リハビリmemo

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脳卒中の超早期リハビリテーション論争 AVERTⅢの全容と批判


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  これまで脳卒中の超早期リハビリテーション論争の歴史と推奨派、反対派の主張を見てきた。

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ①

脳卒中の超早期リハビリテーション論争 まとめ②

 

 今回は、2015年に発表された超早期リハビリの大規模RCTであるAVERTⅢの内容と2016年に入って発表されたAVERTⅢへの批判論文をご紹介する。このような批判的吟味を通じて脳卒中の超早期リハビリは新たな展開へ進んでいく…

 

 

◆ AVERTⅢの全容

 

 2015年4月、雑誌The Lancetに脳卒中の超早期リハビリの効果を検証した大規模RCTであるAVERTⅢが掲載されると医学界に激震がはしった。

 

 AVERT(A very early rehabilitation trial)の研究グループは、2006年よりオーストリアをはじめ北欧5カ国で脳卒中患者2,104名を対象とする大規模調査を開始した。

 

 対象者は脳卒中後24時間以内に座位や起立などの離床動作を行う超早期リハビリグループ(n=1,054)と一般病院で行われる通常ケアグループ(n=1,054)にランダムに分けられ、発症後3か月後の転帰から超早期リハビリの効果を検証したのである。

 

 その結果は驚きのものであった。

 

 脳卒中の改善度をみるmRS(modified Rankin Scale)は、両グループに有意差は認めなかったが、通常ケアで改善する傾向が見られた。

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Fig.1:AVERT Trial Collaboration group, 2015より引用

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* mRSの判定基準:脳卒中ガイドラインより引用

 

 さらに50m歩行の自立までの時間を比べると、両グループにおいて有意差は認められなかった。

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Fig.2:AVERT Trial Collaboration group, 2015より引用

 

 死亡数、合併症などの有害事象の発症率においても両グループでは有意差は認められなかった。

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Fig.3:AVERT Trial Collaboration group, 2015より引用改変

 

 サブグループ解析でも両グループに有意差はなかったが、重度の脳卒中脳出血では超早期リハビリで転帰が不良であった。また、r-tPA使用の影響は両グループともに見られなかった。

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Fig.4:AVERT Trial Collaboration group, 2015より引用改変

 

 AVERTの研究グループはこの結果から「超早期リハビリは通常ケアよりも脳卒中発症3ヶ月の転帰において明らかな改善効果を示せなかったが、いくつかのリサーチクエスチョンを浮かび上がらすことができた。今後は、さらに調査を進め、超早期リハビリの効果について検証したい」と述べている(AVERT Trial Collaboration group, 2015)。

 

 8年間におよぶ大規模RCTの結果は「超早期リハビリに有効性はない」というものだったのだ。



◆ 推奨派の反論

 

 脳卒中の超早期リハビリの是非は30年にわたり議論され、多くのRCTで超早期リハビリの有効性が示されるとともに、各国の脳卒中ガイドラインでも推奨されていた。

脳卒中の超早期リハビリテーション論争①

 

 しかしながら、超早期リハビリにはいくつかのリスクの存在が示唆され、推奨派と反対派の議論は続いていた。

脳卒中の超早期リハビリテーション論争②

 

 そしてAVERTⅢの結果を受けて、超早期リハビリの推奨派の主張はもろくも崩れ去ったのである。

 

 脳卒中では特異的な廃用性筋萎縮が生じる。また、脳卒中の機能回復の基盤である神経可塑性脳卒中発症後から数週間が最も効果的であることが示されている。そのため、脳卒中後のリハビリはなるべく早い時期から開始しようというのが推奨派の主張であった。しかし、AVERTⅢの結果では超早期リハビリに機能改善や合併症予防における優位性は認められなかった。

 

 日本においてもAVERTⅢの結果は各メディアを賑わせた。

 「脳卒中後の超早期離床、かえって転帰を悪化」日経メディカル

 「脳卒中の超早期リハビリは、効果なし?」MEDRYニュース

 

 このような逆風が渦巻く中、推奨派は反論に転じる。

 

 2016年1月、雑誌Strokeに「Critique of A Very Early Rehabilitation Trial(AVERTへの批判)」という論文が掲載された。

 

 チューリッヒ大学のLuftは「AVERTⅢはアウトカムの適性が低くく、通常ケアグループの介入時期が定まっておらず、結果の妥当性が疑われる。AVERTⅢの結果は患者の長期臥床を許す風潮を強めてしまう」と疑義を論じた。

 

 確かにAVERTⅢの主要アウトカムであるmRSは6段階の順序尺度であり、Barthel indexのような比率尺度のアウトカムを用いた方が結果の妥当性や意味合いが適切だろう。事実、AVERTⅢではmRSの0-2を良好な転帰と定義しているが、0-3に定義を変えると超早期リハビリは有効であるという結果になる。

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Fig.5:AVERT Trial Collaboration group, 2015より引用改変

 

 また、脳卒中発症から介入までの時間は、超早期リハビリが18.5時間であるのに対して、通常ケアは22.4時間であり、その差は4時間ほどである。超早期リハビリの9割が24時間以内に離床活動を始めたのに対して通常リハビリでも6割が開始していた。

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Fig.6:AVERT Trial Collaboration group, 2015より引用改変

 

 Luftは、この背景には一般的な通常ケアにも早期リハビリの概念が浸透しつつあるためだと述べている。AVERTⅢが行われた8年間において、通常ケアでは毎年28分づつ介入時期が早まったというデータがこの主張を裏付けている。

 

 最後にLuftは、AVERTⅢは離床活動の開始時期とともに、量、頻度の規定がなされておらず、このような研究の妥当性は疑わしいと結論づけている(Luft AR, 2016)。

 

 AVERTの研究グループはLuftらの批判を受ける中、AVERTⅢとは異なった分析方法を用いて、再度、解析を進めていた。

 

 そして2016年6月、雑誌Neurologyにその結果が掲載された。その内容は脳卒中の超早期リハビリの新たな展開を示唆するものであった。

 

 

脳卒中の超早期リハビリテーション論争

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脳卒中の超早期リハビリテーション論争 そして新たな展開へ

 

Reference

AVERT Trial Collaboration group, et al. Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT): a randomised controlled trial. Lancet. 2015 Jul 4;386(9988):46-55.

Luft AR, et al. Critique of A Very Early Rehabilitation Trial (AVERT). Stroke. 2016 Jan;47(1):291-2.