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リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

変形性膝関節症に良い靴選び

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 近年の生体力学研究の発展により、変形性膝関節症の治療戦略に新たなパラダイム・シフトが起きています。そして、現在では、変形性膝関節症を予防するための靴選びにおいても明確な答えを示すことができるのです。

 

 今回は、多くの女性が履いているハイヒールが変形性膝関節症にどのように影響するのか?というテーマについて考えてみます。

 

 生体力学研究では、この問いの答えをたったひとことで述べています。

 

「ハイヒールを履くことは、変形性膝関節症を悪化させる大きな原因となる」

 

 それでは、最近の研究報告を通して詳しく考察してみましょう。

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◆ なぜ、変形性膝関節症は女性に多いのか?

 

 変形性膝関節症(膝OA)は一般的に男性より女性に多い疾患とされている。しかし、裸足で歩いた際に生じる膝関節のメカニカルストレス(力学的負荷)を生体力学的に検証した結果では、男女の性差による負荷の違いは認められなかった。

 Kerriganらは、健常な男女を対象に、裸足歩行時の膝内反トルクを測定した。その結果、トルクのピークや期間に男女の有意な差は認められないことを明らかにしている(Kerrigan DC, 2000)。

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✻Fig.1:Kerrigan DC, 2000より引用改変

 

 裸足歩行では膝関節のメカニカル負荷に性差は認められない。それでは、なぜ男女における膝OAの発症率の差が生じるのか?Kerriganらはその要因が使用する靴にあるとして、特に女性が好んで使用するハイヒールが膝OAの発症に大きく寄与しているのではないかと推測している。



◆ ハイヒールによって生じる膝のメカニカルストレス

 

 膝OAのメカニカルストレスとして注目されているアウトカムが膝内転モーメントである。膝内転モーメントは、膝関節内側部のメカニカルストレスを反映しており、膝内転モーメントの増加が膝OAの発症、増悪に寄与している。

変形性膝関節症を予防する基本戦略

 

 米国アイオワ州立大学のBarkemaらは、歩行時の膝内転モーメントに対するハイヒールの影響について体系的に研究した結果を報告している(Barkema DD, 2012)。彼女らは、健常女性を対象にして、3種類の高さの異なるハイヒール(1cm、5cm、9cm)を履いて歩行した際の膝内転モーメントを計測した。

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 その結果、ヒールの高さに応じて膝内転モーメントが増加することを明らかにした。

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✻Fig.2:Barkema DD, 2012より引用改変 

 

 さらに、ハイヒールが膝内転モーメントを増大させる原因についても明らかにしている。

 通常歩行では、足関節にかかる前額面上のモーメントは、立脚初期から後期までは外反方向へ、終盤になって内反方向へ作用する。このモーメントに拮抗するように足部の筋が作用し、立脚期に足底に生じる足圧中心(COP)の移動(踵から小趾側を通り母趾へ向かう)を制御している。

 

 しかし、ハイヒールを履くことにより、足関節に生じるモーメントが全く反対になってしまうのである。ハイヒールを履いた歩行では、立脚初期から内反モーメントが継続して生じる。このモーメントの偏位はヒールの高さに応じて増加する。

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✻Fig.3:Barkema DD, 2012より引用改変 

 

 この立脚初期から生じる足関節内反モーメントの増加は何を意味するのであろうか?

 これはインソールの外側ウエッジの作用を考えるとわかりやすい。外側ウエッジは立脚初期に足関節を外反させることによって、下腿を内旋させ、膝関節を外反させるように誘導する。この作用により膝内転モーメントが減少するため、外側ウエッジは膝OAに有効なのである。

 しかし、ハイヒールでは、外側ウエッジと反対の作用が生じる。立脚初期の足関節内反モーメントは、下腿を外旋させ、膝関節の内転を強めるように作用する。このような運動連鎖によって、ハイヒールを履いた歩行では膝内転モーメントが増加するのである。

  

 ハイヒールを履くことは、足関節の内反モーメントを強めることによって、膝内転モーメントを増加させる。膝内転モーメントは膝内側のメカニカルストレスを反映しているので、ハイヒールは膝OAを悪化させる原因になると言えるのである。

  

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 このように、ハイヒールは変形性膝関節症の発症、悪化の原因になることが明らかになっているのです。 ハイヒールは現在、70%の女性が使用した経験があり、40%の女性が日常的に使用しているとも報告されています(Yoon JY, 2009)。このような現状を踏まえると、膝OAが女性に多い要因がハイヒールの使用にあるというKerriganらの推測もあながち間違えではないのかもしれません。

 

 ヒトは400万年前から裸足で歩いてきました。ハイヒールは400年前から履き始めたことが示されています(Linder M, 1998)。これを24時間で換算すると、ハイヒールを履き始めてから、わずか8.6秒しか経過していません。私たちはまだまだハイヒールを履いて歩くことに適応していないのです。

 

 変形性膝関節症の予防や悪化を防ぐためには、ハイヒールやヒールの高い靴の継続した使用は控えたほうが良いでしょう。それでは、変形性膝関節症を予防するためにはどのような靴を選ぶと良いのでしょうか?

 この問いについても生体力学研究は答えを示してくれています。次回、その答えを見ていきましょう。

 

 

変形性膝関節症の保存療法シリーズ

保存療法①:変形性膝関節症を予防する基本戦略

保存療法②:変形性膝関節症の予防① 股関節外転筋トレーニングの有効性について 

保存療法③:変形性膝関節症の予防② 膝OAで股関節外転筋力が低下する理由 

保存療法④:変形性膝関節症の予防③ 股関節外転勤トレーニングをしよう 

保存療法⑤:変形性膝関節症の予防④ 膝の屈曲拘縮を予防しよう!

保存療法⑥:変形性膝関節症に良い靴選び

保存療法⑦:変形性膝関節症に良い靴選び②

保存療法⑧:変形性膝関節症に良い靴選び③

保存療法⑨:変形性膝関節症に良い靴選び④

 

関連記事:ハイヒールを履くとねこ背になる?

 

 

Reference

Kerrigan DC, et al. Knee joint torques: a comparison between women and men during barefoot walking. Arch Phys Med Rehabil. 2000 Sep;81(9):1162-5.

Barkema DD, et al. Heel height affects lower extremity frontal plane joint moments during walking. Gait Posture. 2012 Mar;35(3):483-8.

Yoon JY, et al. Differences in activities of the lower extremity muscles with and without heel contact during stair ascent by young women wearing high-heeled shoes.J Orthop Sci. 2009 Jul;14(4):418-22.

Linder M, et al. A history of medical scientists on high heels. Int J Health Serv. 1998;28(2):201-25.

 

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