リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による「研究と臨床をつなげるための記録」

脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

スポンサーリンク

 

 1月13日、生理学研究所名古屋市立大学の研究チームによりリハビリによる脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見がThe Journal of Neuroscienceに掲載されました。このニュースはネットメディアでも取り上げていましたね。

脳出血まひ、回復の「道」判明 リハビリ積むと代替神経(朝日新聞デジタル)

 

 今回は、この新たな知見を研究の文脈とともにキャッチアップして、知識をブラッシュアップしましょう。

f:id:takumasa39:20160121114515g:plain

by Journal of Neuroscience (13 January 2016)

 脳卒中後のリハビリテーションによる運動機能の回復は脳の可塑性にもとづくとされています。脳の可塑性には主に構造的変化と機能的変化があます。構造的変化とは、損傷した神経に代わる新たな神経回路の形成を言い、機能的変化とは、シナプス伝達効率の変化を言います。

 

 今回の報告では、中脳にある赤核の新たな構造的可塑性について注目しています。

 

 

◆ 運動機能の回復に重要な「赤核

 

 脳卒中後の回復メカニズムの研究は、動物研究の成果をベースに臨床研究が行われ、また臨床研究の成果を動物研究に落とし込むというtranslational neurosicence(翻訳神経科学)にもとづいて発展しています。現在のニューロリハビリテーションNudoらのラットの研究成果(Nudo RJ, 1996)に立脚していることからもわかるように、脳卒中後のリハビリも翻訳神経科学にもとづいているのです。

 

 動物研究では、脳卒中により錐体路が損傷されると、その役割を赤核脊髄路や網様体脊髄路を含む錐体外路が運動機能の回復に寄与することが示されています(Lemon RN, 2008)。

 

 そしてこれらの動物研究のもと、近年、臨床研究でも「赤核」が脳卒中後の運動機能の回復に重要な役割を示していることが確認されました。

 

 2013年、理化学研究所と国立循環器病研究センターは、運動機能の回復に赤核が関与することを拡散テンソル画像で実証しました。Takenobuらは、錐体路が通る内包後脚に限局した脳卒中患者10名を対象とし、3ヶ月間のリハビリテーションを行う過程で、運動機能の回復と拡散テンソル画像により神経線維の状態を調査しました(Takenobu Y, 2013)。

 

 その結果、運動機能の回復とともに、錐体路では神経線維の変性が進み、赤核では神経線維の増加(再構築化)が認められました。

f:id:takumasa39:20160121120653p:plain

 *Fig.1:Takenobu Y, 2013より引用改変

 

 また、赤核の神経の再構築化と運動機能の回復に正の相関が示されました。

f:id:takumasa39:20160121121250p:plain

*Fig.2:Takenobu Y, 2013より引用改変

 

 これらの結果により、赤核の再構築化が運動機能の回復に寄与していることが示唆されたのです。

 

 動物実験では1990年後半から運動機能の回復に赤核の関与が示されていましたが、拡散テンソル画像というニューロイメージング機器の開発により臨床研究においても赤核の関与が示されたのです。しかし、運動機能の回復と赤核の神経再構築の関係はあくまで相関であり、因果関係があるとは言えませんでした。



◆ 運動機能の回復と赤核の神経再構築には因果関係がある

 

 2016年、年始から素晴らしいニュースが報告されました。生理学研究所名古屋市立大学の研究チームが脳卒中後の運動機能の回復と赤核の神経再構築には因果関係があるという研究成果を報告したのです(Ishida A, 2016)。

 

 Ishidaらは、脳の内包に限局した脳出血を生じさせたラットに集中的なリハビリを行い、リハビリを行わなかったラットと比較して運動野および赤核の構造的可塑性を調査しました。

 

 その結果、赤核における運動野から投射された神経線維が増加していることが示されました。

f:id:takumasa39:20160121123746p:plain

 *Fig.3:Ishida A, 2016より引用改変

 

 さらに最新のウイルスベクター二重感染法により、運動野と赤核を結ぶ神経回路を遮断すると、改善した運動機能が低下し、リハビリを行っていないラット同じ運動機能レベルになってしまうことがが示されました。

f:id:takumasa39:20160121125142p:plain 

*Fig.4:Ishida A, 2016より引用改変

 

 これらの結果から、運動野から赤核への投射が増加し、赤核の神経再構築が脳卒中後の運動機能の回復に寄与している因果関係が明らかにされたのです。

f:id:takumasa39:20160121144212p:plain

*Fig.5:Ishida A, 2016より引用改変 

 

 これは、動物実験で明らかにされたことを臨床実験で示し、臨床実験で生じた疑問を動物実験で明らかにするという翻訳神経学の成果と言えるでしょう。

 

 赤核は、爬虫類や鳥類などの前後肢の運動制御を行うことから進化的に古い脳部位とされてきました。そのため、系統的に進化したヒトでは赤核は退化していると考えられており、その機能的役割はベネディクト症候群の症状から不随運動の制御と推測されています。これらの研究結果は、脳卒中後のリハビリテーションが進化的に古い部位を活性化させ、構造的可塑性により運動機能の回復に寄与することを明らかにしたのです。

 

 今後は、大脳皮質−赤核−脊髄の神経再構築を促す新しいリハビリテーションの開発が期待されますね。

 

 脳卒中後のリハビリテーションは動物研究と臨床研究の翻訳神経科学に立脚しており、その研究成果を臨床で患者さんに生かすことが私たちセラピストの役目であると思います。

 

 

脳のしくみとリハビリテーション

シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう

シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう

シリーズ③:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①

シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②  

 

脳卒中リハビリテーション

脳卒中リハビリ①:バランス感覚には、足底感覚へのアプローチ! 

脳卒中リハビリ②:自転車トレーニングでは、速度一定でお願いします。

脳卒中リハビリ③:脳卒中早期からFES自転車運動で体幹機能を高めよう!

脳卒中リハビリ④:FES自転車運動は姿勢制御に効果的

脳卒中リハビリ⑤:自転車トレーニングは、ただ漕いでるだけじゃダメ。

脳卒中リハビリ⑥:自転車で突っ張る筋肉をほぐせるかも。

脳卒中リハビリ⑦:歩行スピードを高めたいなら、足関節背屈筋力を高めよう。

脳卒中リハビリ⑧:歩行距離をのばすには、やっぱり足関節背屈筋力?

脳卒中リハビリ⑨:上手に歩くためには、エンジンとブレーキ、どっちが大事?

脳卒中リハビリ⑩:歩行立脚期の機能改善には、この装具で。

脳卒中リハビリ⑪:遊脚期の足関節背屈を増強させる新しいトレーニング

脳卒中リハビリ⑫:視覚的フィードバックで知らないうちに歩行が変わる?

脳卒中リハビリ⑬:フィードバック療法で麻痺側の足を使えるようにしよう。

脳卒中リハビリ⑭:非麻痺側下肢も見逃すな。

脳卒中リハビリ⑮:ただ自転車を漕ぐだけではダメな根拠

脳卒中リハビリ⑯:片麻痺にもインソールは有効。

脳卒中リハビリ⑰:中殿筋への機能的電気刺激療法は、歩行の対称性を改善させます

脳卒中リハビリ⑱:効果的な立ち上がり練習の方法

脳卒中リハビリ⑲:立ち上がり動作と荷重感覚

脳卒中リハビリ⑳:筋力トレーニングだけでは効果なし

脳卒中リハビリ㉑:脳卒中後の回復メカニズムの新たな発見をキャッチアップしよう

 

 

Reference

Nudo RJ, et al. Neural substrates for the effects of rehabilitative training on motor recovery after ischemic infarct. Science. 1996 Jun 21;272(5269):1791-4.

Lemon RN. Descending pathways in motor control. Annu Rev Neurosci. 2008;31:195-218.

Takenobu Y, et al. Motor recovery and microstructural change in rubro-spinal tract in subcortical stroke. Neuroimage Clin. 2013 Dec 13;4:201-8.

Ishida A, et al. Causal Link between the Cortico-Rubral Pathway and Functional Recovery through Forced Impaired Limb Use in Rats with Stroke. J Neurosci. 2016 Jan 13;36(2):455-67.

 

「説明がわからない」「これが知りたい」などのご意見はTwitterまでご気軽にご連絡ください。