近年、ダイエットにおいて「タンパク質」の重要性が改めて注目されています。
ダイエットするには食事の量を減らして、エネルギー摂取量を減らすことが効果的です。しかし、食事を減らすことは精神的にも身体的にもストレスになります。
これに対して、現代の栄養学は「食事を減らす」のではなく「食欲を減らそう」という新たなパラダイムを推奨しています。そこで、食欲を減らす栄養素として注目されているのがタンパク質なのです。
また、エネルギー摂取量を減らすと、脂肪だけでなく、筋肉も減ってしまいます。この筋肉量の減少を抑えてくれるのもタンパク質になります。
『ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!』
『筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!』
『筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!』
さらに、タンパク質は、食べるだけでエネルギーを消費してくれます。
今回は、タンパク質を食べるだけエネルギー消費量が増えるという「食事誘発性熱産生」について、最新の研究報告とそのメカニズムをご紹介しましょう。
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◆ 食事誘発性熱産生を高める方法
辛いものを食べると額から汗が止まらないという経験をしたことがありますよね。辛いものでなくても、食事をすると身体が温まることを体感したことがあると思います。
このように食事によって身体が温まることを「食事誘発性熱産生」といいます。
食事はエネルギーを補給するものと思いがちですが、じつは同時にエネルギーを消費しているのです。
1日の総エネルギー消費量は、基礎代謝量(安静時エネルギー消費量)、活動時代謝量(活動時エネルギー消費量)、食事誘発性熱産生の3つに分けられ、食事誘発性熱産生は総エネルギー消費量の10%を占めます。
1日の総エネルギー消費量
・基礎代謝量(安静時エネルギー消費量):60%
・活動時代謝量(活動時エネルギー消費量):30%
・食事誘発性熱産生:10%
たとえば、1日に総エネルギー消費量が2000kcalだとすると、食事誘発性熱産生による消費量はその10%である200kcalになります。これは、おおよそ30分のジョギング(7メッツ)と同じエネルギー消費量になります。
では、ダイエット効果を高めるために、この食事誘発性熱産生を最大化させる方法はあるのでしょうか?
そこで重要になるのが「タンパク質の摂取割合を増やす」ことと「よく噛む」なのです。
◆ タンパク質の摂取割合を増やそう!
三大栄養素のなかで、もっとも食事誘発性熱生産が高いのが「タンパク質」です。
1996年、ローザンヌ大学のTappyらは、同じエネルギー(カロリー)摂取量である食事を用いた研究により、三大栄養素に対する食事誘発性熱生産によるエネルギー消費量を調べた結果、脂質が0〜3%、糖質が5〜10%、タンパク質が20〜30%であることを報告しました(Tappy L, 1996)。
この報告は栄養学界隈に衝撃をもたらしました。
なぜなら、これは1000kcalに換算すると脂質が30kacl、糖質が50〜100kcalであるのに対してタンパク質は200-300kcalであり、タンパク質はエネルギー摂取量の3割を消費できることを意味するからです。
タンパク質はアミノ酸が結合したペプチドが層になる複雑な構造をしています。この複雑な構造によって、タンパク質は他の栄養素よりも消化・吸収するために使用されるエネルギー量が多くなります。これがタンパク質の食事誘発性熱産生が高くなる理由です。
そこで考えられたのが、食事でタンパク質の摂取量を多くすれば食事誘発性熱産生が高まり、1日の総エネルギー消費量を増やすことができるのではないか?ということです。
これを証明したのがマーストリヒト大学のWesterterpらの研究です。
同じエネルギー摂取量(2125kcal /日)である高タンパク質食と低タンパク質食を摂取させたときの1日あたりの総エネルギー消費量を計測した結果、高タンパク質食を摂取したグループは低タンパク質食を摂取したグループよりも食事誘発性熱生産量が約85kcal増加し、エネルギー消費量が高くなり、エネルギーバランスがマイナスになることが示されたのです(Westerterp K, 1999)。
Fig.1:Westerterp K, 1999より筆者作成
さらに、タンパク質の摂取量と食事誘発性熱産生との関係を解析したコペンハーゲン大学によるメタアナリシスの結果では、タンパク質の摂取量が多いほど、食事誘発性熱産生が増加するという関連が示されました(Ravn A, 2013)。
*メタアナリシスとは、これまでに報告された同じテーマの研究結果を集めて、全体としてどのような傾向をがあるのかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究手法。
これらの知見から、食事におけるタンパク質の摂取割合を増やすと、食事誘発性熱生産が増加し、1日の総エネルギー消費量を高められることが示唆されているのです。だからといって、タンパク質の摂取量を増やすことで、食事全体のエネルギー摂取量が増えてしまっては意味がありません。食事全体のエネルギー摂取量はそのままにして「タンパク質の摂取割合を増やす」ようにしましょう。
また、近年では、プロテインによる食事誘発性熱産生の効果も明らかになっており、プロテインの種類によって食事誘発性熱産生がことなることも検証されています。
2019年、ネスレ研究センターのKassisらは、ホエイとカゼインによる食事誘発性熱産生についてランダム化比較試験(RCT)の結果を報告しました。
太り過ぎまたは肥満の被験者を対象に、ホエイ30gと50g、カゼイン30gをランダムに摂取させ、その後の食事誘発性熱産生によるエネルギー消費割合を比較した結果、もっともエネルギー消費割合が高かったのがホエイ50gであり、ついでカゼイン50g、ホエイ30gとなりました。
Fig.2:Kassis A, 2019より筆者作成
この結果から、ホエイはカゼインよりも食事誘発性熱産生が高いことが示唆されました。ホエイプロテインは、食欲を減らすエビデンスも報告されており、さらに食事誘発性熱産生を高めやすいことが示されているのです。
『ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう』
食事誘発性熱産生を高めるには、同じ食事量(エネルギー摂取量)の中でタンパク質の摂取割合を増やすことがポイントになります。また、プロテインでタンパク質を補うのであればホエイを選ぶようにしましょう。
そして、食事誘発性熱産生を高める方法がもうひとつあります。
それは「よく噛む」ということです。
◆ 「よく噛んで食べなさい」には科学的な理由がある
子供のころ、「よく噛んで食べなさい」と言われたことがありますよね。そのときはわからなかったのですが、じつはこの言葉にはダイエット効果を高める科学的根拠があるのです。
ダイエットの敵である体脂肪には2つの種類があります。
それが「太る脂肪」と「やせる脂肪」です。
太る脂肪とは、白色脂肪組織(細胞)のことで、食事を食べすぎて必要以上にエネルギー摂取量が多くなると、エネルギーを貯蔵するために白質脂肪細胞は糖質や脂質を取り込んで肥大化します。
これに対して、やせる脂肪である褐色脂肪組織(細胞)は、頸部(首)や肩、背中の胸部傍脊柱(脊柱の両側)、腎臓の周りにあり、細胞内にエネルギー産生器官であるミトコンドリアが存在しています。
ミトコンドリアの中には脱共役タンパク質1(UCP1)と呼ばれる分子があり、このUCP1によりエネルギーが熱に変換されて消費されます。これが褐色脂肪細胞がエネルギーを消費する、やせる脂肪であるメカニズムです。では、どうしたらUCP1を活性化させてエネルギーを消費させることができるのでしょうか?
その方法が「よく噛む」ことなのです。
UCP1の働きは、自律神経である交感神経が活動すると活性化されます。食事でよく噛むことは、交感神経を刺激します。これにより褐色脂肪細胞のUCP1が活性化し、食事誘発性熱産生が生じるのです。
ここからわかることは、食事はよく噛んでゆっくり食べることが食事誘発性熱産生を高め、逆に、早食いのようにあまり噛まないで食べることは食事誘発性熱産生が高まらないということです。
また、九州大学の研究では、よく噛んでゆっくり食べることは、あまり噛まずに早く食べるよりも内蔵の血流量を増やし、この内臓血流の増加が食事誘発性熱産生を高めてエネルギー消費量を増やすことも報告されています(Hamada Y, 2014)。
Fig.3:Hamada Y, 2014より筆者作成
このように、よく噛んで、ゆっくり食べることは、褐色脂肪細胞による熱産生を高め、内臓の血流量を増加させることによって食事誘発性熱産生を増加させることが示唆されているのです。
これらの知見から、現代の栄養学では、タンパク質の摂取量を増やして、そして、よく噛んで食べることが食事誘発性熱産生を最大化させる可能性を示唆しているのです。
タンパク質を摂取することは、食欲を減らして1日あたりのエネルギー摂取量を減少させる効果だけでなく、食事誘発性熱産生を増加させてエネルギー消費量を高めてくれる効果もあるのです。
ダイエットするならば、タンパク質が豊富な肉や魚、豆類などはよく噛んで、ゆっくり味わいながら食べましょう。またプロテインはカゼインよりもホエイを摂取しましょう。これにより、食事誘発性熱産生が最大限に発揮され、ダイエット効果を高める手助けをしてくれるはずです。
また、ナッツや緑茶も食べたり飲んだりするだけでエネルギー消費量が増えるので、タンパク質と組み合わせみるのも興味深いですね。
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シリーズ11:ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!
シリーズ12:筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】
シリーズ13:筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!
シリーズ14:ダイエットで食欲を抑えたいならタンパク質を摂取しよう!
シリーズ15:タンパク質が食欲を減らすメカニズムを知っておこう!
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シリーズ23:ダイエットするなら「ジュース(砂糖入り飲料)の中毒性」を断ち切ろう!
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シリーズ25:タンパク質は食べるだけでエネルギーを消費できる!〜食事誘発性熱産生を知っておこう
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シリーズ28:タンパク質はダイエットによる骨の減少を抑えてくれる!
シリーズ29:乳製品がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!
シリーズ30:タンパク質がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!
シリーズ31:週末に寝だめをしても睡眠不足による食欲の増加は防げない!
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シリーズ38:ダイエットの成功には「筋肉量」が鍵になる科学的根拠
シリーズ39:ダイエット後のリバウンドを防ぐ「筋トレの方法論」を知っておこう!
シリーズ40:ダイエットするなら「ゆっくり食べる」べき最新エビデンス
シリーズ41:筋トレによる筋肥大と除脂肪の効果を最大にする「プロテインの摂取パターン」を知っておこう!
◆ 参考文献
Tappy L, et al. Thermic effect of food and sympathetic nervous system activity in humans. Reprod Nutr Dev. 1996;36(4):391-7.
Westerterp K, et al. Diet induced thermogenesis measured over 24h in a respiration chamber: effect of diet composition. Int J Obes Relat Metab Disord. 1999 Mar;23(3):287-92.
Ravn A, et al. Thermic effect of a meal and appetite in adults: an individual participant data meta-analysis of meal-test trials. Food Nutr Res. 2013 Dec 23;57.
Kassis A, et al. Effects of protein quantity and type on diet induced thermogenesis in overweight adults: A randomized controlled trial. Clin Nutr. 2019 Aug;38(4):1570-1580.
Hamada Y, et al. The number of chews and meal duration affect diet-induced thermogenesis and splanchnic circulation. Obesity (Silver Spring). 2014 May;22(5):E62-9.