リハビリmemo

大学病院勤務・大学院所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス


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 筋トレの目的には、主に筋力を強くすること(筋力増強)と筋肉を大きくすること(筋肥大)があります。この目的を達成するためには、それぞれの最適なトレーニング強度を選択することが効果的です。

 

 では、筋力増強や筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度とはどのくらいなのでしょうか?

 

 この問いに対して、2009年のアメリカスポーツ医学会(ACSM)の公式声明は、このように答えています。

 

 「筋力増強、筋肥大ともに高強度トレーニングが効果的である(エビデンスレベルA)」

 

 ACSMの声明により、筋力増強や筋肥大の効果的なトレーニグ強度は「高強度」であることが示され、現在でも多くのトレーニング現場で参考にされています。

 

 しかし、現代のスポーツ医学や神経生理学は、これに疑問の声を上げているのです。

 

 今回は、高強度トレーニングが筋力増強や筋肥大に効果的である理由とともに、どのような疑問の声が上がっているのか、近年の研究報告をご紹介しましょう。

 

Table of contents



◆ 高強度トレーニングが効果的な理由

 

 なぜ、筋力増強や筋肥大には高強度トレーニングが効果的なのでしょうか?

 

 その理由は「サイズの原理」にあります。

 

 サイズの原理について説明しようとすると、運動単位(モーターユニット)の話から始めなければなりません。

 

 ひとつの運動神経がつながっている筋線維の集まりをユニットと考え、これを運動単位といいます。ひとつの運動神経が支配している筋線維の本数は、数十本から数千本までさまざまです。その本数に応じて、小さな運動単位、大きな運動単位と分けることができます。

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 では、なぜ運動単位には大小のサイズがあるのでしょうか?

 

 ひとつの運動神経が数十本の筋線維を支配する「小さな運動単位」は、発揮する力は弱いのですが、疲れにくいという特徴があります。これに対して、ひとつの運動神経が数百本から数千本の筋線維を支配する「大きな運動単位」は疲れやすいですが、強い力を発揮することができます。

 

 筋肉には、このような大小の運動単位がさまざまな割合で分布しており、その割合に応じて筋肉の役割を特徴づけているのです。例えば、小さな運動単位の割合が多い外眼筋は、力はとても弱いですが、1日中、目を動かしていても疲れることはありません。また、ふくらはぎにある腓腹筋は、大きな運動単位の割合が多く、歩いたり、走ったりするときの推進力を生み出すことができます。しかしながら、全力で走るとすぐに疲れてしまいます。

 

 ヒトの身体にある600もの筋肉は、効率的に動作を行うために、大小の運動単位の割合を変えてデザインされているのです。

 

 さらに、筋肉は力の強弱によっても大小の運動単位を使い分けています。

 

 大腿四頭筋はジョギングやダッシュのときに膝の動きを制御しています。ジョギングでは、小さな運動単位を使い、弱いチカラで長い距離を走れるようにします。そこで走る速度を上げていくと、徐々に大きな運動単位を参加(動員)させ、ダッシュをするときには強い力で膝をコントロールします。

 

 この大小の運動単位の使い分けが「サイズの原理」にもとづいているのです。

 

 1965年、ハーバード大学のHennemanらは、筋肉はより多くの力が必要になるとき、その力に応じて運動神経の発火頻度を増加させ、小さな運動単位から、大きな運動単位を参加(動員)させる「サイズの原理」を提唱しました(Henneman E, 1965)。

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 そして、Hennemanらはサイズの原理には生物学的な利点があるといいます。

 

 「生物は、最初に疲れにくい小さな運動単位を使用することにより疲労を最小限にすることが可能となり、また、力が必要な場合には大きな運動単位を動員することにより、その力に適応することが可能となる」

 

 ここに、高強度トレーニングが筋力増強に効果的である理由があります。

 

 筋力を増強させるためには、小さな運動単位だけでなく、大きな運動単位を動員しなければなりません。また、大きな運動単位を動員するためには、運動神経の発火頻度を増加させる必要があります(レートコーディング)。さらに、ひとつの筋肉には大きな運動単位がいくつもありますが、これらがバラバラのタイミングで収縮していては大きな力は発揮できません。大きな力を発揮するためにはそれぞれの運動単位を活動を同期させることが重要になります。

 

 高強度トレーニングは、運動単位の動員や同期、レートコーディングといった神経活動を高める効果があり、トレーニングを繰り返し行うことによって神経活動が適応され、筋力が増強するのです(Suchomel TJ, 2018)。

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 このような神経生理学的なメカニズムをもとに、ACSMの声明は、筋力増強には高強度トレーニングが有効であると推奨しているのです。

 

 さらに、2017年、ニューヨーク市立大学のSchoenfeldらは、これまでに報告された14の筋トレと強度についての研究結果を解析したメタアナリシスを報告しました。その結果、筋力増強には高強度トレーニグが有効であることが明らかになりました(Schoenfeld BJ, 2017)。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

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Fig.1:Schoenfeld BJ, 2017より筆者作成

 

 ACSMの声明やメタアナリシスの結果から、筋力増強には高強度トレーニングが効果的であるというエビデンスが示されているのです。

 

 では、やはり筋肥大においても、高強度トレーニングが効果的なのでしょうか?



◆ 高強度でも低強度でも筋肥大の効果は同じ?

 

 ACSMの声明では、筋肥大においても筋力と同様に高強度トレーニングが推奨されています。

 

 その理由として、サイズの原理をもとに、高強度であれば小さな運動単位とともに大きな運動単位を動員することが可能であり、すべての筋線維に機械的なストレスを生じさせることによって効果的な筋肥大が期待できるとしています。

 

 これに対して、低強度トレーニングでは小さな運動単位の動員にとどまり、大きな運動単位を動員することができないために、筋肥大の効果を最大化することが難しいと考えられています。

 

 しかし、近年のスポーツ医学や神経生理学では、これを覆す知見が報告されているのです。

 

 2003年、ノルウェー科学技術大学のWestadらは、僧帽筋の低強度の負荷を持続的に与えて筋疲労を生じさせると、小さな運動単位だけでなく、大きな運動単位も動員させて、力を維持しようとする「運動単位のサイクル」が生じることを報告しました(Westad C, 2003)。

 

 このような知見をまとめてレビューを報告したサウサンプトン・ソレント大学のFisherらは、低強度トレーニングでも疲労困憊まで行うことによって、小さな運動単位だけでなく、大きな運動単位も動員することが可能となり、高強度と同じような筋肥大の効果が得られると推察しています(Fisher J, 2017)。

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Fig.2:Fisher J, 2017より筆者作成

 

 低強度トレーニングによる筋肥大の効果については、筋肉のもととなる筋タンパク質の研究においても報告されています。

 

 2010年、マックマスター大学のBurdらは、トレーニング経験者を被験者として集め、レッグエクステンションを最大筋力の90%で行う高強度トレーニング・グループと、最大筋力の30%で行う低強度トレーニング・グループに分け、それぞれ疲労困憊になるまで実施しました。その後、24時間が経過した時点で筋タンパク質の合成率が測定されました。

 

 その結果、低強度トレーニングでも疲労困憊まで行うことによって、高強度トレーニングよりも筋タンパク質の合成率が高くなることが示唆されたのです(Burd NA, 2010)。

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Fig.3:Burd NA, 2010より筆者作成

 

 現在では、これらの運動単位や筋タンパク質の知見から、低強度のトレーニングにおいても疲労困憊まで行うことによって高強度と同等の筋肥大の効果が得られる可能性が論じられているのです。

 

 そして、この仮説を裏付けるかのように、2017年、Schoenfeldらにより筋トレと筋肥大についてのメタアナリシスの結果が報告されました。

 

 その結果は、低強度でも高強度でも疲労困憊になるまで追い込み、総負荷量を高めれば、筋肥大の効果に有意な差はないというものでした。つまり、低強度でも高強度でも筋肥大の効果は同等であることが示されたのです(Schoenfeld BJ, 2017)。

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Fig.4:Schoenfeld BJ, 2017より筆者作成

 

 この結果は、低強度トレーニングを疲労困憊まで行えば、小さな運動単位だけでなく、大きな運動単位も動員できるというFisherらの仮説や筋タンパク質の研究結果を支持するものです。しかし、低強度トレーニグによる筋肥大の効果ついての知見はいまだ少なく、そのメカニズムも仮説の域を出ていないため、Schoenfeldらのメタアナリシスは「現在のところ」のエビデンスとして捉えておくべきでしょう。

 

 2009年にACSMにより提唱された「高強度トレーニングが筋力増強、筋肥大に有効である」という常識は、10年のときを経て、現在では新たな常識に修正される可能性が示唆されているのです。

 

 「筋力増強には高強度トレーニングが効果的であり、筋肥大には高強度トレーニングだけでなく低強度トレーニング(疲労困憊まで追い込む)も効果的である」

 

 今後も筋肥大に対するトレーニング強度についての新たな研究結果が報告されましたら、本ブログでもご紹介していきます。

 

 

www.awin1.com

 

 

 

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References

American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.

Henneman E, et al. Excitability and inhibitability of motoneurons of different sizes. J Neurophysiol. 1965 May;28(3):599-620.

Suchomel TJ, et al. The Importance of Muscular Strength: Training Considerations. Sports Med. 2018 Apr;48(4):765-785.

Schoenfeld BJ, et al. Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis. J Strength Cond Res. 2017 Dec;31(12):3508-3523.

Westad C, et al. Motor unit recruitment and derecruitment induced by brief increase in contraction amplitude of the human trapezius muscle. J Physiol. 2003 Oct 15;552(Pt 2):645-56.

Fisher J, et al. High- and Low-Load Resistance Training: Interpretation and Practical Application of Current Research Findings. Sports Med. 2017 Mar;47(3):393-400.

Burd NA, et al. Low-load high volume resistance exercise stimulates muscle protein synthesis more than high-load low volume resistance exercise in young men. PLoS One. 2010 Aug 9;5(8):e12033.