リハビリmemo

大学病院勤務・大学院所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っておこう


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 「150 / 94」

 

 血圧計に表示された数値をみた医師は、残酷な診断を告げました。

 

 「高血圧ですね」

 

 「上の血圧(収縮期血圧)が140以上、下の血圧(拡張期血圧)が90以上あると高血圧と診断されます」

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Fig.1:高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)より筆者作成

 

 「高血圧は怖い病気なので、まずは運動や生活習慣の見直しから始めてください」

 

 なぜ、高血圧は怖い病気なのでしょうか?それは血圧の仕組みを見るとよくわかります。

 

 血圧は、心臓から拍出される血液の量(心拍出量)と血管の柔らかさや血液のサラサラ度(血管抵抗)をかけ合わせた数値です。

 

 血圧 = 心臓から拍出される血液量 × 血管の柔らかさ・血液のサラサラ度

 

 ここからわかることは、心臓から拍出される血液量が増えたり、血管が硬くなったり、血液がドロドロになると血圧が上昇し、高血圧になるということです。また、高血圧が続くと血管にストレスがかかり、さらに血管が硬くなるといった悪循環が生じます。

 

 血管が硬くなると多くの臓器にネガティブな影響を与えます。心臓の血管が硬くなれば心筋梗塞、脳の血管が硬くなれば脳卒中、腎臓の血管が硬くなれば腎臓病の発症リスクが高くなります(JSH2014)。

 

 これが高血圧は怖い病気であると言われる理由のひとつです。

 

 これまで高血圧に対する運動として、主にジョギングやウォーキングなどの有酸素運動が推奨されてきました。しかし近年では、もうひとつの運動が注目されているのです。

 

 それが「筋トレ」です。

 

 今回は、筋トレが高血圧の改善に寄与する科学的根拠について考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 筋トレは高血圧を改善させるのか?

 

 高血圧と診断されたとき、ほとんどの医療機関で運動が推奨されます。その運動とはジョギングなどの有酸素運動です。なぜ、高血圧に有酸素運動が推奨されるのかというと、有酸素運動が高血圧の改善に有効であるという多くのエビデンスが確立されているからです。

 

 2004年に報告されたアメリカスポーツ医学会の公式見解では、有酸素運動が5〜7mmHgの血圧を低下させる効果が示されており、これが高血圧に対する運動に有酸素運動を推奨する根拠になっています(Pescatello LS, 2004)。

 

 高血圧に有酸素運動が推奨される中、さらに高血圧を改善させる運動方法についての検証が進められてきました。そして、2015年にコネチカット大学のペスカテロらが報告したメタアナリシスでは、有酸素運動に「筋トレ」を加えることでさらなる血圧低下の効果が得られることが示唆されたのです(Pescatello LS, 2015)。

✻メタアナリシスとは、複数の研究結果をまとめて統計解析する研究手法であり、もっとも高いエビデンスのある報告。

 

 そして、ここから新たな仮説が生まれます。

 

 有酸素運動に筋トレを追加したことによって血圧低下の効果が高まるのであれば、「筋トレのみ」でも血圧低下の効果があるのではないだろうか?

 

 実際、これまでに筋トレと血圧に関する研究報告は数多くあり、それらをまとめて統計解析を行ったメタアナリシスもいくつか報告されました。

 

 2011年、ルーベン・カトリック大学のコルネリセンらは、筋トレが血圧に与える影響を調査した33の研究(1,012名の被験者)を対象に行ったメタアナリシスの結果を報告しています。

 

 分析結果では、中等度の筋トレが正常血圧である被験者の血圧を低下させることが示唆されましたが、高血圧である被験者の血圧低下は示されませんでした(Cornelissen VA, 2011)。

 

 また、カナダ・コンコルディア大学のロッシらは、2013年、筋トレと血圧に関する9の研究(452名の被験者)を対象にしたメタアナリシスの結果を報告しています。

 

 結果は、正常血圧の被験者の血圧を有意に低下させることが示唆されました。また、筋トレを行うことによって血圧が過度に上昇するという有害事象はなかったことも報告されています(Rossi AM, 2013)。

 

 その他にも同様のメタアナリシスが報告されており、筋トレが血圧を低下させるというポジティブなエビデンスが確立されつつあったのです。

 

 しかし、これらのメタアナリシスに多くの疑義の声が挙がりました。



◆ 筋トレが高血圧を改善させるメタアナリシスの結果とは?

 

 メタアナリシス(meta-analysis)とは、過去に行われた複数の研究報告を統合し、総合的な治療効果の評価を行うための統計手法であり、もっともエビデンスが高い報告とされています。

 

 しかし、もっともエビデンスが高い研究手法であるメタアナリシスについて、イェール大学のフェインスタインはこう批判します。

 

 「メタアナリシスは21世紀における統計学的な錬金術である」

 

 個々の研究が小規模で質の低いものであっても、これらを合わせれば見かけ上、統計学的に有意な結果を作り出すことができます。このことから、質の悪いメタアナリシスを統計学的な錬金術であるとフェインスタインは警鈴を鳴らしたのです(Feinstein AR, 1995)。

 

 残念ながら、筋トレと血圧に関するこれまでのメタアナリシスについては、いくつかの疑義が挙がっていました。それは主に個々の研究報告の規模や数の少なさ、質の低さ、バイアスの問題であり、これらをまとめたメタアナリシスも低品質であると位置づけられてしまったのです。

 

 しかし、この問題の解決に挑んだ研究者がいました。それがアラバマ大学のマクドナルドらです。

 

 2016年、マクドナルドらはこれまでの報告よりも大規模な64の研究(2,344名の被験者)を対象にしたメタアナリシスを報告しました。

 

 マクドナルドらは、これまでに行われなかった現代的な統計学的アプローチ(multiple moderator meta-regressionsやinteractive modeling strategiesなど)を取り入れました。このアプローチによって、低品質な研究の潜在的な影響を取り除き、メタアナリシスの品質の向上をはかったのです。

 

 その結果、筋トレが血圧に与えるいくつかの知見が得られました。

 

 まず、筋トレによる血圧を下げる効果が改めて確認されました。特に高血圧の被験者の血圧を5mmHg下げることが示されました。5mmHgの血圧低下は、高血圧による心筋梗塞のリスクを5%、脳卒中のリスクを8%、死亡率を4%減少させることが示唆されており(Lewington S, 2002)、マクドナルドらは意味のある血圧低下の効果だと述べています。

 

 また、このような血圧低下を誘発するためのトレーニング強度やセット数といった方法論を導き出しました。効果的に血圧を低下させるためには、最大筋力の60%程度の重量で、10〜12回、3セットのトレーニングを週3回実施することを推奨しています。

 

 さらに週3回以上の頻度で行うことによって、さらなる血圧低下の効果が期待できる用量依存的な効果も明らかにしています。

 

 これらの結果からマクドナルドらは、これまでの報告を支持するように、筋トレが高血圧の改善に寄与することを示唆しています。また、その効果は有酸素運動と同等であるとことから、高血圧の治療ガイドラインに「筋トレ」を含むべきであると提唱しています。しかしながら、マクドナルドらのメタアナリシスでもその品質は中等度とされています。これには個々の研究の質の低さが起因しており、今後の研究の質の向上が望まれています(MacDonald HV, 2016)。

 

 それでは、なぜ筋トレによって血圧は下がるのでしょうか?

 

 筋トレによる血圧低下のメカニズムは、まだ明らかになっていませんが、ここではブラジル・パラ大学のソウザらの推論をご紹介しましょう。

 

 血管は内膜、中膜、外膜の3層構造になっています。血管のいちばん内側にある内膜には内皮細胞があり、内皮細胞は一酸化窒素やエンドセリンなどの血管作動物質を放出することに寄って血管を収縮させたり、緩めたりする作用を担っています。筋トレは、この内皮細胞に影響を与え、血管を緩めることによって血圧の低下に寄与すると考えられているのです(de Sousa EC, 2017)。

 

 これまで低品質とされていた筋トレと血圧のメタアナリシスに、マクドナルドらは品質の向上をはかり、改めて筋トレが高血圧の血圧低下に寄与することを明らかにしました。2017年にも同様のメタアナリシスが報告されており、筋トレによる血圧低下の効果のエビデンスが確立されつつあるのです。

 

 

 血圧計の数値をみた医師は、こう告げました。

 

 「高血圧ですね」

 

 「今すぐジムに行きなさい!」

 

 こう言われる時代が、そろそろやってくるかもしれませんね。

 

 

www.awin1.com

 

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シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

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シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?

シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス

シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる

 

 

References

Pescatello LS, et al. American College of Sports Medicine position stand. Exercise and hypertension. Med Sci Sports Exerc. 2004 Mar;36(3):533-53.

Pescatello LS, et al. Assessing the Existing Professional Exercise Recommendations for Hypertension: A Review and Recommendations for Future Research Priorities. Mayo Clin Proc. 2015 Jun;90(6):801-12.

Cornelissen VA, et al. Impact of resistance training on blood pressure and other cardiovascular risk factors: a meta-analysis of randomized, controlled trials. Hypertension. 2011 Nov;58(5):950-8.

Rossi AM, et al. The evolution of a Canadian Hypertension Education Program recommendation: the impact of resistance training on resting blood pressure in adults as an example. Can J Cardiol. 2013 May;29(5):622-7.

Feinstein AR, et al. Meta-analysis: statistical alchemy for the 21st century. J Clin Epidemiol. 1995 Jan;48(1):71-9.

MacDonald HV, et al. Dynamic Resistance Training as Stand-Alone Antihypertensive Lifestyle Therapy: A Meta-Analysis. J Am Heart Assoc. 2016 Sep 28;5(10).

Lewington S, et al. Age-specific relevance of usual blood pressure to vascular mortality: a meta-analysis of individual data for one million adults in 61 prospective studies. Lancet. 2002 Dec 14;360(9349):1903-13.

de Sousa EC, et al. Resistance training alone reduces systolic and diastolic blood pressure in prehypertensive and hypertensive individuals: meta-analysis. Hypertens Res. 2017 Nov;40(11):927-931.