筋トレするなら、ぜひ知っておきたいのが「オメガ3のもつ効果とその摂取タイミング」です。
筋トレで重要な栄養素といえばタンパク質です。筋トレの効果を最大化するためのタンパク質の摂取量や摂取タイミングなどの方法論はすでに明らかにされています。
そして、現代のスポーツ栄養学のトピックスはタンパク質から他の栄養素に移りつつあります。その中で近年、注目されているのが脂質のひとつである「n-3系多価飽和脂肪酸」であり、いわゆる「オメガ3」です。
オメガ3の摂取は心臓の機能や高血圧の改善、うつ病や認知機能の改善に効果があることが報告されており健康に良い脂質とされています(Jiao J, 2014)。さらに、オメガ3の摂取は、脂肪分解を促し、レプチン濃度を減少させることでダイエット効果を高めることが報告されており、オメガ3は「健康的でやせやすい脂質」であるとされています。
そして、最近になって筋トレにおけるオメガ3の利点がシステマティックレビューで報告されるようになったのです。
*システマティックレビューとは、これまでの研究結果をまとめて解析し、全体としてどのような傾向があるかを示すエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。
今回は、筋トレするなら知っておきたいオメガ3の効果と摂取タイミングについて考察していきましょう。
Table of contents
◆ オメガ3について知っておこう!
私たちが摂取している脂質は、構成している脂肪酸の違いによって主に「飽和脂肪酸」と「非飽和脂肪酸」に分けられます。
また、不飽和脂肪酸は炭素と結合する数によって「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分けられます。
さらに、多価不飽和脂肪酸はn-3系とn-6系に分けられ、n-3系多価不飽和脂肪酸が「オメガ3」、n-6系多価不飽和脂肪酸が「オメガ6」と呼ばれています。
なぜ、このように呼ばれるのかというと、炭素の配列の最後がメチル基であり、ギリシャ文字の最後を意味する「ω(オメガ)」を用いて、メチル基から数えて二重結合が3個目にあるn-3系多価不飽和脂肪酸を「オメガ3」、6個目にあるn-6系多価不飽和脂肪酸を「オメガ6」と呼んでいます。
オメガ3の代表的なものには、αリノレン酸やEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)があります。αリノレン酸はえごま油や亜麻仁油に多く含まれています。EPAやDHAは魚の油に多く含まれています。
オメガ3は体内で合成することができず、食事で補給するしかない「必須脂肪酸」です。
このようなオメガ3の摂取による運動への効果では、運動後の疲労回復や持久力の向上、免疫機能の維持などが報告されています(Żebrowska A, 2015)。そして、近年では筋トレへの効果についての研究報告も増えており、これらをまとめて解析した最新のシステマティックレビューが報告されたのです。
◆ オメガ3は筋肉量の減少を抑えてくれる
オメガ3による筋トレ後の筋肥大の効果に与える影響についてのシステマティックレビューを報告したのがポリテクニカ・デ・マドリード大学のLópez-Seoaneらです。
2021年、López-Seoaneらは461人を対象とした15件の研究報告をもとに、オメガ3の摂取が筋トレによる筋肥大の効果に与える影響について解析しました。
その結果、オメガ3の摂取は「筋トレによる筋タンパク質の合成や筋肥大を高める効果は期待できない」ことが示唆されました。
解析の対象になった研究報告の数が少ないこともありますが、現時点では、オメガ3の摂取は筋トレ後の筋肥大の効果に寄与しないというエビデンスが示されたのです。
この結果を得たLópez-Seoaneらは、オメガ3の摂取による別の効果についても解析を行いました。
それが「オメガ3が筋肉量の減少を抑える効果」です。
2022年、López-Seoaneらは、192人を対象とした7件の研究報告をもとに、オメガ3の摂取による筋肉量の減少に与える影響について解析しました。
その結果、オメガ3の摂取は「筋肉量の減少を抑える効果が期待できる」ことが示唆されました。
この解析も対象となる研究報告が少ないこともありますが、現時点では、オメガ3の摂取が筋肉量の減少を抑える効果があるというエビデンスが示されたのです。
これらの結果から、López-Seoaneらはこのようにまとめています。
「オメガ3の摂取は、筋トレによる筋肥大の効果は高めないが、筋トレをせずに活動量が低いときの筋肉量の減少を抑える効果が期待できる」
では、なぜオメガ3にはこのような効果があるのでしょうか?
◆ オメガ3が筋肉量の減少を防ぐメカニズム
筋肉のもととなる筋タンパク質はいつも合成と分解を繰り返しています。私たちの筋肉量が保たれているのは、筋タンパク質が合成される量と分解される量が釣り合っているからです。
筋トレをすると筋タンパク質の合成量が増加し、分解量を上回ることによって筋肥大が生じます。ではなぜ、筋トレをすると筋タンパク質の合成量が増えるのでしょうか?
バーベルを持ち上げると筋収縮が生じるとともに、インスリン様成長因子(IGF-1)などのホルモンが分泌されます。これらが刺激となってAKTというタンパク質を活性化させ、筋タンパク質を合成させるスイッチの役割を担っているmTORを活性化させます。mTORは筋タンパク質の合成を高めるp70s6kを活性化させ、筋タンパク質の合成量を増やします。
このように、筋トレによる筋肥大にはAKTーmTORーp70s6kの活性化が重要になるのです。
これに対して、筋肉量の減少は、筋タンパク質の合成量が分解量を下回ると生じます。そして、筋タンパク質の分解量の増加に関与しているのが、ユビキチン-プロテアソームの活性化です。
オメガ3の摂取は、インスリン抵抗性の改善などにより、筋肥大を促進させるAKTーmTORーp70s6kを活性化させますが、筋肥大の効果を高めるほどの活性化は生じないというのが現時点での見解とされています。
また、オメガ3の摂取はコルチゾールの分泌を減らし、筋肉量の減少に影響するユビキチン-プロテアソームの活性化を抑えることが示唆されています(López-Seoane J, 2022)。
Fig.1:López-Seoane J, 2022より筆者作成
これらの知見から、オメガ3の摂取は筋トレによる筋肥大を高めるほどの効果はありませんが、筋トレを行っていないときの筋肉量の減少を抑える効果が期待できると推察されているのです。
◆ オメガ3の最適な摂取タイミング
オメガ3のもつもうひとつの効果が「筋肉痛を軽減させる効果」です。
最新のシステマティックレビューの結果では、オメガ3のもつ抗炎症作用によって、筋トレ後の炎症を抑え、筋肉痛を軽減させ、関節の可動域や筋力の回復に寄与することが報告されています。
オメガ3には「筋肉量の減少を抑える効果」とともに「筋肉痛を軽減させる効果」があることが示唆されているのです。
このようなオメガ3の効果を考慮すると、どのようなときにオメガ3を摂取すると良いのかが理解できます。
筋トレによる筋肉痛は、筋トレ後の24〜48時間以降に生じやすいとされています。次のトレーニングに向けてコンディションを整えるためには、早期に筋肉痛を改善させ、関節の可動域や筋力を回復させることが重要になります。
そこで摂取したいのがオメガ3です。
いつもよりも筋肉痛が強かったり、筋肉痛によって長い期間、トレーニングができないときこそがオメガ3を意識して摂取する最適なタイミングになります。
オメガ3のもつ筋肉痛を軽減させる効果と、長期間、トレーニングができないときの筋肉量の減少を抑える効果が、コンディショニングを助けてくれる可能性があるのです。
さらにオメガ3の摂取が有効なのが減量のときです。
減量のためにエネルギー摂取量を制限すると脂肪量だけでなく、筋肉量も減ってしまいます。オメガ3には筋肉量の減少を防ぐ効果があるので、エネルギー制限による不必要な筋肉量の減少を回避できる可能性があるのです。
『ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!』
オメガ3を多く含む食品には、えごま油や亜麻仁油などがありますが、オススメなのはやはり魚です。とくにマグロやサーモンはEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)が多いだけでなく、タンパク質やビタミンDも豊富なのでトレーニーに最適な食品といえるでしょう。
Fig.2:López-Seoane J, 2021より筆者作成
トレーニングのコンディショニングの時期や、減量をしている時期などは、オメガ3の最適な摂取タイミングになります。筋トレといえばタンパク質ですが、タンパク質とともにオメガ3も上手に摂取してコンディショニングや身体づくりに役立てていきましょう。
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◆ 筋トレの科学シリーズ
シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう
シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう
シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう
シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう
シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう
シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論
シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう
シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論
シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう
シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう
シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう
シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう
シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう
シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ
シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう
シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?
シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実
シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある
シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)
シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス
シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論
シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?
シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由
シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう
シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)
シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス
シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方
シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに
シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう
シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで
シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより
シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに
シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう
シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実
シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え
シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)
シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう
シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?
シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?
シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン
シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実
シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに
シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう
シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らかに
シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう
シリーズ㊽:コーヒーが筋トレのパフォーマンスを高める〜その科学的根拠を知っておこう
シリーズ㊾:睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう
シリーズ㊿:イメージトレーニングが筋トレの効果を高める〜その科学的根拠を知っておこう
シリーズ51:筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう
シリーズ52:筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ53:筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っていこう
シリーズ54:ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?
シリーズ55:筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう
シリーズ56:筋トレを続ける技術〜意志力をマネジメントしよう
シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由
シリーズ58:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題
シリーズ59:筋トレの効果を最大にする食品やプロテインの選ぶポイントを知っておこう
シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう
シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)
シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?
シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ
シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう
シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?
シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう
シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス
シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう
シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)
シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?
シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス
シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる
シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)
シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版)
シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス
シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう
シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス
シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう
シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう
シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス
シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法
シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス
シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス
シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス
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シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ
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シリーズ137:筋トレで減量が辛いときには「ダイエットブレイク」を取り入れてみよう!
シリーズ138:筋トレ前の炭水化物(糖質)の摂取は必要ない?【2022年版】
シリーズ139:筋トレするなら知っておきたいオメガ3の効果と摂取タイミング
◆ 参考文献
Jiao J, et al. Effect of n-3 PUFA supplementation on cognitive function throughout the life span from infancy to old age: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Clin Nutr. 2014 Dec;100(6):1422-36.
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López-Seoane J, et al. N-3 PUFA as an ergogenic supplement modulating muscle hypertrophy and strength: a systematic review. Crit Rev Food Sci Nutr. 2021 Jun 15;1-21.
López-Seoane J, et al. Muscle hypertrophy induced by N-3 PUFA supplementation in absence of exercise: a systematic review of randomized controlled trials. Crit Rev Food Sci Nutr. 2022 Feb 3;1-11.
Noreen EE, et al. Effects of supplemental fish oil on resting metabolic rate, body composition, and salivary cortisol in healthy adults. J Int Soc Sports Nutr. 2010 Oct 8;7:31.