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理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由


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 「食べてすぐ寝ると牛になる」

 

 昔から、食事をしてすぐに横になったり、寝ることは行儀の悪いこととされ、その戒めからこのようなこわざが生まれました。

 

 もちろん、筋トレ後にプロテインを飲んで、すぐに横になることも行儀の悪いことです。そのため、プロテインを飲んだらゴロゴロしてはいけないのです…

 

 「いやいや、行儀が悪いとか言っている場合ではないですよ」

 

 そう言うのは、マーストリヒト大学のHolwerdaらです。

 

 そして、こう続けます。

 

 「プロテインを飲むときはもちろん、飲んですぐに仰向けに寝るとアミノ酸の吸収が遅くなる可能性があるのです」

 

 今回は、プロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由について、Holwerdaらの近年の報告をご紹介しましょう。

 

Table of contents



◆ 胃の消化機能には「姿勢」が関与する

 

 筋肉のもとである筋タンパク質は24時間、いつも合成と分解を繰り返しており、筋肉量が維持されているのは、この合成と分解のバランスが保たれているからです。

 

 筋トレによって筋タンパク質の合成感度が上昇しますが、それだけでは筋肥大は生じません。タンパク質を摂取することによってはじめて筋タンパク質の合成作用が増加し、分解作用を大きく上回るため効果的な筋肥大を生じさせることができるのです。

 

 これが筋トレとタンパク質の摂取をセットで考えなければならない理由です。

筋トレ後のタンパク質摂取は24時間を意識するべき理由

 

 そのため、スポーツ医学や栄養学では、筋トレの効果を最大化するためのタンパク質の最適な摂取量や摂取タイミング、品質の検証が行われ、いくつかの知見が報告されています。

筋トレの効果を最大化するタンパク質の摂取量を知っておこう

筋トレの効果を最大化するタンパク質の摂取パターンを知っておこう

筋トレの効果を最大化するタンパク質の品質について知っておこう

 

 このように、これまでは如何に高品質なタンパク質を最適な量とタイミングで摂取するかがトッピクスになっていました。これに対して、タンパク質そのものではなく、摂取する際の「姿勢」に着目したのがマーストリヒト大学のHolwerdaらです。

 

 タンパク質の品質は、アミノ酸組成や消化速度などによって決まります。乳タンパク質のホエイは、他のカゼインやソイに比べて消化吸収速度が早く、筋トレ後1〜2時間という筋タンパク質の合成感度がもっとも高まるゴールデンタイムに効果的に作用するため、良質なプロテインとされています。

 

 しかし、この消化速度に姿勢が影響するのではないか、とHolwerdaらは考えました。それは「胃の形態」から推察されたのです。

 

 胃は正面から見た場合、「J型」を示します。食道からつながる胃の入り口を噴門といい、十二指腸につながる出口を幽門といい、それ以外を胃体部といいます。J型なのは幽門の手前で内容物を効率的に混ぜることができるからです。胃は正面からはJ型ですが、側面からは特徴的な形が見られます。

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図:胃の正面

 

 胃を側面から見てみると、垂直ではなく、出口である幽門が前方に位置するように大きく傾いているのがわかります。

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図:胃の側面

 

 実は、この胃の傾きが姿勢によって消化速度に影響を与える要因になることが示唆されているのです。

 

 2013年、東北大学のImaiらは、コンピューターシミュレーションによって、胃の内容物の排出が姿勢によってどのような影響を受けるのか検証しました。

 

 その結果、立っていたり座っている状態では、胃の内容物は重力によって胃体部の下方に移動し、幽門から排出されやすくなります。つまり、消化されやすくなります。これに対して、仰向けに寝ると、幽門が上方にくるため、胃の内容物が幽門を通過しづらくなり、排出されにくくなることが示されました。

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Fig.1:Imai Y, 2013より筆者作成

 

 このような知見から、Holwerdaらは、プロテインを飲むとき、飲んだあとの姿勢が胃の排出速度を遅くし、タンパク質の消化吸収速度を低下させるのではないか?というリサーチクエスチョンを抱いたのです。



◆ 仰向けに寝ると血中アミノ酸濃度が低下する

 

 まず、Holwerdaらは、十分に胃を傾けるために、仰向け状態からさらに頭部を20度下げた姿勢でプロテインを摂取させる検証を行いました。 

 

 2016年、マーストリヒト大学に20代の男性が被験者として集められ、ミルクプロテインをふたつの異なる姿勢で摂取するようにグループ分けされました。ひとつのグループは座ってプロテインを摂取し、もうひとつのグループは頭部を20度下げた仰向けで摂取しました。摂取後4時間まで、それぞれのグループは同じ姿勢を維持し、摂取後15分、30分、45分、60分、90分、120分、180分、240分に血液のサンプルが採取され、胃からの排出速度とともに血中アミノ酸濃度が計測されました。

 

 その結果、頭部を下げた仰向け姿勢で寝ていたグループは、座っていたグループよりもタンパク質の胃からの排出速度が遅く、血中アミノ酸濃度が低いことが示されました(Holwerda AM, 2016)。

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Fig.2:Holwerda AM, 2016より筆者作成

 

 この結果から、Holwerdaらは姿勢が胃の排出速度とともに血中のアミノ酸濃度に影響を与えることを確認したのです。

 

 しかし、頭部を下げた仰向け姿勢というのは一般的ではありません。そのため、次に通常の仰向け姿勢で寝た際の胃の排出速度と血中アミノ酸濃度について検証しました。

 

 2017年、20代の男性を被験者として集め、ミルクプロテインを座って摂取するグループと仰向けで摂取するグループに分けました。摂取後5時間まで、それぞれのグループは姿勢を維持し、定期的に血液のサンプルが採取され、胃からの排出速度、血中アミノ酸濃度が計測されました。

 

 その結果、やはり仰向けで寝ていたグループは、座っていたグループよりも胃からの排出速度が遅く、血中アミノ酸濃度が低いことが示されたのです。

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Fig.3:Holwerda AM, 2017より筆者作成

 

 この結果から、Holwerdaらはプロテインを摂取するときや摂取してすぐに仰向けに寝ることは、座っている姿勢よりも胃の排泄速度を遅くし、腸による吸収速度が遅くなることによって血中アミノ酸濃度が低下する可能性を示唆しています。そして、血中アミノ酸濃度の低下は、筋トレ後のタンパク質摂取による筋タンパク質の合成作用の増大を弱める可能性を推察しています(Holwerda AM, 2017)。

 

 Holwerdaらの報告は、筋トレ後にいくら高品質のタンパク質を最適な量とタイミングで摂取しても、すぐに仰向けになってしまっては胃の排出速度が遅くなり、結果的に筋タンパク質の合成作用が弱まる可能性を示唆しているのです。 

 

 これらの結果から、Holwerdaらこう述べています。

 

 「プロテインを飲むときはもちろん、飲んでからもすぐに仰向けに寝てはいけない」

 

 

 Holwerdaらの報告は新規性があり興味深いものですが、実証するためには他の追試とともに、実際にプロテイン摂取時・摂取後の姿勢が筋タンパク質の合成作用や筋肥大に与える影響についての検証が必要でしょう。しかしながら胃の形態学的な知見からも、姿勢が胃の排出速度に影響を与える可能性はありそうです。

 

 筋トレを終えて、プロテインや食事を摂取したあとは、疲労もあってゴロゴロしたくなります。ここで少し座ってリラックスする時間を心がけるとタンパク質の消化吸収に良いかもしれませんね。

 

 

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◆ 参考論文

Imai Y, et al. Antral recirculation in the stomach during gastric mixing. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2013 Mar 1;304(5):G536-42.

Holwerda AM, et al. Body Position Modulates Gastric Emptying and Affects the Post-Prandial Rise in Plasma Amino Acid Concentrations Following Protein Ingestion in Humans. Nutrients. 2016 Apr 13;8(4):221.

Holwerda AM, et al. Food ingestion in an upright sitting position increases postprandial amino acid availability when compared with food ingestion in a lying down position. Appl Physiol Nutr Metab. 2017 Jul;42(7):738-743.