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ダイエットするなら「やせる炭水化物」を食べよう!その見極めポイントとは?


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 「炭水化物は太る」とされていますが、現代の栄養学はこう述べています。

 

 「炭水化物には、太る炭水化物と、やせる炭水化物がある」

 

 一般的にダイエットするときには、炭水化物を制限しようと言われますが、近年の研究報告では、太る炭水化物を避けて、やせる炭水化物を食べることで体重を減らせる可能性が示唆されているのです。

 

 では、どうやって太る炭水化物と、やせる炭水化物を見極めれば良いのでしょうか?

 

 今回は、やせる炭水化物を見極めるポイントについて、最新の研究報告をご紹介しましょう。ダイエットのトッピクスは「炭水化物を制限しよう」から「やせる炭水化物を食べよう」に変わりつつあるようです。



Table of contents 

 



◆ 健康的な炭水化物 = やせる炭水化物

 

 最近では「糖質オフ」の飲料が発売されていたり、「糖質制限」や「低炭水化物ダイエット」といった本が書店に並んでいるのをよく見かけます。では、糖類、糖質、炭水化物の違いは何なのでしょうか?

 

 糖類は単糖類や二糖類といわれる分子量が小さい糖のことをいい、ブドウ糖グルコース)や果糖(フルクトース)、砂糖(スクロース)が代表的な糖類になります。

 

 糖質は糖類がいくつも連結して大きな分子になった多糖類や糖アルコールのことをいい、でんぷんやオリゴ糖がこれにあたります。

 

 そして炭水化物は、糖質に加えて食物繊維を含んだものの総称になります。

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 炭水化物を制限することは、糖質や糖類を制限することを意味します。糖類の摂取を減らすことは、グルコースによるインスリン分泌やフルクトースの摂取量を減らすことにつながり、体重の減少に寄与します。

ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜糖類編〜

 

 これが「ダイエットするなら炭水化物を制限しよう」といわれる理由です。

 

 しかし、現代の栄養学は、炭水化物には「太る炭水化物」と「やせる炭水化物」があることを示唆しており、近年ではダイエットするなら「やせる炭水化物を摂取しよう」と推奨する知見が報告されるようになりました。

 

 そのきっかけとなったのが、2018年に報告されたスタンフォード大学の研究結果です。

 

 スタンフォード大学のGardnerらは、太りすぎまたは肥満である609人の被験者(平均年齢40±7歳、女性割合57%)を対象として、低炭水化物食グループと低脂質食グループに分けて、12ヶ月後の体重の変化への影響を調査しました。

 

 この研究の特徴は、低炭水化物食も低脂肪食も「いわゆる健康的な食事」が摂取されたことです。両グループともに栄養士が参加して、超加工食品の摂取を避け、未加工または最小限に加工された健康的な食品を、可能な限り自宅で調理するように指導されました。

 

 たとえば、白米や白パン、マフィン、フルーツジュースといった食品は、通常、低脂肪食のメニューになりますが、本研究ではそれらを避けて玄米、大麦、オート麦、豆類、赤身肉(脂肪を除いた)、低脂肪の乳製品、新鮮な果物、マメ科植物などの食品が低脂肪食グループで摂取されました。

 

 低炭水化物グループは、オリーブオイル、サーモン、アボカド、チーズ、野菜、ナッツと種子などの栄養価の高い食品を摂取しました。

 

 さらに興味深いのが、被験者はこれらの食品をエネルギー(カロリー)の摂取量を気にせず、好きなだけ食べることが許可されていることです。

 

 その結果、両グループともに12ヶ月後に有意な体重の減少を認め(低脂肪食グループ:-5.29kg、低炭水化物食グループ:-5.99kg)、両グループの体重減少の程度に有意な差はありませんでした。また、両グループともに体脂肪率、ウエスト周径の有意な減少を示しました。

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Fig.1:Gardner CD, 2018より筆者作成

 

 この結果から、健康的な炭水化物や脂質の摂取は、エネルギー摂取量に関係なく体重の減少に寄与することが示唆されたのです。ここで摂取された健康的な炭水化物は「やせる炭水化物」とも言えることもわかりました。

 

 この報告をきっかけにして、「やせる炭水化物はダイエット寄与する」ということが注目されるようになりました。

 

 では、やせる炭水化物を見極めるポイントは何なのでしょうか?

 

 それが「食物繊維の量」です。



◆ やせる炭水化物は、食物繊維の量が多い炭水化物

 

 炭水化物は糖質に食物繊維を合わせたものです。

 

 炭水化物 = 糖質 + 食物繊維

 

 食物繊維は「消化酵素で消化されない食物成分」と定義される難消化性多糖類(セルロースグルコマンナンペクチンなど)のことを言います。食品では、動物性食品よりも大豆やゴボウ、果物などの植物性食品に多く含まれています。

 

 食物繊維は水に溶けにくい「不溶性食物繊維」と溶けやすい「水溶性食物繊維」とに分けられます。

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 食物繊維の多い炭水化物は噛みごたえがあるため、咀嚼回数が多くなります。これにより単位時間あたりの摂取量を少なくする(摂取率を低下させる)ことで、満腹感が高まります。

 

 これに対して、ポテトチップスやカップラーメンのような超加工食品は単位時間あたりの摂取量が多い(摂取率が高い)ことで満腹感が感じづらく、太る要因とされています。

ダイエットは「超加工食品を食べないこと」からはじめよう!

 

 食物繊維を咀嚼して飲み込むと、消化されずに大腸まで到達し、水分を吸収して容量が増します。これによっても満腹感が高まります。また、容量が増すとともに粘性の高いゲル状になります。ゲル状になると肝臓にあるコレステロールから胆汁酸の変換が促進され、腸管から胆汁酸が分泌されます。これにより体内のコレステロールを減らすことができます。

 

 粘性が高まると、腸管内の糖質や脂質を取り込むことで消化を遅らせ、グルコースの吸収を低下させます。これにより血糖値を低下させることができます。

 

 さらに糞便の滞留を防ぎ、腸内の有害な物質の生成を抑える作用があります。一方で、腸内細菌によって発酵されると短鎖脂肪酸が産生され、腸内環境を酸性に保つことができます。腸内環境が整うとビフィズス菌や乳酸菌などの腸内細菌の増殖が促されます。

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 これらの食物繊維の作用が体重の減少を促進すると推察されています(Slavin JL, 2005)。

 

 実際にエネルギー(カロリー)制限ダイエットのときに食物繊維を多く摂取すると満腹感を高めることが示唆されており(Kushner RF, 2014)、食物繊維の摂取はダイエットの初期において体重の5〜10%の減少に寄与するとされています(Johnston BC, 2014)。

 

 そのため食物繊維を多く含む炭水化物は、ダイエットにおいて「やせる炭水化物」とされているのです。これを証明したのが2020年、セント・マイケルズ病院のJovanovskiらが報告した最新のメタアナリシスです。

 

 Jovanovskらは、食物繊維の摂取が体重やBMI、ウエスト周径に与える影響について調査した62の研究結果、被験者3877名をまとめて解析しました。このメタアナリシスの特徴は、エネルギー(カロリー)制限のない(どれだけ食べても良い)という条件下で食物繊維の摂取による影響を解析したことです。

 

 その結果、自由摂取下でも食物繊維を多く摂取すると、肥満の被験者の平均体重、BMI体脂肪率を減少させることが示されました。

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Fig.2:Jovanovski E, 2020より筆者作成

 

 この結果から、食物繊維を多く摂取することはエネルギー摂取量に関わらず、体重やBMIを減少させることが示唆されたのです。

 

 このような体重の減少効果は、食物繊維の摂取量が1日あたり20g未満では効果がなく、「25g以上の摂取」で効果が見られ、十分な効果を得るためには30g以上の摂取が推奨されています。

 

 つまり、太る炭水化物とやせる炭水化物の見極めるポイントは、含まれている「食物繊維の量」によって決まるのです(Jovanovski E, 2020)。

 

◆ やせる炭水化物は、心臓病や糖尿病の発症リスクを減らす!

 

 食物繊維の多い炭水化物は、体重だけでなくさまざまな病気の死亡率や発症率の減少にも寄与しています。

 

 2019年、オタゴ大学のReynoldsらは、これまでに食物繊維の摂取が体重やさまざまな病気の死亡率や発症率について調査したランダム化比較試験、大規模な観察研究をもとにメタアナリシスを行いました。

 

 解析は58のランダム化比較試験、185の観察研究、1億3500万人のデータをもとに行われました。また、食物繊維の1日あたりの摂取量を0〜25g、25〜30g、30〜35g、>35gに分けて用量反応解析も行われました。

 

 その結果、食物繊維の多くの摂取は、体重を減少させるとともに総コレステロールや血圧(収縮期血圧)、トリグリセリド、空腹時血糖も低下させることがわかりました。

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Fig.3:Reynolds A, 2019より筆者作成

 

 また、食物繊維の摂取は、すべて病気による死亡率、心臓病、脳卒中2型糖尿病、結腸・直腸癌の発症率のリスクとの関連を認め、食物繊維の摂取量を増やすと、これらの病気による死亡率、発症率のリスクを15〜30%減少させることが示されました。

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Fig.4:Reynolds A, 2019より筆者作成

 

 さらに、これらの結果の確実性は、食物繊維で中等度と評価されましたが、グリセミック指数は低または非常に低い評価であり、グリセミック指数よりも食物繊維の摂取量の重要性が示唆されています。

 

 食物繊維の摂取量による用量反応解析では「1日あたり25〜29g」でこれらの効果があり、30g以上ではさらなる効果が期待できるとしています。

 

 これらの結果から、Reynoldsらは食物繊維の摂取量の増加は、体重を減少させるとともに、コレステロールや血圧などを良好にすることで、心臓病や糖尿病などの病気による死亡率、発症率のリスクの低下に寄与すると結論づけています。

 

 ここから、食物繊維を多く含む炭水化物は、やせる炭水化物であるとともに、健康的な炭水化物であることがわかります。



 ダイエットするなら健康的に痩せたいものです。不健康になってしまっては元も子もありません。

 

 現代の栄養学は、ただ炭水化物を制限するのではなく、食物繊維の多い「やせる炭水化物」を選び、健康的にダイエットすることを推奨しているのです。そのためにも、1日あたり「25g以上の食物繊維」を摂取するように、食物繊維を多く含む炭水化物をメニューに取り入れると良いかもしれません。

 

 では、具体的にはどのような炭水化物(食品)を摂取すれば良いのでしょうか?次回、最新の研究報告とともにご紹介していきます。

 

 

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◆ 参考文献

Sievenpiper JL, et al. Low-carbohydrate diets and cardiometabolic health: the importance of carbohydrate quality over quantity. Nutr Rev. 2020 Aug 1;78(Supplement_1):69-77.

Gardner CD, et al. Effect of Low-Fat vs Low-Carbohydrate Diet on 12-Month Weight Loss in Overweight Adults and the Association With Genotype Pattern or Insulin Secretion: The DIETFITS Randomized Clinical Trial.  JAMA. 2018 Feb 20;319(7):667-679.

Slavin JL, et al. Dietary fiber and body weight.  Nutrition. 2005 Mar;21(3):411-8. 

Kushner RF, et al.  Assessment and lifestyle management of patients with obesity: clinical recommendations from systematic reviews.  JAMA. 2014 Sep 3;312(9):943-52. 

Johnston BC, et al.  Comparison of weight loss among named diet programs in overweight and obese adults: a meta-analysis. JAMA. 2014 Sep 3;312(9):923-33.

Jovanovski E, et al.  Can dietary viscous fiber affect body weight independently of an energy-restrictive diet? A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.  Am J Clin Nutr. 2020 Feb 1;111(2):471-485. 

Reynolds A, et al. Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses.  Lancet. 2019 Feb 2;393(10170):434-445.