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チキンレッグのメカニズム:筋トレしない筋肉は萎縮しやすい!?【論文紹介】


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 「筋トレした筋肉は筋肥大するが、トレーニングしていない筋肉の筋肉量はどうなっているのだろうか?」

 

 「例えば、腕や腹部を筋トレをしたときに、脚の筋肉量は変化しているのだろうか?」

 

 これまでの筋トレの研究では、トレーニングした筋肉の筋肉量の変化を調べたものは多くありましたが、トレーニングしていない筋肉の筋肉量がどのように変化するかに着目した研究はほとんどありませんでした。

 

 2024年、ゲント大学のVan Vosselらが世界で初めてこの疑問に挑み、その答えとなる知見を報告しました。今回はVan Vosselらの研究結果をご紹介しましょう。

 

 

table of contents

 

 

◆ 使用した筋肉は肥大し、使用しない筋肉は萎縮する

 

 Van Vosselらは、筋トレ経験のない被験者に10週間のトレーニングを行いました。トレーニングの対象とした筋肉は腕の上腕二頭筋上腕三頭筋、脚の大腿四頭筋ハムストリングスで、以下の単関節トレーニング(アイソレーション)を実施しました。

 

上腕二頭筋:アームカール

上腕三頭筋:肘の伸展トレーニン

大腿四頭筋::レッグエクステンション

ハムストリングス:レッグカール

 

 10週間のトレーニング前後で、トレーニングで使用した筋肉とともにトレーニングで使用しない筋肉を含めて30の筋肉の筋肉量をMRIを用いて計測しました。

 

 また、被験者にはトレーニングの期間中、エネルギー摂取量やタンパク質、炭水化物、脂質を自由に摂取させ、通常の食事パターンを維持するよう求めました。食事パターンはアンケートによって評価しました。

 

 その結果、興味深い結果が得られたのです。

 

 まず、トレーニングで使用された上腕二頭筋上腕三頭筋大腿四頭筋ハムストリングスの筋肉量は有意に増加しました。また、トレーニングで付随的に収縮する筋肉(大腿筋膜張筋など)の筋肉量も増加しました。

 

 これに対して、全く使用されなかった太ももの大内転筋やふくらはぎのヒラメ筋の筋肉量は有意に減少しました。

 

Fig.1:Van Vossel K, 2024より筆者作成

 

 さらに、使用されなかった筋肉の筋肉量の減少は、エネルギー摂取量やタンパク質の摂取量が少ない被験者で多く生じる傾向がありました。

 

 これらの結果から、トレーニングで使用された筋肉は肥大するが、使用されていない筋肉は萎縮する可能性があり、特に減量などでエネルギーやタンパク質の摂取量を制限している場合にはこの作用が大きくなることが示唆されたのです。

 

 では、なぜ使用しなかった筋肉は萎縮してしまうのでしょうか?

 

 

◆ 太ももの内転筋とふくらはぎのヒラメ筋は萎縮しやすい

 

 食事から十分なエネルギーやタンパク質の摂取量が得られない場合、摂取された栄養素は主に血流によってトレーニングで使用された筋肉に優先的に供給される可能性があります。

 

 筋トレで使用された筋肉ではアミノ酸トランスポーターのmRNAの発現が増加し、血流も増加することでアミノ酸の取り込み能が高まりますが、使用されない筋肉ではこのような増加が生じないことが示唆されています(Steenberg DE, 2020)。

 

 そのため、使用した筋肉では筋肉のもととなる筋タンパク質の合成が高まりますが、使用されない筋肉ではエネルギーとアミノ酸の不足によって筋タンパク質の分解が促進される可能性があるのです。

 

 では、なぜ太ももの大内転筋とふくらはぎのヒラメ筋に有意な筋萎縮が生じたのでしょうか?

 

 その理由をVan Vosselらは筋肉の大きさによると推察しています。

 

 大内転筋は大腿部で筋断面積が大きく、またヒラメ筋も下腿部でもっとも筋断面積が大きい筋肉であることが報告されています(Voronov AV, 2003、Takizawa M, 2014)。大きい筋肉は不十分な栄養状態の影響を受けやすく、そのため筋萎縮が生じやすいと推察しています。

 

 また、遅筋線維は速筋線維よりも萎縮しやすい性質があり、ヒラメ筋は典型的な遅筋であり、大内転筋も遅筋が多いことから(Gao Y, 2018、Johnson MA, 1973)、筋萎縮が生じやすい理由として挙げています。

 

 これらの理由から、トレーニングで使用されない大内転筋やヒラメ筋は筋萎縮しやすく、とくにエネルギーやタンパク質の摂取量が不十分な場合にその作用が大きくなると推測されているのです。

 

 

 Van Vosselらの研究報告により、トレーニングした筋肉は肥大するが、同時にトレーニングしていない太ももの内転筋やふくらはぎのヒラメ筋は萎縮しやすい可能性が明らかになりました。とくに減量中などでエネルギー摂取量を制限している場合は、この作用が大きくなることも示唆されました。

 

 このような筋肉の性質はよく言われるチキンレッグを形作るメカニズムなのかもしれません。

 

 格好良い上半身をつくるために、腕や腹部の筋トレばかり行うと、太もも(内転筋)やふくらはぎ(ヒラメ筋)の大きな筋肉が萎縮しやすくなる可能性があります。このことに注意して、スクワットなどの全身性トレーニングもメニューに加えることがチキンレッグを防ぐひとつの方法になるのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

◆ 参考文献

Van Vossel K, et al. Evidence for Simultaneous Muscle Atrophy and Hypertrophy in Response to Resistance Training in Humans. Med Sci Sports Exerc. 2024 May 1. 

Steenberg DE, et al. A Single Bout of One-Legged Exercise to Local Exhaustion Decreases Insulin Action in Nonexercised Muscle Leading to Decreased Whole-Body Insulin Action. Diabetes. 2020 Apr;69(4):578-590. 

Voronov AV, et al. Anatomical cross-sectional areas and volumes of the muscles of the lower extremeties. Hum Phys. 2003;29(2):201–11.

Takizawa M, et al. Why adductor magnus muscle is large: the function based on muscle morphology in cadavers. Scand J Med Sci Sports. 2014 Feb;24(1):197-203.

Gao Y, et al. Muscle Atrophy Induced by Mechanical Unloading: Mechanisms and Potential Countermeasures. Front Physiol. 2018 Mar 20:9:235.

Johnson MA, et al. Data on the distribution of fibre types in thirty-six human muscles. An autopsy study. J Neurol Sci. 1973 Jan;18(1):111-29.