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リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

ストレッチのメカニズム その1

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 だいぶ夜も冷えて、秋の到来を予感させますね。季節の変わり目なので体調を崩さないように気をつけていきましょう。

 さて、ストレッチのメカニズムについて考察してみます。ストレッチのメカニズムを知ることで、以下の疑問について理解できると思います。

・なぜ、ストレッチにある程度の時間をかけなければいけないのか?

・なぜ、適度な強さでじっくり伸ばさなければいけないのか?

・なぜ、ストレッチで瞬発的な運動パフォーマンスが低下するのか?

・なぜ、即時的な効果は、ある程度の時間でもとに戻ってしまうのか?

  それでは、今回は、ストレッチのメカニズムでも代表的な「粘弾性」について学んでいきましょう。

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 ストレッチングによって身体が柔らかくなることはことは明らかです。この身体が柔らかくなるメカニズムとして代表的なのが「粘弾性の変化」になります。粘弾性とは、弾性と粘性を合わせ持つ性質のことを言います。では、弾性と粘性とは何なのでしょうか?

 

 弾性とは、身体の組織に引っ張る力が加わると、もとに戻ろうとする性質のことを言います。これは、バネをイメージするとわかりやすいです。バネを引っ張ると、直線的に抵抗が増加するという「フックの法則」に従いますが、この抵抗が弾性なのです。

 これに対して、粘性とは、固い粘土をイメージしてみましょう。固い粘土は、グイッと急激に引張っても伸びません。ジワジワと時間をかけて伸ばしていくとゆっくり伸びていく感じです。このように粘性には時間依存性があり、一定の張力をかけていると、時間の経過とともに伸張される性質のことを言います。

 

 この弾性(バネ)と粘性(固い粘土)の性質を合わせた粘弾性を有しているのが身体の組織であり、筋肉になるのです。

 

 それでは粘弾性のしくみについて確認しましょう。粘弾性のしくみは、Maxwellの粘弾性モデルをみると理解しやすいです。

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  弾性を示したバネと粘性を示した固い粘土が入った筒が直列に連結されています(①)。これを上に引っ張ってみると、まず、バネがグイッと伸びます(②)。そのまま同じ張力で引っ張り続けると粘土がゆっくり伸びていき、バネは徐々に元の長さに戻っていきます(③)。それに伴い、引っ張っていた張力は低下し、最終的にはゼロになります(④)。これによって張力を加えなくてもバネと粘土の長さは伸びた状態のままになるのです。これがMaxwellの粘弾性モデルであり、筋のストレッチングのメカニズムとして提唱されています(Liesegang TJ, 1990)。

 

 これを筋肉で考えてみると、ストレッチにより張力が加わると、まず筋肉の弾性が高まります(バネが引っ張られた状態)。そのままストレッチした状態で時間をかけているうちに今度は、粘性が低下します(粘土が徐々に形を変えていく)。この過程を経て、筋肉の柔軟性が高まるのです。これが、ストレッチの即時的効果のメカニズムになります。

 

 Maxwellのモデルから示唆されることは、粘弾性を有する筋肉を伸ばす場合、急激に伸ばしても弾性であるバネを伸ばすだけであり、粘性を変化させることはできません。もちろん、急激なストレッチは痛みを誘発する可能性があり逆効果になります。粘性を変化させるには、一定の強度で時間をかけて、粘土を伸ばすように筋肉の柔軟性を高めることが必須なのです。よって、ストレッチを行う場合は、筋の粘性による時間依存性を考慮し、ある程度の痛みの強度で時間をかけて行う必要があるのです。

 効果的に筋肉を伸ばすポイントは、①ゆっくりストレッチを行うことで徐々に筋肉を引っ張ること、②一定の時間をかけてストレッチすること、が重要になります。その効果的な時間については以前のエントリをご参照下さい。

効率的で効果的なストレッチの時間と回数

 

 また、運動前のストレッチは瞬発的なパフォーマンス(ジャンプやパワー)を低下させることが明らかになっています。

ストレッチはパフォーマンスを低下させる(前編)

 その要因は明らかになっていませんが、筋の粘弾性の低下が主な要因として推測されています。筋の粘弾性が減少することによる筋収縮力の低下が研究(受動的トルクや筋音図法)により定量化され、粘弾性の低下と筋力の低下が同時におこることが確認されています(Weir DE, 2005、Marek SM, 2005)。

 

 さらに、ストレッチの即時的効果として、ハムストリングスは5分のストレッチで2時間後にはもとの柔軟性に戻ります。

ストレッチの効果はどのくらい持続するのか?~即時効果編~ 』

 もとの柔軟性に戻ってしまう要因は、筋の粘弾性による復元力であり、Mizunoらは、下腿三頭筋のストレッチを5分行うと、粘弾性は10分でもとに戻ることを明らかにしています(Mizuno T, 2013)。よって、ストレッチの即時的効果が短時間で消失してしまう主な要因は、筋の粘弾性の復元によるものなのです。

 

 

 ストレッチのメカニズムとして筋の粘弾性について考察してみました。粘弾性の特性を理解していると、ストレッチの方法や効果について理解が深まると思います。次回は、ストレッチのメカニズムとして近年、注目されているストレッチ・トレランス(stretch tolerance)について考察していきましょう。

 

 

ストレッチの科学シリーズ

ストレッチの科学①:ストレッチはパフォーマンスを低下させる(前編)

ストレッチの科学②:ストレッチでパフォーマンスを低下させない方法 

ストレッチの科学③:効率的で効果的なストレッチの時間と回数 

ストレッチの科学④:ストレッチは毎日やらなくてもいいんです

ストレッチの科学⑤:ストレッチはいつするのが効果的か? 

ストレッチの科学⑥:ストレッチは高齢者の歩行能力を高める

ストレッチの科学⑦:ストレッチの効果はどのくらい持続するのか?~即時効果編~ 

ストレッチの科学⑧:ストレッチの効果はどのくらい持続するのか?〜習慣的な効果〜

ストレッチの科学⑨:ストレッチのメカニズム その1

ストレッチの科学⑩:ストレッチのメカニズム その2

ストレッチの科学⑪:ストレッチにダイエットの効果はありません  

ストレッチの科学⑫:ストレッチのウソ?ホント? 〜まとめ〜

 

 

Reference

Liesegang TJ. (1990) Viscoelastic substances in ophthalmology. Surv Ophthalmol. 1990 Jan-Feb;34(4):268-93.

Weir DE, et al. (2005) Acute passive stretching alters the mechanical properties of human plantar flexors and the optimal angle for maximal voluntary contraction. Eur. J. Appl. Physiol, 93, 614-623.

Marek SM, et al. (2005) Acute Effects of static and proprioceptive neuromuscular facilitation stretching on muscle strength and power output. J. Athl. Train. 40, 94-103.

Mizuno T, et al. (2013) Decrements in stiffness are restored within 10 min. Int J Sports Med. 34, 484-90.

 

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