リハビリmemo

大学病院勤務・大学院所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう


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 筋トレの効果を高めるためには「タンパク質」の摂取がかかせません。というのも、筋トレだけでは筋肉のもととなる筋タンパク質は合成されず、そこにタンパク質を摂取して、はじめて筋タンパク質の合成が高まるからです。そのため、筋トレとタンパク質の摂取はセットで考えなければなりません。

筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識すべき理由

 

 現代は健康ブームであり、欧州やアメリカといった先進国だけでなく、今では中国やインドにも健康志向が広まっています。その中で急速に拡大しているのがプロテインサプリメント市場です。BBCプロテイン特集では、イギリス人の27%がプロテインを摂取しており、週に1回以上のスポーツを行っている人ではその割合が39%にまで上昇します。さらに、今後、プロテイン市場は年6.3%で拡大すると予測されています。

BBC - Future - We don't need nearly as much protein as we consume(May 23, 2018)

 

 また、近年ではプロテイン市場の拡大とともに、プロテインの研究報告も増えており、今年に入ってホエイ・プロテインのメタアナリシスがすでに3件も報告されています。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康の最新エビデンスまとめ

 

 このようなプロテイン人気の中、食品からのタンパク質の摂取に注目している研究者がいます。

 

 ワシントン大学のVlietらは、2018年2月にトレーニング効果を高める食品についてのレビューを報告しており、その中でトレーニング効果を高める食品の食べ方や選び方についてまとめています。

 

 今回は、このレビューから、筋トレの効果を高める「牛乳の選び方」について考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ トレーニグ効果を高める食物相乗作用

 

 ワシントン大学のVlietらはレビューの中でこう述べています。

 

 「現代では単離されたタンパク質であるプロテインに注目が集まっているが、一般的に私たちは食品からタンパク質を摂取している」

 

 「そうであれば、トレーニングの効果を高める食品の摂取方法について研究することに価値があるだろう」

 

 プロテインはあくまでもサプリメント(栄養補助食品)であり、タンパク質の多くは食事から摂取されます。そして食事にはタンパク質以外にも豊富な栄養素があり、Vlietらはタンパク質とともに他の栄養素を摂取することが筋タンパク質の合成を高めることを示唆しています。

 

 その例が「卵(たまご)」です。

 

 トレーニング後に卵を食べる際、多くの人が「卵白だけ」を好んで食べると思います。卵黄は高カロリーであり、コレステロールが多く含まれることから敬遠される傾向にあります。これに対して卵白は、タンパク質以外の栄養素を含まいない単離されたタンパク質であり、低カロリーです。そのため、筋トレ後に卵白が好んで食べられているのです。

 

 しかし、近年の研究結果では、卵白だけでなく卵黄を一緒に食べることにより、トレーニング後の筋タンパク質の合成が高まることが示唆されています。

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Fig.1:van Vliet S, 2017より筆者作成

 

 これは卵黄に含まれるレチノイン酸やホスファチジン酸などの栄養素が筋タンパク質の合成に寄与していると推察されています(van Vliet S, 2017)。

筋トレの効果を最大にする「タマゴ」の正しい食べ方

 

 このような研究結果から、タンパク質だけでなく、食品に含まれる他の栄養素がトレーニング後の筋タンパク質の合成を高める「食物相乗作用」が示されているのです。

 

 Vlietらは、卵以外にもトレーニング効果を高める食物相乗作用をもつ食品を紹介しています。

 

 そのひとつが「牛乳」です。



◆ 牛乳は無脂肪でなく「全乳」を飲もう

 

 牛乳にはタンパク質をはじめ、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル(カルシウム、リン、カリウムなど)がほどよく含まれています。また筋タンパク質の合成に必要な必須アミノ酸が含まれており、特にリジンが豊富です。米や小麦にはリジンが少ないため、牛乳を飲むことによってリジンを補給することでアミノ酸組成を改善することができます。

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 また、牛乳にはインスリンの分泌作用があり、インスリンには筋タンパク質の分解を抑制する効果が示されています(Abdulla H, 2016)。さらに、タンパク質とともに炭水化物を摂取すると筋タンパク質の合成がより高まる可能性が示唆されていることからも、その両方の栄養素を含む牛乳はトレーニング後の摂取に最適であると言われています。

 

 しかしながら、近年では、牛乳に含まれる脂質が敬遠され、低脂肪や無脂肪の製品が好んで摂取されています。では、無脂肪の牛乳と、脂質を含む普通の牛乳(全乳)とではトレーニング後の筋タンパク質の合成に差が生じるのでしょうか?

 

 この疑問を検証したのがテキサス・メディカル・ブランチ大学のElliotらです。

 

 研究にはトレーニング経験のない被験者が集められ、無脂肪の牛乳を摂取するグループと全乳を摂取するグループに分けられました。被験者はレッグエクステンションを最大筋力の80%で8回、10セット行いました。トレーニングから1時間後にそれぞれの牛乳(237ml)を摂取し、6時間後までの筋タンパク質の合成量が計測されました。

 

 その結果、全乳は無脂肪牛乳に比べて、筋タンパク質の合成を示すフェニルアラニンスレオニンアミノ酸摂取率の増加を示したのです。

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Fig.2:Elliot TA, 2006より筆者作成

 

 これは、トレーニング後に無脂肪牛乳よりも全乳を摂取したほうが筋タンパク質の合成が高まりやすいことを示唆しています(Elliot TA, 2006)。

 

 このような効果の理由のひとつに飽和脂肪酸パルミテートの存在が挙げられています。パルミテートは筋タンパク質の合成のスイッチとされるmTORを活性化させる作用が報告されており(Yasuda M, 2014)、パルミテートの作用が筋タンパク質の合成を高めたと考えられています(Vliet SV, 2018)。

 

 さらに、近年では全乳によるトレーニング後の遅発性筋肉痛の回復効果も報告されています。

 

 ITカーローのRankinらは、スポーツアスリートの男女を被験者として、トレーニング後に全乳500mlを摂取することによる筋力(ピークトルク)の回復度合い、筋肉痛の程度、痛みマーカー(CK)の計測を行いました。

 

 その結果、全乳を摂取した男女はともにプラセボを摂取した男女よりもピークトルクが早期に回復し、筋肉痛の程度が低く、痛みのマーカーは女性のみ72時間後に低下を示したのです。

 

 このような全乳の摂取よる遅発性筋肉痛の回復効果は、過去にも男性で報告されており(Cockburn E, 2010)、Rankinらの報告は過去の研究結果を支持するとともに、性別に関係なく効果的であることを示唆しています(Rankin P, 2015)。

 

 これらの知見から、食品からのタンパク質摂取のレビューを報告したVlietらは、トレーニング後の牛乳の摂取は無脂肪でなく全乳を選ぶべきであると述べているのです。

 

 Vlietらは、プロテインはトレーニング後に必要とされるタンパク質を摂取する最適な補充戦略であるとした上で、そこには金銭的なコストや味の好みなど個人の嗜好性が反映されるといいます。一般的な栄養が食事から摂取されることからも、今後は、卵や牛乳のように、食品に含まれる他の栄養素がトレーニング後の筋タンパク質の合成を高める食物相乗作用について、さらに検証が進められるべきだとレビューの最後で述べています。



 Vlietらの主張はとても興味深いものです。僕たちは食品に含まれるタンパク質の量やアミノ酸組成に注目しがちですが、他の栄養素が筋タンパク質の合成を促進させる可能性があるのです。

 

 トレーニング効果に対する食品についての研究は、プロテインの研究に比べると圧倒的に少なく、質も低いです。ご紹介した卵や牛乳の研究もトレーニング経験の有無や長期的な効果、さらにはエビデンスレベルの高いランダム化比較試験は行われていないため、今後のさらなる検証が必要でしょう。研究者が食品ではなく、プロテインの研究に積極的になる理由はいろいろとありそうですが…

 

 しかしながら、個人的には、通常の食事における筋タンパク質の合成に寄与する「食べ方」や「飲み方」がさらに検証されると実用的だと思っています。調理方法などにも活かせると面白いですよね。

 

 ちなみに高齢者が対象ですが、牛肉の焼き加減はレアよりもウェルダンのほうがタンパク質の摂取が促進されるとのことです(Buffière C, 2017)。

 

 

www.awin1.com

 

 

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シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

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シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

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シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう

シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス

シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法

 

 

◆ 参考論文

Vliet SV, et al. Achieving Optimal Post-Exercise Muscle Protein Remodeling in Physically Active Adults through Whole Food Consumption. Nutrients. 2018 Feb 16;10(2).

van Vliet S, et al. Consumption of whole eggs promotes greater stimulation of postexercise muscle protein synthesis than consumption of isonitrogenous amounts of egg whites in young men. Am J Clin Nutr. 2017 Dec;106(6):1401-1412.

Abdulla H, et al. Role of insulin in the regulation of human skeletal muscle protein synthesis and breakdown: a systematic review and meta-analysis. Diabetologia. 2016 Jan;59(1):44-55.

Elliot TA, et al. Milk ingestion stimulates net muscle protein synthesis following resistance exercise. Med Sci Sports Exerc. 2006 Apr;38(4):667-74.

Yasuda M, et al. Fatty acids are novel nutrient factors to regulate mTORC1 lysosomal localization and apoptosis in podocytes. Biochim Biophys Acta. 2014 Jul;1842(7):1097-108.  

Rankin P, et al. The effect of milk on the attenuation of exercise-induced muscle damage in males and females. Eur J Appl Physiol. 2015 Jun;115(6):1245-61.

Cockburn E, et al. Effect of milk-based carbohydrate-protein supplement timing on the attenuation of exercise-induced muscle damage. Appl Physiol Nutr Metab. 2010 Jun;35(3):270-7.  

Buffière C, et al. In the elderly, meat protein assimilation from rare meat is lower than that from meat that is well done. Am J Clin Nutr. 2017 Nov;106(5):1257-1266.