リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン


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 2017年12月末日、少し遅いクリスマスプレゼントがニューヨーク州立大学のBrad Schoenfeld氏から届きました。

 

 届いたPDFファイルには「エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン」と題されており、最新の知見をもとにした筋肥大を最大化するための方法論とともに、そこにはひとつの方程式が記されていました。

 

 筋肥大の効果 = a × b × c

 

 今回はSchoenfeldらのレビューをもとに、筋肥大を最大化させるガイドラインを見ていきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 筋肥大の方程式をひも解こう

 

 2009年、アメリカ・スポーツ医学会(ACSM)は筋肥大を効果的に生じさせるためには高負荷トレーニングが推奨されるという公式声明を発表しました。この声明により、最大負荷(1RM)の70-85%の高負荷トレーニングが一般的に取り入れられるようになりました。

 

 しかし、2000年前後から筋肉のもととなる筋タンパク質を計測する技術が確立されると、筋肥大に対するトレーニングの考え方が再考されるようになります。

 

 2009年、ノッティンガム大学のKumarらは、筋タンパク質の合成は最大負荷の60%以上でプラトーに達することを明らかにし、中等度の負荷量でも高負荷と同じ筋肥大の効果が得られることを示唆しました(Kumar V, 2009)。

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Fig.1:Kumar V, 2009より筆者作成

 

 また、2010年にはマックマスター大学のBurdらにより、軽負荷でも運動回数を高めることによって高負荷トレーニングと同じ筋タンパク質の合成が認められ(Bard NA, 2010)、筋トレによる筋肥大の効果は負荷量ではなく、負荷量に運動回数をかけ合わせた「総負荷量」によって決まることが示されたのです。

筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

 

 筋肥大の効果 = 総負荷量 (負荷量 × 運動回数)

 

 そしてSchoenfeldらは、総負荷量にもうひとつのエッセンスである「セット数」を加えるべきであると言います。

 

 スポーツ医学の界隈では1990年代より、筋トレにおけるセット数についての論争が続いていました。

 

 サザンクロス大学のOstrowskiらは、トレーニング経験者である被験者をセット数の異なる3つのグループ(3セット、6セット、12セット)に分けて10週間のトレーニングを実施したところ、大腿四頭筋の筋肥大の効果に統計的な有意差がないことを示しました(Ostrowski KJ, 1997)。

 

 また、マックマスター大学のMitchellらは、トレーニング未経験者である被験者を1セットと3セットでトレーニングを行うグループに分けて、10週間のトレーニングを実施しました。その結果、両グループともに筋肥大を生じましたが、やはり有意差は認められなかったのです(Mitchell CJ, 2012)。

 

 このような結果から、1セットでも複数セットでも筋肥大の効果に統計的な差がないのであれば、「短時間で終われる1セットで総負荷量を高めるように行えば良い」という意見が多数を占めるようになりました。

 

 しかし、これに疑義を投げかけたのがJOPPのKriegerらです。

 

 Kriegerらは、これまでに報告されたデータの「効果量」に着目しました。1セットや複数セットによる筋肥大の効果に統計的な有意差がなくても、トレーニングによる実質的な効果の大きさは異なると考えたのです。

 

 実際にOstrowskiらの報告では3セットと12セットのグループ間で0.29の効果量が示され、Mitchellらの報告でも0.27の効果量が認められました。

 

 そこでKriegerらは、これまでに報告されたセット数に関する研究のすべてを対象にしたメタアナリシスを報告し、「1セットよりも複数セットで行うことによって筋肥大の効果は高まる」ということを実証したのです。

✻メタアナリシスとは、質の高い研究データを集め統計解析した、もっともエビデンスレベルの高い報告

 

 このメタアナリシスの結果は、筋肥大の効果は負荷量と運動回数をかけ合わせた総負荷量によって決まるという方程式にもうひとつのピースを加えることを意味しています。筋肥大の効果は負荷量と運動回数だけでなく、セット数を加えた総負荷量によって決まるのです。

 

 筋肥大の効果 = 総負荷量 (負荷量 × 運動回数 × セット数)



◆ 筋肥大に最適なセット数は週単位で考える

 

 では、どのくらいのセット数が筋肥大の効果を最大化するのでしょうか?

 

 この問に答えたのがSchoenfeldらです。これまでのセット数に関するレビューやメタアナリシスにはある問題点が指摘されていました。それは、それぞれの報告のデータにバラツキがあり、統制されていないということでした。

 

 たとえば、1日3セットと4セットのトレーニングを6週間行い、その後の筋肥大の効果を比べた研究があっても、それが週2回実施する場合と週3回実施する場合とでは結果が異なります。これは週単位でのセット数が頻度によって異なるからです。これまでのレビューでは、このようなトレーニング頻度による統制が行われていませんでした。

 

 そこでSchoenfeldらは1日単位のセット数ではなく、週単位のセット数で統制し、最適なセット数を分析したのです。

 

 セット数に関する15の研究報告を分析した結果、週5セット未満、5-9セット、10セット以上ではセット数が多くなるに従って筋肥大の効果が高まるという用量依存的か効果が示されました。その効果量は、10セット以上で0.52と中等度の効果を示し、5セット未満でも0.31と軽度の効果を示しました(Schoenfeld BJ, 2017)。

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Fig.2:Schoenfeld BJ, 2017より筆者作成

 

 Schoenfeldらはこの結果から、筋肥大を最大化させるためには、1週間に10セット以上のトレーニングを推奨しています。また週5セットでも筋肥大の効果があるため、時期に応じてセット数を変えるピリオダリゼーションを取り入れても良いだろうと述べています。

 

 では、筋肥大の効果にセット数の用量依存的効果があるのであれば、10セットよりも多くのセット数を行ったほうが良いのでしょうか?

 

 この問いに対してSchoenfeldらは、セット数の用量依存的効果は逆U字型の曲線に従う可能性があると言います。

 

 この推論は、2007年に報告されたWernbomらのレビューにもとづいています。セット数を含めた総負荷量の増加は、ある程度までは筋肥大の効果を高めますが、過度な総負荷量は筋肥大の効果を減少させることが危惧されているのです(Wernbom M, 2007)。

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Fig.3:Wernbom M, 2007より筆者作成

 

 さらに2017年に報告されたシドニー大学のAmirthalingamらによる研究では、この逆U字型の作用を示唆する結果が示されました。

 

 Amirthalingamらは、被験者をセット数に応じて週に15セットと30セットのグループに分け、6週間のトレーニングを実施しました。その結果、週15セットのグループが30セットのグループよりも筋肥大の効果が高かったのです。

 

 この結果を踏まえてSchoenfeldらは、エビデンスは明らかになっていないが、セット数を含めた総負荷量には逆U字型の筋肥大の効果があり、過度な総負荷量はオーバートレーニングを誘発すると述べています。



 これまでの筋トレでは、筋肥大の効果は「負荷量と運動回数による総負荷量」により決定するとされてきました。しかし、現代のスポーツ医学では「負荷量と運動回数、それに週単位のセット数を換算した総負荷量」により筋肥大の効果が決まることを示唆しているのです。

 

 筋肥大の効果 = 総負荷量 (負荷量 × 運動回数 × 週単位のセット数)

 

 Schoenfeldらは、週10セットを目安にして週単位でトレーニングをデザインすることを推奨しています。同じように、2017年に報告されたUWSのRalstonらのレビューでもトレーニング経験者は週10セット以上のトレーニングを推奨しています。

筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)

 

 週10セットは週に3回、1回あたり3セット以上のトレーニングを行うことになります。現実的にこれだけの量を行うのが難しければ、週5セット以上のセット数でも筋肥大の効果は示されているので、検討してみても良いでしょう。

 

 Schoenfeldらのガイドラインをもとに、2018年のトレーニングは週単位のセット数でデザインしてみても良いかもしれませんね。

 

 

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◆ 参考論文

Kumar V, et al. Age-related differences in the dose-response relationship of muscle protein synthesis to resistance exercise in young and old men. J Physiol. 2009 Jan 15;587(1):211-7.

Burd NA, et al. Low-load high volume resistance exercise stimulates muscle protein synthesis more than high-load low volume resistance exercise in young men. PLoS One. 2010 Aug 9;5(8):e12033.

Ostrowski KJ, et al. The effect of weight training volume on hormonal output and muscular size and function. Journal of Strength & Conditioning Research: August 1997

Mitchell CJ, et al. Resistance exercise load does not determine training-mediated hypertrophic gains in young men. J Appl Physiol (1985). 2012 Jul;113(1):71-7.

Krieger JW, et al. Single vs. multiple sets of resistance exercise for muscle hypertrophy: a meta-analysis. J Strength Cond Res. 2010 Apr;24(4):1150-9.

Schoenfeld BJ, et al. Dose-response relationship between weekly resistance training volume and increases in muscle mass: A systematic review and meta-analysis. J Sports Sci. 2017 Jun;35(11):1073-1082.

Wernbom M, et al. The influence of frequency, intensity, volume and mode of strength training on whole muscle cross-sectional area in humans. Sports Med. 2007;37(3):225-64.

Amirthalingam T, et al. Effects of a Modified German Volume Training Program on Muscular Hypertrophy and Strength. J Strength Cond Res. 2017 Nov;31(11):3109-3119.

Ralston GW, et al. The Effect of Weekly Set Volume on Strength Gain: A Meta-Analysis. Sports Med. 2017 Dec;47(12):2585-2601.