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理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

やせたいところを筋トレしても「部分やせはしない」という残酷な真実


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 書店や動画サイトには「腹筋をしてウエストをスリムにしよう!」、「脚の筋トレをして脚を細くしよう!」といった「やせたいところを筋トレすれば、部分やせする」という書籍や動画があふれています。

 

 これに対して、現代のスポーツ医学はこう警鐘を鳴らしています。

 

 「やせたいところを筋トレしても、部分やせはしない」

 

 局所のトレーニングをすれば、その部分の脂肪量が減少するという理論は「スポットリダクション(Spot reduction)」といわれ、1960年代より研究が行われてきました。

 

 1970年代までは、スポットリダクションの効果を肯定する研究報告が見られていました。しかし1980年以降になると、これまで体脂肪を挟んで測定していたスキンフォールドという測定器から、客観的で正確な計測ができる二重放射X線吸収測定法(DXA)、磁気共鳴画像(MRI)が用いられるようになると、それまでの常識が一変しました。

 

 そして2000年以降になると、腹部、腕、脚といった局所の筋力トレーニングをしても「部分やせはしない」という科学的根拠(エビデンス)がつづけて報告されるようになったのです。

 

 今回は、やせたいところを筋トレしても「部分やせはしない」という残酷な真実を示した近年の研究報告をご紹介しましょう。



Table of contents




◆ 腹筋をしても「お腹はスリムにならない」

 

 1983年、運動科学者のKatchらは、被験者を腹筋を行う腹筋グループと何もしないコントロールグループに分け、腹筋グループには27日間の腹筋トレーニングが課されました。

 

 トレーニングの初回は腹筋を7回10セット行い、そこから徐々に回数やセット数を増やして27日間、継続されました。また、両グループともにトレーニング前後で体重、ウエストサイズの測定、脂肪生検が実施されました。

 

 その結果、トレーニング後における腹筋グループとコントロールグループの体重、ウエストサイズに有意な差はなく、脂肪細胞の有意な減少も認められませんでした(Katch FI, 1983)。

 

 この結果から、腹筋をしても腹部の脂肪は減らないことが示唆されました。

 

 「腹筋をすればお腹がスリムになる」という説は今から約40年前の研究報告によって否定されているのです。

 そして、2011年に報告されたSIUEのVisputeらの研究結果も、Katchらの報告を支持するものでした。

 

 Visputeらは、男女の被験者(18〜40歳)を腹筋トレーニングを行う腹筋グループと行わないコントロールグループにランダムに分けました。腹筋グループは6週間の腹筋トレーニングを行いました。

 

 トレーニングは、7つの腹筋トレーニングを10回2セット行われました。また、両グループは等エネルギー摂取量の食事を摂取しました。トレーニング前後の体脂肪率、腹部脂肪率は二重放射X線吸収測定法(DXA)により評価され、その他に腹部の皮下脂肪量やウエストサイズが計測されました。

 

 その結果、腹筋グループのトレーニング前後の体重、体脂肪率、腹部脂肪率に有意な減少は認めず、腹部皮下脂肪量やウエストサイズにも減少は見られませんでした。またコントロールグループとの間にも有意な差はありませんでした。

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Fig.1:Vispute SS, 2011より筆者作成

 

 Visputeらは、この結果から腹筋機器の広告でよく見かける「ウエストラインが美しくなる」といった謳い文句に騙されないよう注意を呼びかけています(Vispute SS, 2011)。

 

 これらの研究報告から、腹筋トレーニングを行っても腹部の脂肪は減らないことが示唆されているのです。腹筋をいくら頑張っても「お腹はスリムにならない」のです。

 

 では、腕の筋トレで腕は細くなるのでしょうか? 



◆ 腕の筋トレをしても「二の腕は細くならない」

 

 「腕の筋トレをして二の腕を引き締めよう!」というキャッチコピーに対して、コネチカット大学のKostekらはこう述べています。

 

 「腕の筋トレをしても、二の腕は引き締まらない」

 

 Kostekらは、男女の被験者(平均年齢24.1歳)104名を対象に、腕の筋力トレーニングが行われました。

 

 トレーニングは12週間のプログラムで構成され、非利き腕の上腕二頭筋のアームカールや上腕三頭筋のオーバーヘッドエクステンションなど5つのメニューを最大筋力の65〜75%の強度で12回、3セット行われました。利き腕のトレーニングは行われていません。トレーニング前後で磁気共鳴画像(MRI)を用いて腕の皮下脂肪量が計測されました。

 

 その結果、レーニングをした非利き腕およびトレーニングをしていない利き腕の上腕の皮下脂肪量に有意差は認められませんでした。また、この結果に性別の差はありませんでした。

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Fig.2:Kostek MA, 2007より筆者作成

 

 この結果から、Kostekらは、腕の筋トレによって腕の脂肪量を減少させ、腕を細くする効果は期待できないと結論づけています。腕の筋トレを頑張っても「二の腕は細くならない」のです。

 

 では、なぜ腹筋や腕の筋トレをしても脂肪量が減らないのでしょうか?

 

 その理由は、エネルギーを作り出す仕組みにあります。

 

 筋肉を収縮させるためには「エネルギー」が必要になります。エネルギーのもとはアデノシン三リン酸(ATP)ですが、ATPは筋肉にわずかしかないため、筋肉を収縮させ続けるためには、ATPを再合成しなければなりません。

 

 ATPを再合成する仕組みには「クレアチンリン酸系、解糖系、有酸素系」の3つがあり、それぞれの仕組みは運動の強度や持続時間によって用いられます。

 

 筋トレのような運動強度が高く短時間で行う場合では、おもにクレアチンリン酸系と解糖系の仕組みが使われます。クレアチンリン酸系はクレアチンとリン酸に分解するときに発生するエネルギーを使ってATPを再合成します。解糖系は筋肉にある糖(筋グリコーゲン)を分解することによってATPを再合成する仕組みです。

 

 これに対して、有酸素系はジョギングやサイクリングのような低強度から中強度の長時間の運動で用いられ、酸素を利用して脂質や糖質を酸化することによって ATPをつくり出します。

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 このようなエネルギー代謝の仕組みから、筋トレでは脂質が効率的にエネルギー源として使用されることはないのです。

 

 では、脂質を酸化しやすい有酸素系のエネルギー代謝を促すために、低強度で長時間の筋持久力トレーニングをすれば部分やせができるのでしょうか?

 

 この問いの検証を行ったのがラゴス大学のRamírez-Campilloらです。



◆ 脚の筋トレをしても「太ももは細くならない」

 

 Ramírez-Campilloらは、男女の被験者(平均年齢23歳)を対象に、12週間の非利き脚のハムストリングスに対する低強度の筋持久力トレーニングを行いました。

 

 トレーニングは、週3回、レッグカールを最大筋力の30%以下の低強度で疲労困憊になるまで高回数にわたって実施されました。トレーニング期間中のエネルギー摂取量は定量を摂取しました。12週間のトレーニング前後で全身および大腿部の体脂肪量、体脂肪率が二重放射X線吸収測定法(DXA)によって測定されました。

 

 その結果、トレーニング前に比べてトレーニング後では、全身の体脂肪量の減少が認められましたが、非利き脚の体脂肪量および体脂肪率に有意な減少は認められませんでした。また利き脚との有意な差も認められませんでした。しかしながら、上腕部と腹部の体脂肪量には有意な減少が認められました。

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Fig.3:Ramírez-Campillo R, 2013より筆者作成

 

 これらの結果から、低強度で高回数の脚の筋トレを行っても脚の脂肪量は減らないことが示唆されました。興味深いのは、脚の筋トレをしたのにかかわらず、腕や腹部の脂肪量が減少したことです。

 

 当初、脚の筋持久力トレーニングを行えば、有酸素系のエネルギー代謝による脂質の酸化によって太ももの脂肪量が減少することが期待されていました。しかし、結果は太ももの脂肪量は変わらずに、腕や腹部の脂肪量が減少したのです。

 

 この結果に対する要因として、Ramírez-Campilloらはホルモンによる影響を挙げています。

 

 そのホルモンが「アドレナリン」です。

 

 低強度の運動を長時間つづけていくと、腎臓の上にある副腎からアドレナリンが分泌されていきます。アドレナリンの分泌量が増加すると、リパーゼが活性化することによって脂肪から脂肪酸が血液中へ放出され、エネルギー源として消費されます。

 

 副腎から分泌されるアドレナリンは、トレーニングをした部分だけでなく、血管を通じて腕や腹部といった全身に輸送されます。そのため、筋トレにともなう脂肪量の減少は、部分的ではなく、全身性に生じるのです。

 

 また、腹部の脂肪細胞は、大腿の脂肪細胞よりもアドレナリンを受け取るアドレナリン受容体の数が多く、感度が高いことが示唆されており(Bouchard C, 1993)、脚の低強度の筋持久力トレーニングが大腿よりも腹部の脂肪量の減少に寄与したと推察されています。

 

  さらに、脂肪酸ミトコンドリアを通じて酸化されますが、このプロセスは下半身よりも上半身で生じやすいことが指摘されており(Horowitz JF, 2003)、脚のトレーニングによって腕や腹部の脂肪量が減少しやすいことを示唆しています。

 

 これらの知見から、Ramírez-Campilloらはこう結論づけています。

 

 「脚の筋トレを頑張っても、太ももは細くならない」

 

 

 

 やせたいところを筋トレすると、部分やせをするのか?という問いに、現代のスポーツ医学はこれを否定しています。

 

 筋トレは、その運動様式から無酸素性代謝であるクレアチンリン酸系や解糖系によってエネルギーが使用されます。これらは脂肪をエネルギー源としないため、脂肪の減少効果は生じにくくなります。

 

 また、低強度で高回数の筋持久力トレーニングでは、有酸素系のエネルギー代謝によって脂肪の酸化が期待できますが、その脂肪の減少効果はホルモンによって全身性に生じること、また下半身よりも上半身である腕や腹部で生じやすいことから、局所的な筋トレをしても部分やせをすることはできないのです。

 

 もし、あなたがお腹や脚を細くしたいのであれば、まず、やるべきことは筋トレではなく「食事のマネージメント」です。なぜなら、食事管理は運動よりも脂肪の減少効果が高いから。

ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

 

 食事によるエネルギー摂取量が推定エネルギー必要量を超えないように管理しながら、やせる炭水化物や脂質、食物繊維をしっかり摂取することから始めましょう。あわせて、タンパク質をしっかり摂って、食欲を減らすとともに減量による筋肉量の減少を防ぐようにしましょう。もちろんジャンクフードや清涼飲料のような超加工食品や砂糖入り飲料は厳禁です。

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ダイエットで食欲を抑えたいならタンパク質を摂取しよう!

ダイエットは超加工食品を避けることからはじめよう!

 

 そして、食事管理ができたのちに、ジョギングやサイクリング、スイミングなどの有酸素運動を取り入れましょう。有酸素運動を行うことで腕や腹部の皮下脂肪、内臓脂肪を効果的に減らせる可能性があります。長期的に食事管理と有酸素運動を継続することで脚の脂肪も減りやすくなるでしょう。もちろん、筋トレも取り入れてもダイエット効果が高まりますが、このことについては別の機会で考察していきます。

ダイエットでリバウンドを防ぐなら「運動」をするべき科学的根拠

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もっとも脂肪を減らす「有酸素運動の方法論」を知っておこう!

 

 やせたいところを筋トレすると「部分やせする」というのは、簡単に取り組めるため、多くの人が実践しているでしょう。しかし、エネルギー代謝や脂肪の酸化の仕組みを理解すると部分やせの難しさに気づくことができます。

 

 このことから、現代のスポーツ医学は、僕たちに残酷な真実を教えてくれています。

 

 「やせたいことろを筋トレしても、部分やせはしない」

 

 

 

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◆ 参考文献

Katch FI, et al. Effects of sit up exercise training on adipose cell size and adiposity. Res Q 55: 242–247, 1984.

Vispute SS, et al. The effect of abdominal exercise on abdominal fat. J Strength Cond Res. 2011 Sep;25(9):2559-64.

Kostek MA, et al. Subcutaneous fat alterations resulting from an upper-body resistance training program. Med Sci Sports Exerc. 2007 Jul;39(7):1177-85.

Ramírez-Campillo R, et al. Regional fat changes induced by localized muscle endurance resistance training. J Strength Cond Res. 2013 Aug;27(8):2219-24.

Bouchard C, et al. Genetic and nongenetic determinants of regional fat distribution. Endocr Rev. 1993 Feb;14(1):72-93. 

Horowitz JF, et al. Fatty acid mobilization from adipose tissue during exercise. Trends Endocrinol Metab. 2003 Oct;14(8):386-92.