リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより


スポンサーリンク

 

 アメリカのフィットネスメディアであるBarBendは、今年の10月、ひとりのフィットネス研究者のインタビューを掲載しました。

 

 ニューヨーク州立大学のBrad Schoenfeld(ブラッド・シェーンフェルド)氏は、トレーニングに関する100以上の論文を発表し、多くの書籍も執筆している世界的にも有名なフィットネス研究者です。とくに筋肥大を目的としたトレーニング研究では、この分野の第一人者とも目されています。

 

 今回は、BarBendに掲載されたSchoenfeld氏のインタビューをもとに、筋トレの効果を高める最新の考え方をご紹介しましょう。

f:id:takumasa39:20171029135546p:plain

 

Table of contents

 

◆ セット数の考え方

 

 現代のスポーツ医学では、トレーニングによる筋肥大は運動強度と運動回数を合わせた「総負荷量」によって決まとされています。そのため、総負荷量を増大させる最適な運動強度や運動回数、セット数などの研究が進められています。

 

 BarBendの記者による最初の質問は「筋肥大のための最適なセット数をどのように考えればよいか」というものでした。この問いにSchoenfeld氏はこう答えています。

 

 「1週間で10セット以上が望ましいでしょう」

 

 2017年7月、雑誌Sports Medicineにトレーニングのセット数に関する最新のメタアナリシスが報告されました。この報告によって示されたのが「トレーニング経験者は1週間に10セット以上行うことが筋肥大の効果を高める」という結論だったのです(Ralston GW, 2017)。

筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)

 

 このようなエビデンスをともに、Schoenfeld氏は方法論についての個人的見解を述べています。

 

 「個人的には、総負荷量をオーバーリーチングのポイントまで高め、その後に元にもどすことによってリカバリーを可能にする方法を推奨しています」

 

 「例えば、最初の月は週10セット、次の月は15セット、そしてオーバーリーチングのための20セットを行い、最初のセット数に戻し、これを繰り返すという方法です」

 

 このような方法を個人によりカスタマイズすることが望ましいといいます。

 

 次に、記者は「セット数は筋肉のサイズに応じて変えるべきか」と聞き、Schoenfeld氏はこう答えています。

 

 「筋肉のサイズは一般的に大きく誤解されています」

 

 「実は、上腕三頭筋は大胸筋より大きいのです」

 

 筋肉の大きさによって筋力を予測することができます。大きな筋肉は大きな筋力を発揮できるのです。近年では、筋肉の体積である筋体積により高い精度をもって筋力を予測できることが報告されています。

 

 2017年10月、Schoenfeld氏の研究グループのRibeiroらは、過去の筋体積の研究報告をレビューし、上肢(肩から上腕)と下肢(骨盤から大腿)の筋体積の異なりを示しました。その結果、上肢では一般的にサイズが大きい筋肉とされていた大胸筋や広背筋よりも三角筋上腕三頭筋が大きいことがわかったのです。さらに大腿四頭筋は特に筋体積が大きいことも明らかになりました(Ribeiro AS, 2017)。

f:id:takumasa39:20171029135832p:plain

Fig.1:Ribeiro AS, 2017より筆者作成

f:id:takumasa39:20171029135903p:plain

Fig.2:Ribeiro AS, 2017より筆者作成

 

 Schoenfeld氏はこのような筋肉のサイズの異なりを示しながら、こう続けます。

 

 「複合的なトレーニングでは、サイズの大きい筋肉には負荷が不十分になる可能性があります」

 

 「例えば、ラットプルダウンは上腕三頭筋以外の筋肉も多く関与しており、サイズの大きい上腕三頭筋には負荷が不十分になるかもしれないのです」

 

 Ribeiroらのレビューでは、このような見解に対して上腕三頭筋アイソレーション(単関節)トレーニングの追加を推奨しています。

筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう



◆ 運動回数の考え方

 

 セット数の質問を終えると、次にBarBendの記者は「筋肥大に最適な運動回数」について質問を続けます。

 

 筋肥大の効果は総負荷量(運動強度×運動回数)に依拠します。このような根拠からSchoenfeld氏は「総負荷量が同じであれば運動回数の違いによる筋肥大への効果に差はないだろう」と言い、こう続けます。

 

 「筋肥大を最大化させるためには、高強度と低強度それぞれのトレーニングを行うことが利点になると考えられます」

 

 これは、筋肉のサイズの原理にもとづく考え方です。低強度の負荷では主にタイプⅠ線維(遅筋線維)が収縮し、高強度の負荷では主にタイプⅡ線維(速筋線維)が収縮します。そのため、両方の負荷をトレーニングしたほうが筋肥大につながりやすいと推測しているのです。

f:id:takumasa39:20170923084438p:plain

Fig.3:サイズの原理

 

 

◆ 運動強度の考え方

 

 さいごにBarBendの記者は「筋肥大に最適な運動強度」について質問しています。

 

 筋肥大を目的とした高強度トレーニングと低強度トレーニングの論争は現在でも続いています。このような背景について前置きをした上でSchoenfeld氏はこのように答えています。

 

 「神経筋システムに適応するためには、ある程度の高強度トレーニングに時間をかけて、疲労困憊になるまで取り組む必要があるでしょう」

 

 筋力は筋肉の量や質だけではなく、神経系の活動にも依存します。トレーニングにおける神経活動の変化は、1990年代の筋電図研究によって報告されており、神経活動を高めて適応させるためには高強度のトレーニングが必要になることが示唆されているのです(Sale DG, 1988)。

 

 「しかし、疲労困憊まで追い込まなくても筋肥大の効果があるという研究報告もあります」

 

 「そこでお勧めしたい方法がEric HelmsらのRIR(Reps in Reserve)というテクニックです」

 

 RIRは疲労困憊になる直前の運動回数(レップ数)をあらかじめ決めておくというテクニックです。例えば1RIRは最大レップ数より1回少ないレップ数でトレーニングすることを意味します。この指標によりオーバーワークにならない適度なレップ数を実現でき、結果的に総負荷量を高めることができると示唆されています(Helms ER, 2016)。

 

 そして方法論についてこのように述べています。

 

 「典型的な3セットの場合、1セット目は2RIR、2セット目は1RIRで行い、最後のセットは疲労困憊まで行うように設定すると良いでしょう」

 

 インタビューはここで終わります。



 トレーニングによる筋肥大の効果を高めるためには、総負荷量をどのように増やしていくかという戦略的な取り組みが必要になります。そのためには最適なセット数や運動回数、運動強度を設定しなければなりません。今回のSchoenfeld氏のインタビューは最新のエビデンスにもとづいた有用な内容になっていす。トレーニング内容を考える上で参考になるでしょう。



 ✻インタビューの原文:“Brad Schoenfeld’s 3 Evidence Based Guidelines of Hypertrophy Training

 ✻✻「」内のコメントは原文からの引用になります。引用の翻訳には意訳が含まれていますので、ぜひ原文と合わせてお読み下さい。

 

 

筋トレの重要なエビデンスをまとめた新刊です!

科学的に正しい筋トレ 最強の教科書

科学的に正しい筋トレ 最強の教科書

 

 

 

 

www.awin1.com

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ

シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?

シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス

シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論

シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?

シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう

シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)

シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス

シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方

シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに

シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう

シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで

シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより

シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに

シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう

シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実

シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え

シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)

シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう

シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?

シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?

シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン

シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実

シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに

シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう

シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らか筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ㊽:コーヒーが筋トレのパフォーマンスを高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊾:睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊿:イメージトレーニングが筋トレの効果を高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ51:筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ52:筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由

シリーズ53:筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っていこう

シリーズ54:ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?

シリーズ55:筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう

シリーズ56:筋トレを続ける技術〜意志力をマネジメントしよう

シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由

シリーズ58:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題

シリーズ59:筋トレの効果を最大にする食品やプロテインの選ぶポイントを知っておこう

シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう

シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)

シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?

シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ

シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう

シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?

シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう

シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス

シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう

シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)

シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?

シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス

シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる

シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)

シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版) 

シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス

シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう

シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス

シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう

シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう

シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス

シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法

シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス

シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス

シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス

シリーズ88:筋トレとシトルリンの最新エビデンス

シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ

シリーズ90:筋トレをするとモテる本当の理由

シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに

シリーズ92:筋トレするなら知っておきたい食事のキホン〜ハーバード流の食事プレート

シリーズ93:筋トレを続ける技術〜マシュマロ・テストを攻略しよう

シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう【スクワットの科学】 

シリーズ95:スクワットのフォームによって筋肉の活動が異なる理由

シリーズ96:スクワットの効果を最大にするスタンス幅と足部の向きを知っておこう

シリーズ97:ベンチプレスのフォームの基本を知っておこう【ベンチプレスの科学】

シリーズ98:ヒトはベンチプレスをするために進化してきた【ベンチプレスの科学】

シリーズ99:デッドリフトのフォームの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ100:デッドリフトのリフティングの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ101:筋トレを続ける技術~脳をハックしよう!

シリーズ102:腕立て伏せの回数と握力から心臓病のリスクを知ろう!

シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】

 

 

www.awin1.com

 

◆ 参考論文

Ralston GW, et al. The Effect of Weekly Set Volume on Strength Gain: A Meta-Analysis. Sports Med. 2017 Jul 28.

Ribeiro AS, Schoenfeld BJ, et al. Large and Small Muscles in Resistance Training: Is It Time for a Better Definition? Strength & Conditioning Journal: October 2017 Volume39 Issue5 p33–35

Sale DG, et al. Neural adaptation to resistance training. Med Sci Sports Exerc. 1988 Oct;20(5 Suppl):S135-45.

Helms ER, et al. Application of the Repetitions in Reserve-Based Rating of Perceived Exertion Scale for Resistance Training. Strength Cond J. 2016 Aug;38(4):42-49. Epub 2016 Aug 3.