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太ると頭が悪くなる?最新エビデンスを知っておこう!


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 「太ると頭が悪くなる(認知機能が低下する)」

 

 認知機能とは記憶や思考、理解、計算、言語、判断といった知的能力のことをいいます。

 

 また認知機能には、仕事の目的や計画を明確に立て、修正しながら効率的に行動する「実行機能」、多くの情報を得ながら、同時に処理する「ワーキングメモリ」、困難に直面しても柔軟に代替案や解決案を見つける「認知の柔軟性」などがあります。

 

 現代のような高度な知識社会では、実行機能やワーキングメモリ、認知の柔軟性といった認知機能を高いレベルで発揮できる人が「仕事のできる人」といえます。しかし、太るとこれらの認知機能が低下してしまう可能性があるのです。

 

 「本当?」と思われるかもしれませんが、現代の行動神経科学は、もっともエビデンスのレベルが高いとされるメタアナリシスの結果から、太ると認知機能が低下することを示唆しています。

 

 今回は、太ると認知機能が低下する最新エビデンスとそのメカニズムについてご紹介しましょう。



Table of contents

 

 

◆ 太ると抑制コントロールなどの認知機能が低下する

 

 2018年、中国・西南大学のYangらは、これまでに報告された肥満や太りすぎによる認知機能への影響を調査した結果をもとにしたメタアナリシスを行いました。

✻メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 

 対象となったのは72の研究報告(4904人の肥満と太りすぎの被験者)です。BMI30以上が肥満、BMI25-30が太りすぎと定義されています。肥満や太りすぎと正常体重による認知機能(抑制コントロール、ワーキングメモリ、認知の柔軟性など)への影響が解析されました。

 

 抑制コントロールは実行機能のひとつであり、計画を立てても他のことをしてしまうような不適切な行動を抑制する機能のことをいいます。

 

 その結果、肥満では、抑制コントロール、ワーキングメモリ、認知の柔軟性の低下が認められました。さらに意思決定、話の流暢さ、計画の実施といった他の認知機能の低下も認められました。

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Fig.1:Yang Y, 2018より筆者作成

 

 また、太りすぎでは抑制コントロールとワーキングメモリで低下を認めました。

 

 サブグループ解析では、これらの認知機能の低下に年齢、性別は影響しませんでした。

 

 72の研究報告をもとにメタアナリシスを行った結果、太りすぎでは抑制コントロール、ワーキングメモリの低下にとどまりましたが、肥満になると抑制コントロール、ワーキングメモリ、認知の柔軟性に加えて、意思決定、話の流暢さ、計画の実施といった認知機能全般の低下が生じるエビデンスが示されたのです。

 

 この結果から、太ると認知機能が低下することが示唆されましたが、では、なぜ太ると認知機能が低下するのでしょうか?



◆ 認知機能を低下させる要因は「慢性炎症」

 

 肥満になると高血圧や心臓病などのリスクが高くなります。なぜ病気のリスクが高まるのかというと、その要因のひとつに「慢性炎症」があります。

 

 本来であれば、脂肪細胞には炎症を抑えるM2マクロファージが存在しており、炎症から守ってくれています。しかし、過度に糖類や脂質を摂取し、脂肪細胞が肥大化すると状況が変わります。

ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜糖類編〜

ダイエットしたいなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜脂質編〜

 

 脂肪細胞の肥大化はM2マクロファージの働きを弱め、炎症を促進するM1マクロファージを増加させてしまうのです(Weisberg SP, 2003)。

 

 M1マクロファージから分泌されるTNFαは、脂肪細胞からの飽和脂肪酸(FFA)の分泌を促進します。飽和脂肪酸はM1マクロ ファージの受容体であるTLR4に作用することによってM1マクロファージを活性化させます。このような悪循環が形成されることにより慢性的な炎症が生じるのです(Suganami T, 2007)。

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 この慢性炎症が高血圧や心臓病のリスクを高める要因になります。そして、慢性炎症によって高まるリスクがもうひとつあります。

 

 それが「認知機能の低下」です。

 

 慢性炎症にともなって、脂肪細胞から炎症性サイトカインや遊離脂肪酸が血液中に放出されます。すると炎症性サイトカインは脳に作用して、抑制コントロールをつかさどる前頭前野や記憶に関与する海馬などの神経回路を損傷します。さらにサイトカインは神経発生を妨害し、神経毒性効果を誘発する可能性が示唆されています(Castanon N, 2014)。

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 このようなメカニズムにより肥満による慢性炎症が認知機能の低下に寄与するとされているのです(O'Brien PD, 2017)。

 

 実際にこのメカニズムを検証した研究結果が報告されています。

 

 ボルドー大学のLasselinらは、炎症反応が高い肥満の被験者、炎症反応の低い肥満の被験者、肥満でない被験者を対象に認知機能への影響を調査しました。

 

 その結果、炎症反応の指標とされるC反応性タンパク質(CRP)が高い肥満者は、CRPが低い肥満または非肥満者よりも認知機能のテストで間違え(エラー)が有意に多くなりました。また、炎症反応の低い肥満者は非肥満者よりもエラーが多くなる傾向が示されました。

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Fig.2:Lasselin J, 2016より筆者作成

 

 この結果から、肥満で慢性炎症が生じると認知機能の低下がより促進されることが示唆されているのです。

 

 Lasselinらは、肥満により認知機能が低下することを前提とするならば、ダイエットの際には食事や運動管理だけではなく、認知機能にもアプローチする包括的なダイエットプログラムの必要性を唱えています(Lasselin J, 2016)。

 

 このように、太ることは慢性炎症を誘発し、心臓病や高血圧といった心血管疾患などの発症リスクを高めるだけでなく、認知機能を低下をも招く可能性があるのです。

 

 ここである疑問がでてきます。

 

 太ると認知機能が低下するのであれば、ダイエットすれば(痩せれば)認知機能は高まるのでしょうか?

 

 この問に現代の行動神経科学は「Yes」と答えています。

 

 次回は、「科学的に正しい自己啓発法を知っておこう!【ダイエット編】」として、ダイエットをすると認知機能が高まるという最新エビデンスをご紹介しましょう。

 

 

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◆ ダイエットの科学シリーズ

シリーズ1:「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ2:ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス】

シリーズ3:テレビをつけたまま寝ると太る最新エビデンス

シリーズ4:コーヒーにはダイエット効果がある?【最新エビデンス】

シリーズ5:ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜糖類編〜

シリーズ6:ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜脂質編〜

シリーズ7:筋トレをして筋肉を増やせばダイエットできる説を検証しよう!

シリーズ8:ソイ・プロテインなどの大豆食品によるダイエット効果の最新エビデンス

シリーズ9:太ると頭が悪くなる?最新エビデンスを知っておこう!

 

◆ 参考文献

Yang Y, et al. Executive function performance in obesity and overweight individuals: A meta-analysis and review.  Neurosci Biobehav Rev. 2018 Jan;84:225-244.

Weisberg SP, et al. Obesity is associated with macrophage accumulation in adipose tissue. J Clin Invest. 2003 Dec;112(12):1796-808. 

Suganami T, et al. Role of the Toll-like receptor 4/NF-kappaB pathway in saturated fatty acid-induced inflammatory changes in the interaction between adipocytes and macrophages. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007 Jan;27(1):84-91. 

Castanon N, et al. Neuropsychiatric comorbidity in obesity: role of inflammatory processes.  Front Endocrinol (Lausanne). 2014 May 15;5:74

O'Brien PD, et al. Neurological consequences of obesity.  Lancet Neurol. 2017 Jun;16(6):465-477.

Lasselin J, et al. Low-grade inflammation is a major contributor of impaired attentional set shifting in obese subjects. Brain Behav Immun. 2016 Nov;58:63-68.

 

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