前回、お話した片麻痺歩行のエネルギーコストを如何に減らすかについて思考を深めてみたい。
reference)
Gait & posture, 2005
片麻痺患者と健常者を同じ速度で歩行した場合、歩行パラメーターにどのような相違が生じるか検討した報告。
片麻痺患者6名、健常者6名を対象とし、トレッドミル上で同じ歩行速度で歩行する課題を与えた。歩行パラメーターは、足低圧センサーによる推進力、動作解析装置による経時的肢位の変化とし、さらに、運動エネルギー(Kinetic energy: KE)、位置エネルギー(Potential energy of gravity: PEG)を計測し、エネルギーコスト(Mechanical energy: ME=KE+PEG)を算出した。
その結果、
①麻痺側下肢
・pre-swingの推進力低下
・遊脚期時間の増大
・toe-off、mid swingの膝屈曲可動域の低下
・遊脚期の麻痺側骨盤の挙上
・遊脚期の下肢外旋
②非麻痺側下肢
・loading responseからmid stanceまでの急激な位置エネルギーの上昇
が認められた。
非麻痺側下肢に認められた立脚初期の位置エネルギーの増大が片麻痺歩行のエネルギーコストの増大の要因としている。また、そのメカニズムは、麻痺側下肢の遊脚期に生じる推進力の低下、膝屈曲可動域の低下、足部クリアランス低下(代償的な下肢外旋)を代償するために骨盤を挙上させ、遊脚期時間を増大させていることが関与していると推測している。
この報告を読む限りでは、麻痺側pre-swingからmid-swingでの足関節底屈、膝関節の屈曲(股関節の屈曲)による推進力を如何に高めるかが、ポイントになるのだろう。
しかし、私は、麻痺側立脚期にもエネルギーコスト増加の要因があるように思う。片麻痺歩行の筋活動パターンを調査した報告(参照)では、麻痺側でなく、非麻痺側立脚期の異常筋活動が認められている。この研究では、前脛骨筋と腓腹筋の同時収縮している時間の立脚期に占める割合を同時収縮指数(co-activation index)として算出し、非麻痺側において同時収縮指数が大きいことが報告されている。このことから、非麻痺側の足関節底屈モーメントが発揮されない原因として、麻痺側の支持性低下が考えられ、麻痺側の支持性の低下により、非麻痺側で駆動力を調整する必要が生じ、前脛骨筋の活動による重心の後方制御が機能していると推察されている。
歩行は、生じた推進力を制動する力も求められる。つまり、制動力と推進力とがリズミカルに供給されることで歩行時の効率的な重心移動がなされる。推進力だけでなく、制動力にも目をむけても良いのでは?
脳卒中リハビリシリーズ
脳卒中リハビリ①:バランス感覚には、足底感覚へのアプローチ!
脳卒中リハビリ②:自転車トレーニングでは、速度一定でお願いします。
脳卒中リハビリ③:脳卒中早期からFES自転車運動で体幹機能を高めよう!
脳卒中リハビリ④:FES自転車運動は姿勢制御に効果的
脳卒中リハビリ⑤:自転車トレーニングは、ただ漕いでるだけじゃダメ。
脳卒中リハビリ⑥:自転車で突っ張る筋肉をほぐせるかも。
脳卒中リハビリ⑦:歩行スピードを高めたいなら、足関節背屈筋力を高めよう。
脳卒中リハビリ⑧:歩行距離をのばすには、やっぱり足関節背屈筋力?
脳卒中リハビリ⑨:上手に歩くためには、エンジンとブレーキ、どっちが大事?
脳卒中リハビリ⑩:歩行立脚期の機能改善には、この装具で。
脳卒中リハビリ⑪:遊脚期の足関節背屈を増強させる新しいトレーニング
脳卒中リハビリ⑫:視覚的フィードバックで知らないうちに歩行が変わる?
脳卒中リハビリ⑬:フィードバック療法で麻痺側の足を使えるようにしよう。
脳卒中リハビリ⑭:非麻痺側下肢も見逃すな。
脳卒中リハビリ⑮:ただ自転車を漕ぐだけではダメな根拠
脳卒中リハビリ⑯:片麻痺にもインソールは有効。
脳卒中リハビリ⑰:中殿筋への機能的電気刺激療法は、歩行の対称性を改善させます
脳卒中リハビリ⑱:効果的な立ち上がり練習の方法
脳卒中リハビリ⑲:立ち上がり動作と荷重感覚
脳卒中リハビリ⑳:筋力トレーニングだけでは効果なし
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