成28年の国民生活基礎調査における有訴者率(病気やケガなどで自覚症状のある人の割合)で男性1位、女性2位となった現代の健康問題は何でしょうか?
それは「腰痛」です。
腰痛を発症させる動作のひとつに持ち上げ動作(Lifting)があります。この持ち上げ動作は主に脊柱起立筋と大殿筋により行われます。体幹を前傾させたところから、伸展し始める最初の50%で大殿筋が強く活動します。後半の50%で脊柱起立筋の筋活動が加わり、完全な立位になります(Leinonen V, 2000)。
Fig.1:Leinonen V, 2000より筆者作成
また、持ち上げ動作で脊柱起立筋が疲労状態になると、大殿筋の筋活動がより大きくなり、脊柱起立筋の筋活動を補うことがわかっています(Clark BC, 2003)。
持ち上げ動作は、このような脊柱起立筋と大殿筋の相互作用によって行われているのです。しかし、これまでに腰痛と脊柱起立筋についての報告は数多くありましたが、大殿筋に関する報告はほとんどありませんでした。
ここにリサーチクエスチョンを提示したのが、トーマスジェファーソン大学のAmabileらです。
Amabileらは腰痛と大殿筋の関係を明らかにするために、腰痛を訴える患者の大殿筋の筋肉量を調査しました。
2017年7月のPOLS oneより
対象は慢性の腰痛がある女性患者36名(平均51.6歳)と腰痛のない女性32名(平均51.3歳)です。
大殿筋の筋断面積はCTスキャンにより計測されました。得られたデータを身長により正規化し、腰痛の有無における大殿筋の筋断面積が比較検討されました。
Fig.2:Amabile AH, 2017より引用。赤い枠線部分が大臀筋。
その結果、腰痛のある患者は腰痛のない患者に比べて有意に左右、両側ともに大殿筋が筋萎縮していることが示されました。また、腰痛による通院回数と大殿筋の筋萎縮には弱い負の相関が認められました(r=-0.27)。
Fig.3:Amabile AH, 2017より筆者作成
この結果は、慢性腰痛では大殿筋が萎縮する傾向にあることを示唆しています。その原因として、Amabileらは、腰痛による二次的な廃用性筋萎縮であると推測しています。また、持ち上げ動作の脊柱起立筋と大殿筋の相互作用から、大殿筋に対するトレーニングによって腰痛軽減の効果が期待できると述べています。
Amabileらの報告はとてもシンプルですが、これまでフォーカスされていなかった慢性腰痛における大殿筋の筋萎縮の存在を明らかにしたことから価値ある知見と思われます。
持ち上げ動作の脊柱起立筋と大殿筋の相互作用を考えると、大殿筋への運動介入が腰痛予防に寄与する可能性はあるかもしれません。また、持ち上げ動作を頻繁に行う職業やスポーツ選手の腰痛後のコンディショニング・トレーニングでは、大殿筋を含めたプランニングを検討してみても良いでしょう。
References
Leinonen V, et al. Back and hip extensor activities during trunk flexion/extension: effects of low back pain and rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil. 2000 Jan;81(1):32-7.
Clark BC, et al. Derecruitment of the lumbar musculature with fatiguing trunk extension exercise. Spine (Phila Pa 1976). 2003 Feb 1;28(3):282-7.
Amabile AH, et al. Atrophy of gluteus maximus among women with a history of chronic low back pain. PLoS One. 2017 Jul 17;12(7):e0177008.