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筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう


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 1990年後半、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成作用を測定する技術が確立されると、2000年以降からスポーツ医学、スポーツ栄養学による新たな研究成果が数多く報告されてるようになりました。

 

 その中で、レジスタンストレーニング(筋トレ)による筋肥大の効果は、運動負荷や運動回数ではなく、その両方をかけ合わせた「総負荷量」によって決まることが明らかになったのです。

 

 筋肥大の効果 = 総負荷量(運動負荷 × 運動回数)

 

 その後の研究では、低負荷トレーニングでも運動回数を高めて総負荷量を増加させれば、高負荷トレーニングと同じか、それ以上の筋肥大の効果を得られことが報告されています(Schoenfeld BJ, 2017)。

筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

 

 そして今年10月、ケンタッキー大学のFigueiredoらは、雑誌Sports Medicineで「筋トレによる筋肥大の効果と総負荷量」というレビューを報告しました。そこで、改めてトレーニングによる筋肥大の効果は総負荷量によって決まることを体系づけるとともに、新たな課題を提言しました。

 

 「筋肉の大きさによって筋肥大に必要な総負荷量は異なるのではないか」

 

 今回は、筋肉の大きさから筋トレの方法論について考えていきましょう。


Table of contents

 

 

◆ 筋肉の大きさと筋力の関係を知っておこう

 

 ヒトの身体は、600以上の筋肉から構成されています。これらの筋肉はすべて大きさが異なります。筋肉の大きさは、筋力の強さを示します。

 

 これまで筋肉の大きさは、筋肉を輪切りにした横断面積によって表されてきました。筋肉の横断面積が大きければ筋力も強いとされていたのです。しかし、東京大学のFukunagaらは、筋断面積よりも「筋肉の体積(筋体積)」が筋力をさらに正確に反映することを明らかにしました(Fukunaga, 2001)。

 

 Fukunagaらは、筋肉の横断面積である厚さだけでなく、長さを含めた筋肉全体の総量である筋体積をMRIにより計測し、筋体積と筋力には強い関係性が認められることを示したのです。

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Fig.1:Fukunaga, 2001より筆者作成

 

 Fukunagaらの報告を皮切りに、2007年にはHolzbaurらが肩から前腕までの筋体積を報告し、2016年にはLubeらが骨盤から下肢の筋体積を報告しています。

 

 これらの筋体積の研究結果をもとに、それぞれの筋肉の大きさに合わせて、総負荷量を高めるようにトレーニングをデザインすることが効率的なトレーニングになるだろうとケンタッキー大学のFigueiredoらは提言しているのです。 

 

 この提言をさらに考察したのがレジスタンストレーニングの研究で著名なSchoenfeldらのグループです。



◆ 筋肉の大きさから筋トレをデザインする

 

 2017年10月、Schoenfeldらの研究グループは「レジスタンストレーニングと筋肉の大きさ」というレビューを報告しています。

 

 Schoenfeldらは、これまでに報告された筋体積の研究結果をレビューし、一般的に考えられている筋肉の大きさと計測された筋体積には大きな差異があることを指摘しまています。

 

 まず、肩から前腕までの上肢の筋体積を見てみましょう。

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Fig.2:Holzbaur KR, 2007より筆者作成

 

 一般的には、大胸筋や広背筋が大きな筋肉とされていますが、実際には三角筋がもっとも大きく、次いで上腕三頭筋、大胸筋、広背筋の順になります。

 

 次に骨盤から大腿までの下肢の筋体積を見てみましょう。

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Fig.3:Lube J, 2016より筆者作成

 

 膝を伸ばす筋肉である大腿四頭筋が想像以上に大きいことがわかります。次いで大殿筋、内転筋、ハムストリングスの順になります。Schoenfeldらは、トレーナーがよく大腿四頭筋を小さい筋肉と位置づけていることがあるが、これは誤りであるとしています。 

 

 では、このような筋体積の違いが実際のトレーニングにどのような影響を与えるのでしょうか?

 

 Schoenfeldらは、筋体積の大きい筋肉はレッグプレスやデッドリフト、ベンチプレスなどのコンパウンド(多関節)トレーニングでは十分に総負荷量を高められない可能性があるといいます。

 

 例えば、レッグプレスでは、大腿四頭筋のほかに大殿筋、ハムストリングス、下腿三頭筋など多くの筋肉が動員されます(Schoenfeld BJ, 2010)。そのため、ある程度の運動負荷で運動回数を多くし、総負荷量を増加しても、筋体積の大きい大腿四頭筋には不十分な負荷量になる可能性があるのです。

 

 これに対して、Schoenfeldらはコンパウドトレーニングに加えて、筋体積の大きな筋肉にはアイソレーション(単関節)トレーニングを行うべきであるといいます。大腿四頭筋の筋肥大を目的とした場合、レッグプレスだけではなく、レッグエクステンションなどを組み合わせて行うことを推奨しています(Ribeiro AS, Schoenfeld BJ, 2017)。



 トレーニングによる筋肥大は、筋肉に生じる総負荷量によって決まります。それぞれの筋肉の体積は異なり、それは筋力が異なることを意味します。コンパウンドレーニングは多くの筋肉に負荷をかけることができますが、筋体積の大きい筋肉には負荷が不十分になることが危惧されているのです。

 

 特に筋体積が大きい三角筋上腕三頭筋、大胸筋、広背筋、大腿四頭筋、大殿筋、内転筋などは個別のトレーニングを加えることによって、筋肥大の効果を最大限に高められる可能性があるでしょう。これらの筋肉のボリュームが増えづらいと感じている場合は試してみても良いかもしれません。

 

 Schoenfeldらの考察はとても実践的ですが、推論の段階であり、今後の検証が必要となります。筋肉の大きさに応じてトレーニング方法をデザインする研究結果が報告され次第、本ブログでもピックアップしてご紹介していきます。

 

 

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◆ 参考論文

Figueiredo VC, et al. Volume for Muscle Hypertrophy and Health Outcomes: The Most Effective Variable in Resistance Training. Sports Med. 2017 Oct 11.

Schoenfeld BJ, et al. Strength and hypertrophy adaptations between low- versus high-load resistance training: A systematic review and meta-analysis. J Strength Cond Res. 2017 Aug 22.

Fukunaga, et al. Muscle volume is a major determinant of joint torque in humans. Acta Physiol Scand. 2001 Aug;172(4):249-55.

Holzbaur KR, et al. Upper limb muscle volumes in adult subjects. J Biomech. 2007;40(4):742-9.

Lube J, et al. Reference data on muscle volumes of healthy human pelvis and lower extremity muscles: an in vivo magnetic resonance imaging feasibility study. Surg Radiol Anat. 2016 Jan;38(1):97-106.

Ribeiro AS, Schoenfeld BJ, et al. Large and Small Muscles in Resistance Training: Is It Time for a Better Definition? Strength & Conditioning Journal: October 2017 Volume39 Issue5 p33–35

Schoenfeld BJ, et al. Squatting kinematics and kinetics and their application to exercise performance. J Strength Cond Res. 2010 Dec;24(12):3497-506.