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タンパク質が食欲を減らすメカニズムを知っておこう!


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 なぜ、ダイエットはつづかないのでしょうか?

 

 その答えを現代の進化論はこう答えています。

 

 「ヒトは、ダイエットするようにデザインされていないから」

 

 数百万年という長い旧石器時代、ヒトは絶えず飢餓のリスクと隣り合わせで生きてきました。食べれるときにできるだけ食べ、脂肪を体内に蓄積させることにより、飢餓のときに脂肪をエネルギーに変えることで生き延びてきたのです。

 

 このような旧石器時代の飢餓に最適化された食欲は、飽食である現代で暴走します。

 

 その結果が肥満です。

 

 そして現代の多くのヒトが、減量をするために食事を減らしてダイエットに取り組みます。しかし、これは旧石器時代につくられた食欲という本能に抗うことを意味します。誰しも本能に勝つことは容易ではありません。

 

 これが、ダイエットがつづかない理由のひとつです。

人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病(下)

 

 これに対して、現代の健康科学は、こう提案しています。

 

 「食事を減らすのではなく、食欲を減らそう」

 

 近年、食欲を減らす栄養素として注目されているのが「タンパク質」です。タンパク質の摂取量を多くした高タンパク質食を摂取すると、空腹感が減り、満腹感が高まることによって、食欲を減らす効果が科学的根拠(エビデンス)として示されているのです。

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 では、なぜ、高タンパク質食を摂取すると食欲を減らすことができるのでしょうか?

 

 今回は、食欲のメカニズムを簡単に理解したうえで、この疑問に答えていきましょう。



Table of contents

 

◆ 3分で食欲のメカニズムを知ろう!

 

 僕たちは空腹になると「お腹がすいた」と感じ、満腹になると「お腹がいっぱい」と感じます。

 

 食欲は、僕たちが生きるために必要な3大欲求のひとつです。食欲をしっかりと働かせるために、脳の視床下部にある摂食中枢と満腹中枢は、さまざまなセンサーを介して全身のエネルギー状態を感知しています。

 

 そのひとつが血液中の「グルコースおよびインスリン」と「脂肪酸」です。

 

 仕事や運動をしてエネルギーを消費していると、徐々に血液中のグルコースが減っていきます。これに応じてインスリンの分泌量も減っていきます。すると脂肪細胞から脂肪酸が分泌され、血液中の脂肪酸が増えます。この「血液中のグルコースインスリンの減少、脂肪酸の増加」が信号となり、視床下部の摂食中枢にある神経が活性化します。その結果、「お腹がすいた」と感じます。 

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 そこで食事をすると、血液中のグルコースが増えて、それを肝臓や筋肉に取り込むためにインスリンの分泌も増えます。すると脂肪酸が減り、視床下部の満腹中枢の神経が活性化します。その結果、「お腹がいっぱい」と感じます。

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 ふたつめのセンサーが腸の消化管ホルモンである「CCK、GLP-1、PYY」です。

 

 お腹が空くと腸はゆるくなり、お腹いっぱい食べると腸は張って伸ばされます。このゆるみと張りによって分泌されているのが腸の消化管ホルモモンであるCCK、GLP-1、PYYです。

*CCK:コレシストキニン、GLP-1:グルカゴン様ペプチド1、PYY:ペプチドYY

 

 CCKやGLP-1、PYYは食欲を抑える信号を発する役割があり、空腹時には分泌が減ります。

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 満腹時には分泌を増やすことで満腹中枢を活性化させます。これにより「お腹がいっぱい」と感じます。

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 みっつめのセンサーが胃で産生されるペプチドホルモンである「グレリン」です。

 

 お腹がすくと胃はゆるくなります。このゆるみを感知して分泌されるのがグレリンです。グレリンの分泌が増えると、視床下部の摂食中枢が活性化して「お腹がすいた」と感じます。

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 食事をすると胃が張ってきます。するとグレリンの分泌が抑えられて摂食中枢の活性化が収まります。

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 このように空腹時には、血液中のグルコースインスリンが減少して脂肪酸が増加し、腸のCCK、GLP-1、PYYの分泌が減り、胃のグレリンの分泌が増加することによって視床下部の摂食中枢が活性化して「お腹がすいた」と感じ食欲が喚起されます。

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 反対に満腹時には、血液中のグルコースインスリンが増え、脂肪酸が減ります。また胃のグレリンが減り、腸のCCK、GLP-1、PYYの分泌が増えることで満腹中枢が活性化して「お腹いっぱい」と満腹感を感じるのです。

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 では、タンパク質の摂取量を増やすと、これらの食欲センサーはどのような影響を受けるのでしょうか?



◆ タンパク質が食欲を減らすメカニズム

 

 タンパク質を摂取すると、食欲を抑えられるというエビデンスが示されています。

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 では、タンパク質が食欲を増減する3つのセンサーにどのような影響を与えるのか見ていきましょう。

 

 まず、タンパク質を摂取するとインスリンの分泌を促進させることができます。炭水化物だけを摂取するよりもタンパク質を合わせて摂取するほうがインスリンの分泌が高まることが示唆されています(Zawadzki K, 1992)。インスリンの分泌は空腹感の減少や満腹感の増加に寄与します。

 

 またタンパク質の摂取は、腸の消化管ホルモンであるCCK、GLP-1、PYYの分泌を高めます。ケンブリッジ大学のvan der Klaauwらは、同じエネルギー摂取量である高タンパク質食、高炭水化物食、高脂肪食を朝食で摂取したあとのPYY、GLP-1の変化を計測しています。その結果、高タンパク質食は他の食事に比べて、朝食から4時間後の朝食時でもPYY、GLP-1の濃度が高いことが示唆されています(van der Klaauw A, 2013)。

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Fig.1:van der Klaauw A, 2013より筆者作成

 

 タンパク質を摂取すると腸でペプチドやアミノ酸に分解され、これらが腸内分泌細胞を直接刺激することによって消化管ホルモンの分泌が高まることがメカニズムとして考えられています。タンパク質によるCCK、GLP-1、PYYの分泌が増加は、満腹感を高めることを意味します。

 

 さらにタンパク質の摂取は、胃のホルモンであるグレリンの分泌を減らします。オーストラリア科学産業研究機構のBowenらは、食事前にタンパク質を摂取させたところ、食事後3時間でのグレリンの上昇が抑えられることを報告しています(Bowen J, 2006a、2006b)。

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Fig.2:Bowen J, 2006aより筆者作成

 

 タンパク質によるグレリンの分泌の減少は、空腹感を抑えることに寄与します。

 

 これらをまとめると、タンパク質は血液中のインスリンおよび腸の消化管ホルモンであるCCK、GLP-1、PYYの分泌を高めることで満腹感を高めます。

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 さらに、胃のグレリンの分泌を減らすことで空腹感を抑え、食欲を減らすことができるのです。

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 これが現時点でのタンパク質が食欲を減らすメカニズムとされています(Moon J, 2020)。

 

 しかしながら、食欲のメカニズムはそんなに単純ではありません。ここまで述べてきた食欲は「生きるために必要な食欲」についてです。近年では、もうひとつの食欲が注目されています。



◆ タンパク質は「別腹」も防ぐ?

 

 基本的に食欲とは、体内で不足しているエネルギーをセンサーで感知し、それを補うためのメカニズムです。しかし、僕たちはお腹がいっぱいになっても甘いスイーツは「別腹」で食べてしまいます。

 

 なぜ、必要なエネルギーを摂取して食欲が満たされているにも関わらず、甘いスイーツを食べてしまうのでしょうか?

 

 その正体が「嗜好性にもとづく食欲」です。

 

 嗜好性とは「人が好んで食べるかどうかの指標」とされています。この嗜好性には、脳にある「報酬系」が大きく関与しています。

 

 食べるという行動を行った結果、自分か予想していたよりも「美味しかった」という快感を感じたときに脳の報酬系が作用し、快感のもととなった行動を「強化」するのです。

 

 脂質や糖類が豊富なケーキやポテトチップスを食べると、脳の前頭前野からβエンドルフィンが分泌され、「美味しい」という快感が与えられます。この情報は中脳の腹側被蓋野に送られ、ドーパミン作動性ニューロンが興奮し、側坐核という部分にドーパミンを放出します。

 

 これにより「美味しい」という快感(報酬)を得た行動(ケーキやポテトチップスを食べる)が強化されるのです。

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 すると、お腹いっぱいでも、ケーキを見た途端に報酬系が作用し、嗜好性にもとづいた食欲が生じて「別腹だからいいよね!」と解釈されるのです。

 

 そして、近年ではタンパク質が嗜好性にもとづいた食欲を低減させる効果が示唆されています。

 

 カンザス大学医療センターのLeidyらのMRIを使用した研究では、朝食に高タンパク質を摂取することにより、報酬に関連する脳の領域の活性化が低下することが報告されています(Leidy H, 2011)。

 

 嗜好性にもとづいた食欲は、一種の中毒とされています(砂糖中毒や脂質中毒といわれます)。そのため、この食欲を減らすには、嗜好性を喚起している脂質や糖類の摂取を控えることが必要となりますが、報酬系に抗うことは困難です。

ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜糖類編〜

ダイエットしたいなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜脂質編〜

 

 しかし、タンパク質に嗜好性にもとづく食欲を軽減させる効果があるとすれば、別腹を防ぎ、この中毒から脱することを助けてくれる可能性があります。今後のさらなる研究が期待されます。



 タンパク質の摂取は、食欲を調節する3つのセンサーに作用して空腹感を減らし、満腹感を高めてくれます。また、脳に作用することによって嗜好性にもとづく食欲を軽減することが示唆されているのです。

 

 食欲のメカニズムを知って、タンパク質の摂取量を増やして、食事を減らすというダイエットから「食欲を減らす」というダイエットに取り組んでみても良いかもしれませんね。

 

 

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◆ 参考文献

Zawadzki K, et al. Carbohydrate-protein complex increases the rate of muscle glycogen storage after exercise. J Appl Physiol (1985). 1992 May;72(5):1854-9.

van der Klaauw A, et al. High protein intake stimulates postprandial GLP1 and PYY release.  Obesity (Silver Spring). 2013 Aug;21(8):1602-7.

Bowen J, et al. Energy intake, ghrelin, and cholecystokinin after different carbohydrate and protein preloads in overweight men.  J Clin Endocrinol Metab. 2006a Apr;91(4):1477-83.

Bowen J, et al. Appetite regulatory hormone responses to various dietary proteins differ by body mass index status despite similar reductions in ad libitum energy intake.  J Clin Endocrinol Metab. 2006b Aug;91(8):2913-9.

Moon J, et al. Clinical Evidence and Mechanisms of High-Protein Diet-Induced Weight Loss. J Obes Metab Syndr. 2020 Jul 23.

Leidy H, et al. Neural responses to visual food stimuli after a normal vs. higher protein breakfast in breakfast-skipping teens: a pilot fMRI study.  Obesity (Silver Spring). 2011 Oct;19(10):2019-25.