脳卒中後の歩行障害の問題点。
それは、「麻痺側下肢の不使用」と言われている。
麻痺側下肢の不使用は、歩行スピードの低下・転倒リスクの増大に起因する(参照)
この麻痺側下肢の不使用の改善を目的として、体性感覚・聴覚フィードバック療法が歩行能力、バランス能力に与える影響について検証した報告。
reference)
Clinical Rehabilitation, 2011
被験者は、発症6ヶ月以内の脳卒中患者35名。
介入群(17名)、対照群(18名)に分けられ
両群ともに、1回30分、通常のトレーニングを週5回、3週間継続した。
介入群には、下記の体性感覚・聴覚フィードバックを付加した。
a)外側ウェッジ:非麻痺側に用い、麻痺側立脚への荷重を促すために使用(体性感覚フィードバック)
b)圧センサー:麻痺側に用い、麻痺側立脚時の荷重量をフィードバックするために使用(聴覚フィードバック)
c)フットスイッチ:非麻痺側に用い、麻痺側遊脚時の時間をフィードバックするために使用(聴覚フィードバック)
効果判定として、両群ともに全トレーニング期間の前後で、歩行・バランス能力のアウトカムを計測した。
・歩行スピード
・歩幅の非対称率
・立脚期時間の非対称率
・バランステスト(Berg balance scale)
・応用歩行テスト(Time up and go test)
・立位時の麻痺側下肢の荷重量(%body weight)
その結果、対照群に比し、介入群では、歩行スピード、立脚期時間の非対称率、立位時の麻痺側下肢の荷重量で有意な増加、改善が認められた(P<0.05)。また、バランステストの改善が示唆された(P=0.06)。しかしながら、歩幅の非対称性、Time up and go testでは改善が示されなかった。
体性感覚・聴覚フィードバックは、麻痺側下肢への荷重を促し、歩行、バランス能力の改善に寄与する可能性が示された。
とのこと。
ヒトは、動作を代償する能力を有しており、この代償動作を長期間、繰り返すことで潜在的に動作が最適化される。結果として最適化された歩行パターンは、「麻痺側下肢の不使用」を作り出してしまう。
今回の報告では、インソール型の体性感覚・聴覚フィードバックを用いて、麻痺側下肢への荷重が促され、麻痺側下肢の使用が改善された一定の効果を示している。しかしながら、Time up and go testのような起立・着座、方向転換など、多様な注意の要求や麻痺側下肢の使用場面では、改善が見られなかった。これは、3週間というトレーニング期間では、「麻痺側下肢の使用」が潜在的に学習されなったのかもしれない。顕在的なフィードバックにより改めて動作の潜在化を図るには、「長い目」で見ていく必要があるのかも。
脳卒中リハビリシリーズ
脳卒中リハビリ①:バランス感覚には、足底感覚へのアプローチ!
脳卒中リハビリ②:自転車トレーニングでは、速度一定でお願いします。
脳卒中リハビリ③:脳卒中早期からFES自転車運動で体幹機能を高めよう!
脳卒中リハビリ④:FES自転車運動は姿勢制御に効果的
脳卒中リハビリ⑤:自転車トレーニングは、ただ漕いでるだけじゃダメ。
脳卒中リハビリ⑥:自転車で突っ張る筋肉をほぐせるかも。
脳卒中リハビリ⑦:歩行スピードを高めたいなら、足関節背屈筋力を高めよう。
脳卒中リハビリ⑧:歩行距離をのばすには、やっぱり足関節背屈筋力?
脳卒中リハビリ⑨:上手に歩くためには、エンジンとブレーキ、どっちが大事?
脳卒中リハビリ⑩:歩行立脚期の機能改善には、この装具で。
脳卒中リハビリ⑪:遊脚期の足関節背屈を増強させる新しいトレーニング
脳卒中リハビリ⑫:視覚的フィードバックで知らないうちに歩行が変わる?
脳卒中リハビリ⑬:フィードバック療法で麻痺側の足を使えるようにしよう。
脳卒中リハビリ⑭:非麻痺側下肢も見逃すな。
脳卒中リハビリ⑮:ただ自転車を漕ぐだけではダメな根拠
脳卒中リハビリ⑯:片麻痺にもインソールは有効。
脳卒中リハビリ⑰:中殿筋への機能的電気刺激療法は、歩行の対称性を改善させます
脳卒中リハビリ⑱:効果的な立ち上がり練習の方法
脳卒中リハビリ⑲:立ち上がり動作と荷重感覚
脳卒中リハビリ⑳:筋力トレーニングだけでは効果なし
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