読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

リハビリmemo

大学病院勤務、大学院リハビリテーション学所属の理学療法士による、研究と臨床をつなげるための記録

歩行の起源

スポンサーリンク

 

 われわれの歩行は、どのような進化の過程で構築され、適応してきたのだろうか?

 今回は、歩行の起源と題し、以下について最近の知見をもとに考察してみた。

 

・ヒトはいつ、二足歩行を獲得したのか?

・ヒトはなぜ、二足歩行になったのか?

・二足歩行を洗練させた要素とは?

 

◼︎いつ、二足歩行を獲得したのか?

 

 様々な仮説があるが、現在の有力説は、2011年に発表されたCromptonらの足型解析による研究報告である。この報告によるとタンザニアのLaetoliにある370万年前のアウストラロピテクス・アファレンシスの足型の解析によって、その頃にはもうすでに現代人のような直立二足歩行を行っていたことが示された(Crompton RH, 2011)。この報告により、約400万年前に人類は二足歩行を獲得していたと推測されている。

f:id:takumasa39:20150528143351j:plain

 上の写真(a)はアウストラロピテクス・アファレンシスの足型である。下の写真は足型から得た圧力分布であり、左(b)はアファレンシス、右(c)は現代人である。アファレンシス踵の圧分布や土踏まずの形状などが現代人の足型と似ており、二足歩行を行っていた根拠になっている。

 

 ヒトが二足歩行を獲得した環境的要因として、サバンナ仮説がある。サバンナとは、アフリカ・南アメリカなどの熱帯・亜熱帯の草原地帯のことである。ヒトはもともと森林で生息していたが、気候変動により、森林が徐々にサバンナになっていった。これにより、背の高い草の上を見渡して捕食動物を見つける必要性から人類は二足歩行をするようになったというものである(Cerling TE, 1997)。しかし、これまで人類が生息していたアフリカ東部は、200万年前まで森林に覆われていたと考えられており、二足歩行を獲得した時期とサバンナ仮説の時期の差異が生じていた。

 

二足歩行を獲得した時期:400万年前

サバンナ仮説:200万年前?

 

 2011年にNatureでCerlingらは、土壌サンプルの分析結果と世界の熱帯地帯の衛星写真を総合した結果、600万年前よりサバンナの相当部分は常時存在していたことを報告した(Cerling TE, 2011)。この研究結果から、現在、人類が二足歩行を獲得されたと考えられる約400万年前以前から森林ではない開けた土地が存在し、それもかなり広い範囲に広がっていたことが示された。これにより、サバンナ仮説と二足歩行を獲得した時期の差異がなくなり、サバンナ仮説は二足歩行獲得の環境的要因としてコンセンサスを得ている。

 

 以上から、「ヒトは気候変動によるサバンナ化により生活の場所を森林から草原に移し(サバンナ仮説)、約400万年前に二足歩行を獲得した」というのが現在の通説となっている。

 しかし、サバンナ仮説のような環境的要因では、直接的に姿勢や移動の形態を変える理由にはならない。それでは、なぜ、ヒトは二足歩行という移動形態を獲得したのだろうか?

 

◼︎なぜ、二足歩行になったのか?

 

 これにも様々な仮説があるが、有力なのは2012年に発表されたCarvalhoらの研究結果である。この研究では、チンパンジーの行動を調べて、チンパンジーは、いつ、なぜ、二足歩行をするのかというのを明らかにした。チンパンジーに2種類のナッツを提示した。ひとつはどこにでもある一般的なナッツであり、もうひとつは大好物で希少なクーラというナッツであった。その結果、チンパンジーは、一般的なナッツは無視して、クーラだけを運んだ。クーラのような希少な食料に遭遇した場面では、チンパンジーが二足歩行になる頻度が一般的なナッツを運ぶ場合と比べて4倍に増加した。さらに、一回の運搬でできるだけたくさん運ぼうとして、両手だけでなく、口までも使い運んだのである。

f:id:takumasa39:20150528143324j:plain

 パパイヤの実を多く運ぶために両手だけでなく口にくわえて二足歩行するチンパンジー。

 この結果より、クーラのような貴重な資源を確保しようとする場合、チンパンジーは二足歩行を行いやすいことが明らかになった。その理由は、一度にたくさん運べるというシンプルなものであった。この研究の結論は、「限られた資源を独占するために、1回にできるだけ多くの資源を持ち運ぼうとして二足歩行を始めた」というものである(Carvalho S, 2012)。

 人類は、気候変動による急速なサバンナ化により食料という貴重な資源を確保する必要があった。そのような場面では、1回の運搬でより多くを運ぶことが生存率を高める。そのため、二足歩行をする選択圧が働くようになり、進化の過程で二足歩行が常態化したと推測されている。

 しかし、資源を確保し、短い距離を運ぶためだけに二足歩行は常態化するのであろうか?現在のような運動学的に洗練された二足歩行を構築した要因なのだろうか?

 

◼︎二足歩行を洗練させた要素とは?

 

 生活の場を森林から草原へ移動した人類は、狩猟や採集した希少な食料を多く運ぶために二足歩行を行うようになった。それと同時に、獲物や果実や野草を探すため、地上を歩きまわる生活が数百万年単位で続いたと考えられている。狩猟採集時代の移動の基本単位は家族と推測されており、アフリカの狩猟採集民の事例から、遊動型・半定住型・定着型の3分類に区別されている。しかし、この3類型を基本としつつも、気候変動や流行病などにより長距離移動は避けられないものであった。これにより、人類の二足歩行は、長距離移動に適した身体および歩行様式を獲得したことが仮説として述べられている。 

 狩猟採集時代は食料は希少であり、食料を保存する知識も技術もない。よって、長距離移動では、エネルギーの節約が求められ、必要最小限のエネルギーコストで歩行する歩行様式が選択され現在まで存続されてきたと推測されている(池谷和信, 2014)。

 

 二足歩行を洗練した要素は、低エネルギーコストなのである。

 

 ヒトは気候変動により森林から追い出され、草原で生きていくことになった。資源の少ない草原という外的環境に適応するために二足歩行を獲得し、多くの資源を探すために少ないエネルギーで歩ける歩行様式に適応したのである。そして、われわれの二足歩行も現代の内的・外的環境に適応し続けている。

  ここに歩行の適応の本質が垣間見える。



歩行のしくみとリハビリテーション

歩行のしくみ①:CPGについて考えよう

歩行のしくみ②:歩行適応について考える 

歩行のしくみ③:歩行適応の神経メカニズム

歩行のしくみ④:歩行を早く適応させる2つの方法

歩行のしくみ⑤:歩行を早く適応させる2つの方法・その2

歩行のしくみ⑥:歩行の起源

歩行のしくみ⑦:歩き方をデザインする基準

歩行のしくみ⑧:歩行適応における踵接地の役割 

歩行のしくみ⑨:加齢により歩行の適応能力は変化する?①

歩行のしくみ⑩:加齢により歩行の適応能力は変化する?②

歩行のしくみ⑪:歩行速度で余命を予測しよう

歩行のしくみ⑫:歩行速度で転倒リスクを予測しよう

歩行のしくみ⑬:脳卒中後の歩行速度とQOL

歩行のしくみ⑭:生体力学が教える速く歩くためのポイント 

歩行のしくみ⑮:生体力学が教える速く歩くためのポイント②

歩行のしくみ⑯:脳卒中の発症部位と歩行速度

歩行のしくみ⑰:ヒトの皮質網様体路と歩行制御

 

Reference

Crompton RH, et al. (2011) Human-like external function of the foot, and fully upright gait, confirmed in the 3.66 million year old Laetoli hominin footprints by topographic statistics, experimental footprint- formation and computer simulation. J. R. Soc. Interface 9; 707–719.

Cerling TE., et al. (1997). Global vegetation  change through the Miocene/Pliocene boundary. Nature 389; 153–158.

Cerling TE, et al. (2011) Woody cover and hominin environments in the past 6 million years. Nature 476; 51-6.

Carvalho S, et al. (2012) Chimpanzee carrying behaviour and the origins of human bipedality. Current Biology 22(6); 180-1.

池谷和信(2014)「熱帯地域における狩猟採集民の移動の特徴」人類の移動誌 第2節P69-85

 

「説明がわからない」「これが知りたい」などのご意見はTwitterまでご気軽にご連絡ください。