寒くなってくると焼き芋とか食べたくなりますよね。
芋は生で食べると硬くて、美味しくもありませんが、加熱した焼き芋は、とても柔らかく美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまいます。
このように生の芋に「加熱」という加工をして焼き芋すると、ペロリと食べれてしまいます。
ヴァーヘニンゲン大学が行った興味深い研究をご紹介しましょう。
学生に生のニンジン(130g)を食べさせると、食べ終わるのに「10分」かかりました。つぎに、ニンジンを茹でてから食べさせたところ、食べ終わる時間は「1分」に短縮しました。
また、生のリンゴ1個半(500g)を食べるのに「17分」かかりましたが、リンゴをジュース(液体)にすると「1分半」で飲み干しました。
ここからわかることは、食物に加熱や液体といった加工をほどこすと、同じ量でも短時間で食べれてしまうということです。
このような食品の加工技術の発展は、人々のエネルギー摂取量を高め、栄養状態を良くすることで寿命の延伸や人口の増加に貢献してきました。しかし、美味しさや食べやすさを追求した結果、現代の加工食品には健康を損なう可能性が指摘されているのです。
その代表が「超加工食品」です。
ポテトチップスなどのスナック製品、アイスクリームや砂糖入りの清涼飲料、チョコレート、フライドポテトやハンバーガーといったファーストフード、ホットドッグ、ナゲット・・・
近年の研究報告では、これらの超加工食品の摂取が心臓病や糖尿病といった病気の発症因子であることが示唆されています。さらに、最新の研究報告では、超加工食品が肥満の要因であることがわかってきたのです。
今回は、超加工食品が僕たちを太らせる科学的根拠(エビデンス)とそのメカニズムについて最新の研究報告をご紹介しましょう。
Table of contents
◆ 超加工食品は肥満のリスクを26%高くする!
食品の加工技術は、近代の日本人の寿命を大きく延伸させてきました。
1947年における日本人の平均寿命は男性50.0歳、女性53.9歳でしが、2018年には男性81.2歳、女性86.9歳になりました。わすが70年ほどで30歳以上も寿命を延ばしてきたのです(厚生労働省:平成30年簡易生命表の概況)。
この寿命の延伸には教育面や環境面、時代的背景など多くの要因がありますが、そのなかでも食品の加工技術の発展が大きく寄与したとされています(Koiwai K, 2019)。
しかし、これまで健康度や寿命の延伸に寄与した加工技術は、現代では健康に悪影響を与える食品も生み出しました。
それが「超加工食品」です。
近年まで、食品の加工の程度を分類することができませんでした。しかし、2010年に「NOVA分類」が発表されると、加工の程度を4つに分けることで超加工食品を分類することが可能になったのです(Monteiro CA, 2010)。
【NOVA分類】
グループ①:未加工または最小限の加工(卵、魚、種子など)
グループ②:加工の成分(植物油、砂糖、バターなど)
グループ③:加工食品(チーズ、魚の缶詰、ナッツなど)
グループ④:超加工食品(アイスクリーム、ポテトチップス、炭酸飲料など)
ハンバーガーやフライドポテト、カップラーメンといった超加工食品の摂取量は、今やアメリカ人のエネルギー摂取量の大半を占め(Martínez Steele E, 2016)、日本人においてもエネルギー摂取量の4割に迫る勢いで増加しています(Koiwai K, 2019)。
超加工食品は一般的に、飽和脂肪やトランス脂肪に加えて、塩分、砂糖が多く、エネルギー密度が高くなります。また、食物繊維やタンパク質が少ないことが特徴とされ、これが肥満の増加に寄与していると推察されてきました(Poti J, 2015)。
NOVA分類が発表され、超加工食品を分類することが可能になると、世界各国で超加工食品と肥満との関連についての大規模調査が盛んに行われはじめます。
ブラジル(Silva FM, 2018)、アメリカ(Juul F, 2018)、カナダ(Nardocci M, 2019)、ヨーロッパ19カ国(Monteiro CA, 2018)などで行われた大規模な調査の結果、すべての国において、超加工食品の摂取量が多いほど肥満度が高くなるというものだったのです。
そして2020年、テヘラン医科大学のAskariらは、これらの研究結果をまとめて解析したメタアナリシスを行いました。
*メタアナリシスとは、これまでに報告された同じテーマの研究結果を集めて、全体としてどのような傾向をがあるのかを解析するエビデンスレベルのもっとも高い研究手法のことです。
Askariらは、アメリカやブラジルなど各国で行われた14の研究報告、約19万人の被験者(10〜64歳)を対象に、超加工食品の摂取と肥満の発症についての関連を解析しました。
その結果、超加工食品の摂取量が多いと、肥満のリスクが「26%高くなる」ことが示されました。
Fig.1:Askari M, 2020より筆者作成
この結果から、過剰な超加工食品の摂取が肥満の高いリスクと関連していることを示唆され、各国で生じている肥満の流行のひとつの要因であると推察されているのです(Askari M, 2020)。
しかし、Askariらのメタアナリシスは、大規模な観察研究をまとめて解析したものであり、関連を示すことはできますが因果関係を示すことはできません。
そこで、超加工食品の代表であるファーストフードの摂取が体重に与える影響についてのランダム化比較試験(RCT)を行ったのがNIDDKのHallらです。
◆ 超加工食品が僕たちを太らせるメカニズム
Hallらは、20名の被験者(31.2±1.6歳、BMI27±1.5kg/m2)を集めて、無作為に超加工食を摂取するグループと未加工食を摂取するグループに分け、2週間摂取させた後にグループを入れ替えて、再度、2週間食品を摂取させる実験を行いました。
食事は超加工食も、非加工食も、重さあたりの成分はほぼ同じように調整されていますが、食べる量は自由であり、被験者に任せられていました。また、両グループとも一定の運動を行うことも課されています。
1週間ごとに、エネルギー摂取量、エネルギー密度(食品1gあたりのエネルギー量)、食事の摂取率(単位時間あたりの摂取量)、ホルモンの分泌量、体重と体組成が計測されました。
その結果、エネルギー摂取量は、未加工食に比べて超加工食を摂取したグループで1日あたり508±106kcal多くなることがわかりました。栄養素では、炭水化物と脂肪の摂取量が増え、タンパク質の摂取量に差はありませんでした。
Fig.2:Hall KD, 2020より筆者作成
超加工食中に消費された食品や飲料のエネルギー密度は、未加工食よりも高くなりました。
食事の摂取率は、超加工食が未加工食よりも高く、超加工食では食べる速度が早くなることが示されました。これは、エネルギー比にすると1分あたりのエネルギー摂取量が50%上昇することを意味します。
Fig.3:Hall KD, 2020より筆者作成
ホルモン分泌は、超加工食では食欲抑制ホルモンであるPYYの分泌量が少なく、空腹ホルモンであるグレリンの分泌量が多くなりました。これは、超加工食は満腹になりにくいことを示唆しており、エネルギー摂取量が多くなる要因になります。
さらに、1週間の超加工食の摂取は体重を0.9kg増加させ、未加工食は0.9kg減少させました。この体重変化は、エネルギー摂取量と高い相関関係(r=0.8)認めました。また体脂肪量も同じように超加工食で0.4kg増加し、未加工食で0.3kg減少しました。
Fig.4:Hall KD, 2020より筆者作成
Hallらは、この結果から超加工食は未加工食よりも食品1gあたりのエネルギー量が高い(エネルギー密度が高い)こと、食べる速度が速く、単位時間あたりの摂取量が多くなる(摂取率が高い)こと、タンパク質の摂取量が低く、満腹感を感じる前に多くの食事を摂取してしまうことから、エネルギー摂取量が多くなり、体重が増加したと推察しています。
超加工食品は、嗜好性を高めるために糖質や脂質を多くすることでエネルギー密度を高くし、食べやすく加工することで食べる速度を速くして摂取率を高めます。これによりエネルギー摂取量を多くして、太らせることが示唆されたのです(Forde CG, 2020)。
ここから、超加工食品が僕たちを太らせる方程式が導かれます。
超加工食品 = 高エネルギー密度 × 高い摂取率 = 太る
◆ 超加工食品はヒトの「食べる仕組み」をハックしている
現代の進化論である進化心理学は「ヒトの心や感情は長い進化の過程でつくられた」といいます。
数百万年前の旧石器時代は、食料事情がきびしく、ヒトは半飢餓の状態におかれていまいた。その環境下で希少な栄養素だったのがエネルギー密度の高い糖や脂質です。ヒトは、厳しい環境を生き抜くために、これらの栄養素を多く含む食物(肉や果物など)をできるだけ多く食べるように進化してきたのです。現代人の僕たちが砂糖や脂質の多い高エネルギー密度の食品が大好きなのは、こうした進化のプログラムがあるからなのです。
旧石器時代の平均的な食物のエネルギー密度は1.75 kcal/g未満であり、多くははるかに低い<0.8 kcal/gでした(Milton K, 2000)。たまに採れる蜂蜜が3.2 kcal/gであり、旧石器時代において蜂蜜が「ご馳走」であったことがわかります。
しかし、現代にあらわれた超加工食品(ファーストフード)のエネルギー密度は約3.2 kcal/gであり、お菓子やスイーツはさらに高くなります。僕たちは旧石器時代にはめったに食べれない蜂蜜と同じかそれ以上の高エネルギー密度の食品を習慣的に食べているのです。
このような高エネルギーな食習慣は、旧石器時代のままの脳には想定外のものでした。近年の研究では、ファストフードのような高エネルギー密度の食品を食べたときに、脳はそのエネルギー密度を感知できずに「過小評価」してしまい、食べ過ぎてしまうとされています(Brunstrom JM, 2018)。
また、旧石器時代では、ヒトの消化器官は他の動物よりも小さかったため、未加工な肉や樹の実は少しづつ口に含み、よく噛まなければ消化できませんでした。しかし、柔らかい熟れた果物は、一度に多くを口に含むことができ、あまり噛まずに飲み込めます。これは、柔らかい食物は消化しやすいからです。つまり、小さい消化機能を十分に働かせるために、食物の「食べやすさ」に応じて、無意識に口に含む量や咀嚼回数を変える仕組みが旧石器時代から備わってきたのです。
冒頭のニンジンを例に挙げましょう。
生のニンジンは硬く食べにくいため、ひとくちで口に含む量が少なくなり、よく噛む(咀嚼回数が増える)ため、食べ終わるまでに時間がかかります。これに対して、茹でたニンジンは、柔らかく食べやすいため、口に含む量が多くなり、咀嚼回数も少なくなるため、早く食べることができます。
食事を加工することによって「食べやすくする」ことは、ひとくちで口に含む量を多くさせ、咀嚼回数を減らします。つまり、多くの量を噛まずに食べれるので、単位時間あたりの摂取量を多くさせる(摂取率を高くする)のです。
超加工食品は、高いエネルギー密度と高い摂取率を合わせもった食品です。その美味しさのうらには、このような旧石器時代につくられたヒトの「食べる仕組み」を上手にハックして、現代人の僕たちに多くのエネルギーを摂取させ、太らせるのです。
このような背景から、さまざまなダイエット方法による効果を検証しているイェール大学のKatzらは、超加工食品についてこう述べています(Katz DL, 2014)。
「ダイエット方法はいくつもあるが、痩せるために共通しているものがひとつだけある」
「それは、超加工食品を避けることだ」
あなたがダイエットしたいのなら、食事内容を大きく変えるより、まずは「超加工食品を食べないこと」からはじめてみるのも良いかもしれませんね。
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シリーズ39:ダイエット後のリバウンドを防ぐ「筋トレの方法論」を知っておこう!
シリーズ40:ダイエットするなら「ゆっくり食べる」べき最新エビデンス
シリーズ41:筋トレによる筋肥大と除脂肪の効果を最大にする「プロテインの摂取パターン」を知っておこう!
◆ 参考文献
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